第1話 変わらない日常
「待って!クリス!行かないで!」
少女は必死に手を伸ばす。けれど、少年には届かない。武装した2人組に連れられ、クリスと呼ばれる少年は消えてしまった。
「どうして……、どうして私は―――――」
「どうして!」
少女は布団から起き上がる。無意識に伸ばした手の先には何も無い。
「あ、また……。」
目から涙が零れた。前にも同じことがあった。いや、何度も繰り返している。でも、何故か夢の内容は覚えていない。
「誰かを……呼んでいる?」
そんな曖昧なイメージだけが頭の中に残っていた。
「あら、ミラノ、起きたの?」
「あ、お姉様……。」
「あら?またあの夢を見たの?」
彼女はミラノの姉のエル。妹のシャルにも姉にも夢の話はしたことがある。そして、決まって目を覚ますと涙を流していることも……。
「大丈夫?」
エルは白いハンカチでミラノの涙を拭きながら微笑む。
「はい、大丈夫です……。」
ミラノはベッドから降りて水を飲む。
「最近はその夢を見ることが増えてきていないかしら?」
「少しずつ……。」
「心配ね……。」
エルは頬に手を当てながら何か考えているふうだった。だが、すぐに笑顔に戻って、
「服を着替えて顔を洗ってきなさい、ご飯ですから。」
「はい。」
ミラノはエルが部屋から出ていくのを見てから純白の衣装に着替える。これがこの地で定められた普段着なんだとか……。
脱いだ服を持って部屋を出る。階段を降り、庭に出る。服はいつもここにある泉で洗う。
服を泉の岸に置き、近くに腰掛ける。水を両手ですくい、顔にかける。数回繰り返してから、顔を上げる。
冷たい水で冴えた瞳に映る美しい風景。空は青く、白い雲が伸びている。明るい日差しに揺れる木々……。
「……いつも通りだな。」
これが彼女のいつもの朝、いつもの景色。
変わらない、永遠を生きる少女の日常だ。
「いただきます。」
エル、シャル、ミラノ、3人集まって朝食をとる。
「ミラノねぇ、大丈夫?」
シャルが心配そうに聞いてくる。
「ええ、大丈夫。ありがとう。」
シャルは口は少し悪いけれどすごく優しい子だ。
「何かあったらすぐに言ってよ?私が助けるから!」
「ええ、頼もしい妹だこと……ふふふ。」
「朝ごはんを食べ終わったら、ミラノは洗濯を、シャルは皿洗いをお願い。私は祈りを捧げできますから。」
「皿洗いかぁ……分かった!」
シャルは少し嫌そうだったが食べ終わった皿を集めて、すぐに泉に向かった。
「ミラノねぇもお皿、持ってきてね!」
「あ、ごめんね!すぐに行くから!」
ミラノも急いで完食し、皿を持って泉に向かう。
泉でシャルに皿を渡し、ミラノは置かれている服に手を伸ばす。1枚1枚丁寧に水に浸し、擦り、汚れを落としてゆく。
3人分を洗い終えた頃、シャルの方も終わったようだ。
「おわったよ。」
「じゃあ、お姉様のところに行きましょうか。」
「うん!」
シャルの手を繋いで3人の住む建物の近くにある建物に向かう。
大きな扉を開いて中に入ると、奥の方にエルが座っていた。両手を胸の前で合わせて目を閉じている。祈りを捧げているのだ。
ステンドグラスから入る7色の光がエルを照らし、幻想的な風景を作り出している。
しばらくしてエルが立ち上がった。
「お待たせしました。」
エルは入口の近くにいる2人の所まで来て微笑む。
「お姉様はやはり美しいですね……。」
「うん!エルねぇは綺麗だよ!キラキラしてた!」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、行きましょうか。」
少女たちの毎日はこれで始まる。次に向かう場所、その場所で少女たちは毎日唄う。
理由は教えられていないが、毎日、この時間に唄うのだ。
この世界には3人しかいない。そう信じている……。この平和な世界に外などないと思っていた……。
少女たちは今日も唄う。
散りゆく花びらとこの空に微笑みを プル・メープル @PURUMEPURU
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