校長先生の話をなんとかし隊

ちびまるフォイ

ハイジ「校長はなぜ~♪ 話が長いの~♪」

「ええーー。みなさん、これから春休みかと思いますが

 節度を持った休みを過ごすように心がけつつも

 日々の変化やニュースも見て犬歯を深めて有意義なーー」


校長先生の話という名の催眠術が始まると、

もう立っているのも辛いし、睡魔と戦うのもキツイ。


「今日も校長先生の話長かったなぁ」

「どうしてあんなに話長いんだろうな」

「話の長さで給料とか変化するのかな」


あまりの長さに貧血で倒れる女生徒も多数。

校長先生が壇上に現れた瞬間に条件反射で恐怖するものまで出てくる始末。

そのうえ、


「なに寝てやがんだコラァ!!」

「だってつまらない話なんだもん!」


眠りこけていた生徒にはもれなく先生からの愛のムチ(物理)をふるわれた。。

みっちり怒らせた生徒たちは打開策を話し合った。


「なぁ、校長先生の話の後ろでBGM流せばいいんじゃね?」


「BGM?」


「クソつまんなくて長い話でも好きな曲かけたりしたら

 多少は楽しくなると思うんだ」


「なるほど!!」


クラスの賛同を得たところで、まずは校長先生の年齢チェックから始まった。

そのままBGM流したら悪さがバレて担任の先生にしこたま怒られる。

そこで校長先生の老耳には聞こえない可聴領域を探し出した。


校長先生の長話が始まると、放送室ではやりの曲を流した。

校長先生はもちろん、ほかの先生にも聞こえない周波数帯で流している。

耳が若い生徒だけがノリノリなハウスミュージックを聞いていた。


「すげぇ! 効果覿面だな!」

「校長先生の話なのに全然苦にならない!」

「むしろもっと聞いていたいくらい!」


校長先生も理由はわからないが生徒が傾聴するもんだから嬉しくなって

自分のATMの暗証番号まで明かすほど話してしまった。


「いやぁ、大成功だったな。これからどんどんBGMを流していこうぜ」


「それで、貴様ら、校長先生はどんな話をしていたのか覚えているのか?」


鬼が島の鬼も島から飛び出すほどのドスの聞いた声。

おそるおそる振り返ったときには担任の先生が怖い顔で立っていた。


BGMには気づかれなかったものの、校長先生の話をろくに聞いていなかったことで

担任の先生からしこたま怒られた生徒たちだったが諦めはしなかった。


「なんとか校長先生の話を頭にいれつつも、

 あの拷問の時間をなんとかできないかなぁ」


「あ! 思いついた! 漫才形式にすればいいんじゃない!?

 それなら内容も聞けるし、面白いから退屈しないよ!」


「「「 それしかない!! 」」」


生徒たちは、その日の給食をいけにえに漫才師の幽霊を召喚。

校長先生の立つ壇上の横に立てて、漫才をさせることにした。


「えーー、今日はパンダのお話をしたいと思います。

 みなさんも、動物園にパンダの赤ちゃんが来たのは知ってますよね」

『話題ありきたりすぎるやろ!』


「パンダはかわいく見えて、あの模様で目を強調して威嚇しています。

 みなさんも見た目には騙されてはいけませんよ」

『お前のヅラはとっくにバレとるで』


校長の長い話にツッコミを入れる漫才師のおかげで

長い話も全然苦じゃないし、もっと聞きたくなるほど。

楽しい時間は担任の先生の一喝によって幕が降ろされた。


「お前ら、笑いすぎだ!!!」


再びこっぴどく怒られた。

明らかに笑えるタイミングじゃないのに

生徒が肩を震わせて笑うものだから担任も異変に勘付いたのだ。


「どうする? やっぱり校長の話を楽しくするなんて無理だよ」

「なにをしたってどうせバレて怒られるんだし」

「あぁ、もうちょっと興味のある話だったらなぁ」


「それだ!! それだよ! 思いついた!

 楽しい話にさせるんじゃなくて、楽しい話をさせればいいんだ!」


「どういうこと?」

「ふふふ、思い出してみろよ。校長先生の話のときのスタイルを」


「あ! いつもカンペ持ってる!!」


校長先生は事前に何を話すかしっかりカンペを用意していた。

話の最中に地震が起きて体育館が跡形もなく崩れた時も、

突然火山が噴火してあたりが焦土と化した時もカンペ通りに読み進行した。


「あのテープレコーダーより正確なカンペを

 俺たちが聴きたくなる話に書き換えちゃえばいいんだよ」


「よし、それじゃ話させる内容考えよう!」


「やっぱゲームの攻略情報だよな」

「プルキュアの話も入れようよ」

「カードゲームの話も入れようぜ!」


みんなの好きなことが全部乗せされたカンペは、

校長先生の話が始まる当日に、本物のカンペと差し替えられた。


「えーー、みなさん先週のプルキュアはご覧になったでしょうか。

 先週の放送では仲間になったミチエちゃんの願いをかなえるために

 みんながスカイダイビング応援をするという内容でしたが――」


校長先生はなんの疑いもなくカンペを読み進めていた。

作戦は大成功。生徒全員が興味ある話なので、貧血どころか血が湧き上がる。


「……ということで、最初のポカモンはフシギゼニを選ぶのが

 この先の冒険をもっとも効率的に進められる正解です」


いつもと同じ長さの校長先生の話だったのに、

制とは誰ひとり眠ることも、貧血で倒れることもなかった。興味の力ってすごい。

校長先生には惜しみない拍手とジャンピングオベーションが送られた。




しかし、校長先生は振り返った瞬間にブチ切れた。


「なに寝てやがんだコラァ!!」


「だってつまらない話なんだもん!」


担任の先生がぶっ叩かれたところで、ステージの幕が下りた。

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