第2話 えっ、そんなに逆境なんですか?

 はるか遠くに、大きな山が見えます。

あれは、私の今後の運命を左右すると言っても過言ではない物だそうです。

それを眺めながら、私はここに至るまでの記憶を整理していました。


***********************


「あんたの予想通り、転生先の環境は最悪だ」


 私の死因を教えてくれた男の人 ダンテさんは、暗い顔でそう告げました。

現世の幻想種が(悪意100%で)選んだ転生先なので、環境の悪さは想定の範囲内だったのですが、ここまで暗い顔で「最悪」と言われると、急に自信がなくなっていきます。


「具体的には?」

「……あんたの対応は、冷静すぎて怖いよ。

 本当に18歳だったんだよな? 魔術師だからか?」

「そういうのは結構です。 早く詳細を」

「………さっきも言った通り、1年後に転生先は滅亡する」


 正直、この断定した言い方は腑に落ちません

並行世界のことですから、将来を予測できるはずはないのですが。


「なぜ、そう言い切れるんですか?」

「ちょっと複雑な、転生先に関するややこしい話が関わってくるんだが……」


 この後、ダンテさんの長い長い説明が始まりました。

長いので要約します。 重要なことは3つです


 1、転生先の世界の生物は全て、ということ。


 霊脈は、その世界の各地に点在しており、近づけば近づくほど享受できるエネルギーが大きくなるという事らしいです。

そのため、霊脈に寄り添うように都市が形成されているとのこと。


 2、霊脈には規模があるということ。


 各地に点在している霊脈には規模があるらしく、それは首都に近くなればなるほど大きく、強大なものになるそうです。

また、地方霊脈も首都霊脈が供給するエネルギーによってその活動ができるという原理らしいので、とのこと。


 3、霊脈には寿命があり、首都霊脈の寿命が、およそ1年後にまで迫っているということ。


 はい、これが一番のポイントです。

要するに、寿1から、1年後に世界滅亡すると断言できるということなのです。


「━━と、その上で、だ」

「……まだあるんですか」


 本当に気が滅入ります。

どこまで現世の幻想種は意地が悪いんでしょうか。


「あんたは、転生先の幻想種との種族に転生する。

 何らかの形で協力させなければ、契約なんて夢のまた夢だ」

「………」


「しかも、魔術師にとっての目標であるは、とびきり強力な力を持った幻想種じゃなきゃできねぇんだが……って、魔術師であるアンタに、この情報は不要か」


 異世界でも、やはり仕様は変わらないのですね。

幻想種には、それぞれ有している魔力の量が異なるため、ランクというものが存在します。

そのランクは、一般人の知名度が左右しており、有名であればあるほどランクが高いということになります。

そのんです。


「アクセスできるような種族は、首都霊脈の付近にいる」

「………つまり?」

「……あんたは、敵対関係にある幻想種をやり過ごしながら首都霊脈付近までたどり着き、そこでランク最上位の種族と契約を結ぶっていう無理難題を課せられたってわけだ。 しかも、1年以内にな」


***********************


 ……というわけで、今に至ります。

心底気の毒そうな表情のダンテさんに見送られながら門をくぐると、そこには枯れ果てた木々しか障害物がないような荒野。

矢継ぎ早の説明と、無理難題と称された課題に、放心状態の私。

幸い、転生先の身体は元の世界とあまり変わらない少女のものでした。

ただ、正直、一番変わって欲しかった部位と言いますか、その……思春期の女子が一番、その……大きさを気にする部位も……変わってませんでした。


 ……とはいえ、蠅とかじゃなかった事は喜ばしいことですし、何も行動できないような赤ん坊でないことも喜ばしい限りです。

また、腰には自動小銃と大きめのナイフ。

おそらく、この身体の元の持ち主は この世界における、なんらかの軍事機関に所属していたのでしょう。

……身に纏ったセーラー服だけは不思議でならないのですが。

いや、元を辿れば軍服ですけど、私立高校の制服にしか……


 ……まぁ、些細なことです。気にしません。

仲間とはぐれているのか、単独行動をしているのかはわかりませんが、周囲に人の姿はありません。

敵地の可能性すらある知らない土地で1人という、これ以上ないほどに不安な状況の中で、私は必死に情報を整理していたわけです。


「……チェザーレ! なんでこんな所にいんのよ!?」


 急に背後から声が聞こえ、慌てて振り向いた先には、1人の少女。

やはり私と同じようにセーラー服を見に纏った、髪の長い少女。

気の強そうな表情が、私に威圧感を与えています。

きっと、チェザーレというのは元の身体の持ち主の名前でしょう。

「こんな所に」という言葉を聞く限り、元の身体の持ち主は所属部隊からなんらかの形ではぐれたのでしょう。


「……心配させないでよ。

 のかと思ったじゃない」


 ……

ということは、目の前の少女は比較的最近に、だれかに置いていかれたのでしょう。

それが死別によるものなのか、離反などによるものなのかはわかりませんが。

それより何より、困ったことが1つあります。


 何も情報がないのに、どうやって話を合わせたらいいんでしょう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生? したけりゃ億は用意しろ ささかま @sasakama015

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ