第25話 護衛任務2日目(4)
「なんで、なんでだよ!リーゼルさん!」
リーゼルさんは何も答えない。
「そこを、どけぇ!」
急降下で勢いを付けてリーゼルさんを斬ろうとする。
しかし、剣で受けられ、鍔迫り合いになる。
「何故あいつらを守るんですか!あなたの私兵だって二人殺されたんですよ!俺の仲間だって差別発言されて、膝を折られて、蹴られたりしたんです!なのに。なのに、なんで邪魔をするんですかぁ!」
真城はもっと力を込めリーゼルさんを力負けさせようとする。
しかし、リーゼルさんは何食わぬ顔で真城の剣を受けていた。
「何か、なにか喋ろよぉ!」
心がパンクしそうだ。
みんながあんな目にあったってのに。俺はなんにも力になっていない。
しかも、リーゼルさんまで。
一体、俺は何がしたいんだ?
みんなを守ろうとしているのか?
憎しみをぶつけたいのか?
単なる八つ当たりか?
もう自分じゃあわからない。
ただ、今分かるのはリーゼルさんをどかしてあの指揮官を痛めつけないといけないという事だ。
一旦、後ろへ飛び下がり距離をとる。
「おい、真城。もう分かっているだろう。無駄だ。今のお前の強さじゃ勝てるわけがない」
ジエルが言う事は正しい。確かに全力で攻撃しても動じないリーゼルさんに勝てるわけがない。そろそろ魔力も尽きるしフライも使えない。ジエルからの力で基本能力はかなり上がっているが正直血を流しすぎたせいで感覚が薄くなって来ている。
「だけど、やらなくちゃなんねぇんだよッ!」
リーゼルさんに向かって駆け出した。
あと魔力がMP20。
ファイアーボール(MP10)とウインドカッター(MP8)がそれぞれ1発分か。
限界を超えると気絶か酷い時は命に関わるからな。ならば。
「ファイアーボール!」
駆け出した瞬間にファイアーボールを発動させ、リーゼルさんに気を向けさせる。
当然、リーゼルさんは難なくファイアーボールを切る。
そして、距離が縮まり剣先が当たるぐらいの距離で、
「ウインドカッター!」
その瞬間にリーゼルさんの首にジエルを叩き込む。
はずだった。
キィィン!
「なにっ!」
リーゼルさんはウインドカッターをまともに受けてジエルの方を防いだ。
ウインドカッターは、モンスターでもまともに受ければ場合によって殺せる魔法だ。
そんな魔法をまともに受けて体のところどころに切り傷があるだけで致命傷にはなってなかった。
「もう、チートはあんたの方だよ」
瞬間、リーゼルさんの拳が腹に叩き込まれて意識が飛んだ。
涙を浮かべるリーゼルさんの顔を見て。
********************
「私だって悔しいのだよ。今、真城君からその話を聞いてキレそうだった。だけど、これは仕方のない事なんだ!」
リーゼルは気絶した真城を見ながら叫ぶ。
そう、これは仕方のない事。私達が運ぶのは貴族の大半を身分剥奪か降格へと導く機密文書。あの貴族共が動いてもおかしくない。
だが、騎士団は誤算だった。しかも、8割も投入するとは、流石に皇帝陛下も黙ってなかろうに。そこは上手く言いくるめたんだろうな。
「しかし・・・」
城崎真城。一体君は何者なんだ?
おかげで指が2、3本折れたよ。たったレベルが4~5の駆け出しがこんな力を発揮できるなんて。
「君には驚かされたよ」
「そうだろ!やっぱり、こいつは只者じゃなねぇよな!」
「魔剣ジュエンダル、君か」
「ああ、ジエルって呼んでくれ」
真城が気絶し、剣でいる意味がなくなり人化したジエルがリーゼルの放った言葉の意味を理解し話しかける。
「君の力か?これは」
折れた指を見せながら言う。
「う〜ん、力そのものなら俺の力が4割ってところだな。戦術ってなら真城自身の力だ。でも、真城自身にも体に大きな負荷がかかって腕にヒビぐらいはあるだろうし血も少ない。それをカバーしてた俺の力があるし、半分は俺だ」
「なるほど、半分は真城君の力か。怒りの力は強いな。そういえば、お前は自分がどんな剣なのか真城君に言っているのか?」
「ああ、ほとんどはな。だけど、俺と俺の妹がなんでここにいるのかは言ってない」
「まだ、いうべき時じゃないって事か?」
「ああ、まだ妹も見つけてないしな。じゃあこっちも聞くがその剣はなんだ?斬ることができなかったぞ」
とリーゼルの腰に下がっている剣を指差しながら言う。
「これか?これは至って普通のオリハルコン製だ。お前の溶断能力は効かんよ。聖剣じゃないがいい剣だ」
「オリハルコンは嫌いだ。斬れないし」
「はっはっは。さて、事後処理の始まりだ。ワガン!」
「はっ!」
「真城君を優しく運べ!」
「承知致しました!」
こうして、アナマス家竜車襲撃事件は幕を閉じる。
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