第387話 シシトが殺されたあとは
「ご苦労さん」
「これでいいんですか?」
魔法少女から元の制服姿に戻った二人は、訝しげにコタロウを見る。
着替える途中で、当然のように全裸になった二人だが、それはコタロウにはまったく通用しなかった。
もちろん、訝しげな目をしているのは、コタロウもロリコンではないかと伺ったわけではない。
もっと、重要な事の確認だ。
「私たちなんかの攻撃で死ぬなら、お兄さんが死ぬことはないんじゃないですか?」
二人の当然の疑問に、コタロウは答える。
「……その杖の効果に、全裸になる機能を付けたとき、シンジはいい顔をしなかった。多分、二人を利用しての攻撃を、シンジは想定していない」
シンジの顔を思う浮かべ、コタロウは苦笑する。
「あの駕篭獅子斗を殺すとき、シンジに出来ること、俺に出来ることは当然シンジも考えていたはずだ。あらゆる手段を考慮したうえで、シシトは殺せないという判断をした」
コタロウは、シシトの方に目をやる。
また、頭部が膨れて、死んでいた。
「だから、シンジが忌避している方法なら、シシトを殺しきることができるんじゃないかって思ったんだ」
「それが、私たちの裸を利用した攻撃ですか」
「ああ、その攻撃は、攻撃対象の『性欲』を、『欲望』をほとんどそのまま攻撃に転用している。つまりは、『魔』、『神体の呼吸法』で攻撃しているように、HPとかあらゆる防御を貫通して攻撃できる」
シシトは膨れては死に、生き返っては死んでいる。
「レベルをカンストしていようが、ヤクマの薬で強化しようが関係ない。『神』の攻撃は、次元は違う」
膨れて、死んで、生き返ってはまた膨れて、……何度も何度も死に続けるシシトの枯れない愛……いや、『性欲』を見てコタロウは目を細める。
「……つまり、シシトが二人に欲情している限り、死に続けるってことだ」
そして、おそらくだがシシトという男の欲情、彼の言葉で言うなら「愛」は枯れることがない。
特にネネコに対する愛は彼の最愛の人であるマドカに匹敵するだろう。
その頑なにまで枯れない「愛」によって引き起こされた惨劇からも、そのことはわかる。
彼は自らの手でロナ達を殺しても、「愛」するためにその責任をシンジになすりつけるような奴である。
今、ネネコ達に欲情してシシトは死に続けているが、謎の思考によっておそらくはその責任の全てをシンジにしているだろう。
つまり、シシトのネネコ達に対する欲情は終わる事がない。
例え、一億回以上死に続けても、だ。
「見苦しいな。アレ、別の空間に移動させるけど、何か言うことはあるか?」
コタロウは、一応気を遣って、ネネコに聞いてみる。
そんなコタロウからの問いに、ネネコはシシトの方を見ることもなく、言う。
「何も、早く消してください」
「わかった」
コタロウは、シシトを別の空間に閉じ込める。
そこは、地球と似た環境だが、何もない場所。
最もコタロウが消費しないただの空間であり、己の性欲で、実の妹に対する性欲で死に続ける男にはふさわしい殺風景な場所だった。
「……コタロウ」
全てを終えて、コタロウはネネコ達を連れてシンジの元へ戻る。
「ただいま、シンジ」
「そうか……二人に渡した杖を使ったのか」
ネネコとヒロカを見て、シンジはすぐに何があったのか察する。
「……ゴメンね」
実の兄に裸を見られ、欲情させ、殺す。
端的にまとめると、あまりにもむごい所業だ。
ゆえに、謝罪の言葉を口にしたシンジだったが、そんなシンジの言葉に、二人は首を振る。
「謝らないでください。これは、私たちが望んだことです。あの男を一番許せないのは……いや、許してはいけないのは、私ですから」
ネネコの目に涙はない。
枯れていて、冷えていて、痛々しい。
「二人のおかげで、シシトは死に続ける。永遠に、取り込んだ命を使い切るまで……だから、あとはアレを殺すだけ」
コタロウが指さす先には、ニヤニヤと笑っている女神。
セラフィンがいた。
「……お見事、といっておきましょうか。元勇者、コタロウ。まさか勇者シシトを、実の妹を利用して封殺するとは……いやいや、普通はできませんよ? 善良な者なら。正直、ドン引きです」
セラフィンは、自分の肩を抱いて震えてみせた。
「お前の評価なんてどうでもいいが……それで、どうするつもりだ? ご自慢の勇者は、もう使えない。仮にシシトに一億の命が内包されていても、いずれ尽きる」
「そうですね、困りました。私はただのか弱いマスコットキャラクター……いや、今の姿だと、女王……女神のような存在です。美しい兄妹愛を利用する残虐な魔王達を相手に戦うなんて、怖くてできません」
きゃーこわーいと、セラフィンは妙に高い声で言う。
「どうしましょう。困った困った……ねぇ、明星真司? 戦う術を失った女神は……か弱い女の子は、一人でどうしたら良いと思います?」
一歩下がり、コタロウの背後にいたシンジに、セラフィンは問う。
そんなセラフィンからの質問に、シンジは呆れたように答えた。
「どうしたらも何も……嘘ばかり並べるな。戦う術も、何もかも、お前は失っていないだろ」
シンジの答えに、セラフィンは笑みを浮かべる。
「コタロウ、海を映してくれ」
「……海?」
「この国の海域が一望出来ればそれでいい」
シンジの指示通り、コタロウは元の世界に空間をつなげる。
「なっ!?」
その写し出された光景に、シンジとセラフィン以外の者が驚きの声を上げた。
海に映し出されたのは、巨大な金属の塊。
無数の兵器。
つまりは、戦艦の数々。
その戦艦が掲げている旗は様々であり、数えるのも馬鹿らしくなる。
「ふふ……素晴らしいでしょう。この世界の者は翼もなく、角も生えない脆弱な肉体ですが……武器を作る能力だけでは、認めましょう」
セラフィンは満足げに笑っている。
「……現代兵器? 戦艦……それにしても、この数は……どうやって……」
驚き、つぶやくコタロウにセラフィンは自慢げに語る。
「私は天使。天の使い。勇者シシトがそうであったように天からの使者の声に耳を傾けないモノはいないでしょう」
「なるほど、上から殺していったな? 順番に」
シンジの答えに、セラフィンは笑みを強くする。
「いくらあの羽虫の職業が『先導者』で、『導き』ってベクトルを操作する洗脳に近い能力でも、国の首相や、軍の指揮権を持つ幹部以上を全員操れるとは思えない。操れないヤツを殺していっただろ?順番に」
「ふふ、まぁ、話を聞いてくれない者はいましたね。愛のない方々は眠った方がいいでしょう」
シンジの予想は正解なのだろう。
「じゃあ、各国の軍隊だっていってもあの羽虫に操られる程度の人間しかいないということですか?」
ユリナの質問に、シンジは映像を見ながら答える。
「……あの集団のリーダーは、アレか。コタロウ。先頭のデカい赤い船と青い船を映してくれ」
「……あ、あぁ」
大量の戦艦に驚きを隠せないコタロウは、シンジに指定された船をアップで映す。
すると、すぐに驚愕の声を上げた。
「こ、コイツら!!」
コタロウが驚いたのは、コタロウやシンジと同年代の少年達の姿を見たからだ。
彼らは、偉そうに軍服を着ている大人達に何やら命令をしている。
「さすがに覚えていましたか。聖域の勇者。彼らは貴方と一緒に呼び出された4人の……いや3人勇者。その二人。聖健と聖救の勇者です。懐かしいでしょう?」
セラフィンの言葉に、コタロウは嫌悪感を浮かべる。
「懐かしい? せっかく害虫を倒したのに、汚物を見つけた気分だよ」
「……何かあったのか?」
シンジの質問に、コタロウは険しい顔のまま言う。
「簡単に言うと、方向性の違うシシトが二人、あそこにいると思ってくれ」
コタロウの答えに、シンジを含めその場にいる女性達は心底嫌そうな顔を浮かべた。
世界がデスゲームになったので楽しいです。 おしゃかしゃまま @osyakasyamama
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