第26話 護衛任務の終わり

「ぐはっ!」


ワガンは真城に殴られている。これが最後の1発だ。


「隊長!やっぱり、私達も殴られます!隊長だけが殴られるなんて耐えられません!」

「そうです!さあ、真城殿。私達も殴って下さい!」


「いや、ワガンが全部殴られた後に言っても意味が無いだろ」


けっして騎士団がドMや痛みで感じると言うような変態という訳では無い。

もちろん、真城が人を殴って楽しいという頭のイカれた奴でも無い。


俺が何故ワガンを殴っているのかというと話は2日前に遡る。


********************


「真城!?」

「真城さん!?」

「真城が負けたのか。まあ、勝つ方がおかしいか」

「私がこんな事にあったから。ごめんなさい」


真城がリーゼルとの戦いに敗れて30分後。

リーゼルと残った騎士団はイージスやリーゼル私兵の所に来ていた。

真城は騎士団の竜車の中で気絶したまま睡眠状態になっている。

サリナやミイナ、スミレ、かえりんが真城が寝ている竜車に駆け寄って真城がいる事に安堵し、心配になる。

かえりんやサリナは思うところがあるようで涙を浮かべ心配している。

スミレやサリナは涙を浮かべ心配しているが冷静だ。もちろん、内心は冷静では無いが。


「真城さんは、大丈夫なんですよね」

とミイナは叫びたくなるのを我慢してリーゼルさんに聞く。


「ああ、真城君は多分明日までは起きないだろうが安心してくれて構わない」


「そうですか、安心しました。それで、そちらの方々を何故ここに?」

ミイナは騎士団が気になっていた。

「我は今機嫌が悪くてな。特にそこに転がる奴らと同類の人間を見ると無情に怒りが湧いてくる」

と、スミレが顎で騎士団の死体を指す。

ミイナもスミレも、真城や自分達が傷つけられることに対して憤怒している。

当たり前だが。


「それは騎士団隊長から話があるそうだ。ワガン!」


「はっ!」


リーゼルはミイナやサリナから聞かれたことに対してはワガンから話があるようでワガンを呼んだ。

すると、


「本当に申し訳ない!我々騎士団ともあろう人間が君達に差別発言や暴行を働いたことは断じて許される事では無い。しかし、どうかこのとおりだ!この場だけでいい、許して欲しい!」


土下座をしながら謝ってきた。

ミイナやスミレは始めは驚いたが当然というように土下座するワガンを見ている。


「隊長!私達からも頼みます!この場だけでも許して下さい!」


残っている騎士団もワガンの行動をみて土下座をする。


「はぁ。分かりました。今、この場だけ許します。真城さんが起きてから何をするか分かりませんが私達は何もしないでおきます」


「そうだな、我らからは何もしないでいいだろう。どうせ、帰ってから処分か何か下るのだろ?なら我らはそれに期待するとしよう。サリナやかえりんもそれでいいだろう?」


「ええ、構わないわ」


「私は、足はミイナさんとシンカさんに治してもらいましたし、真城さんに任せるとしましょう」


「ボクもそれでいいと思うよぉ。それに悪い人達じゃないようだしねぇ」


それぞれ納得し、何故か真城に丸投げという形になった。(本人達の無意識で?)

許したわけでは無い。シンカが言うとおり何故か残った騎士団の人達は悪い人達じゃない気がしている。ただそれだけだ。


その日はこれで終わり中継地点である次の村まで騎士団と共に移動した。

その村で真城は起きることは無く一夜を過ごした。


次の日の朝、ミイナ(というかみんなの代表として)はジエルに


「ジエルさん、真城さんは一体いつ起きるんでしょうか?」


「ん?ああ、多分明日ぐらいだろ。真城は血も流しリーゼルとの戦いで体にかなりの負担がかかっていたからな。起きたとしても一時は狩りには行けないな」


「そうですか」


ミイナはみんなにこの事を伝えのんびり待つ事にした。その日は何もなく終わり、戦いが終わってから2日が過ぎた朝帝都まで半日という最後の村で真城は起きた。


そして本を読んでいたスミレが


「お、真城起きたのか。お前寝すぎだぞ二日も寝るなんて」


「え?二日?俺そんなに寝てた?」


「ああ。まあ、仕方ないがな。魔力も使い切りジエルに血を与え、体に負荷を掛けすぎだ。もう少し抑えてすればいいものを」


「ははは、すまん。さて、これは一体どういう状態だ?起きようにも起きられなんだが」


竜車の椅子の部分で寝ていた為か周りにはサリナ、ミイナ、かえりんが椅子に俯いて寝ていて、シンカは俺の胸の上にいる。そのせいで起きる場所を無くしている。(というより行動が出来ない)


「真城を心配して昨日からこの状態だ。寝かせてやれ」


「心配なんて必要ないのにな」


サリナの頭を撫でる。猫耳がいい感触だ。

もふもふ。ああ、やっぱいいな猫耳。

ミイナの頭を撫でる。うん。

サリナと同じいいもふもふ感だ。


「おい、真城お前なんて顔してんだ。顔がだらけてるぞ」


「はっ!いやぁ、この毛並みといいこのもふもふ具合といい、ケモナーにとって最高の具合だよ。もう、一生手放さないからな」


「け、もなあ?そのけもなあという奴が何か分からんがとにかくその顔やめろ」


「不可抗力なんだ。仕方ない」


「割り切るなよ」


ミイナとサリナのもふりをやめて、かえりんの撫でてみる。


「お、おお。これはこれでいいなぁ。このサラサラとした髪に頑丈な角。この角の質感いいな」


「竜人族はな、死後にその角を短剣にして形見にするそうだ」


「へ〜。いい考えだな。竜人族だからこそできる弔い方だ」


「ちなみに言うと、その短剣はかなり高性能で魔法剣見たいに使えるそうだ」


「なるほど。使ってみたい…というのは不謹慎だな。あまり見ない方が幸せだ」


「当たり前だ。さてと、真城。お前は騎士団をどうする。殺す以外で」


ん?何故皆殺しにしたらいけない?

と、思ったがかえりんを見ても骨は治っている様だしな。たぶんミイナかシンカが治したんだろう。仕方ない、譲歩してやる。

「じゃあ全員殴る。騎士団の全員を起こしてくれ一人づつ殴ってやる」


「分かった。言ってくる。真城はシンカは無理だがみんなを起こさない様に起きてくれ。シンカ、真城が起きたぞ」


「ん。ふあぁ。お、真城起きたんだぁ。おはようぅ」


「ああ、おはよう。さて、フライ」


フライで体を浮かび上がらせそっと竜車を出た。


という経緯で騎士団全員が殴られる事になっていたのだが

ワガンが


「こうなったのは全て私の責任だ殴るな私だけにしてくれ!」


と頼まれ10発殴り現在に至る。


********************


「もう終わり!俺はもう体が限界なんだ!後は皇帝さんに依頼する!リーゼルさん、行きましょう!」


まったく、ワガンを殴ってから言われても困るっての。

俺はあんまり人を殴るタイプじゃないって。

え?結構、元の世界で殴り合いの喧嘩してたって?

し、知らんな。


色々あったが真城は残りの処罰を皇帝さんに丸投げして、最後の村を出発した。

そして、半日たつと…


「見えてきた。おっきな!流石は帝都」

流石、この大陸で一番大きな国だけあるな!

なんかワクワクしてきた!


「我も初めて来たが、王都より大きな」


「そうなのか!おい!サリナ、ミイナ、かえりん!起きろ!帝都に着いたぞ!」


「ふぇ?あ、真城!あんたいつ起きたのよ!」

「ふぁ。あ!真城さんおはようございます」

「後五分だけぇ。ん?まま、真城さん!?おはようございます!って、そんなことはどうでもいいんです!」


「え?」

あ、なんか怒られそう。


「真城さん。私言いましたよね。無理はしないでって」


「え?あ、はい」

こ〜れはまずいな。よし、覚悟を決めよう。


「真城さんに説教が必要です。正座!」


「は、はい!」

なんで初めて帝都に来たのに怒られるんだよ!


帝都に到着するまでの20分間正座でスミレ以外の全員から説教をくらった。


ああ、足が痺れそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界ってのはある日突然にやってくる 広瀬ルサン @hiroserusan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る