柏木ピュア男
もちもん
恋の予感
なんだこれは。
なんなんだこれは。
なんだこの状況は。
隣に知らない若い男が寝ている。
しかも自分の部屋のベットに。
おまけに猛烈な二日酔いのこの感じ。
やっちまった、、、
いや、やっちまったのか?
待て、待て。
思い出せ。思い出せ。
何があった?
昨日は会社の飲み会で
飲み会が終わって電車に乗って
もう一杯飲んで帰ろうって思って1人で居酒屋に入った
、、、、で?
ぜんっぜん記憶がない。
寝たのか?この男と。
ベットから降りてケータイを探す。
ん?
私、、
ワイシャツ来たままで下着ついてるぞ。
スーツを脱いだ状態でワイシャツと下着は付いている。
、、、、???
状況が掴めず、恐る恐る男のかけている布団をめくってみた。
あれこの男、、、パンツと肌着を着て寝ている。
、、、やっちまった訳じゃあないらしい。
ケータイ、ケータイ、、、。
テーブルの上に2台。
一台はこの男のものだろう
自分のケータイにはメッセージが2件。
ラインにこの男らしき登録がされていて、 メッセージが入っている。
もちろん登録したことさえみに覚えがない。
『柏木春彦ですよろしくです』
『起きても殴らないでください。僕は何もしてません』
と入っている。
ホッ。よかった。
しかしながら、全く覚えていない。
そしてこの状況は変わらない。
ため息。。。
服を着よう。いや、その前にシャワーか。
カーテンが閉まっているので薄暗いが、
時計は7時を指している。
足元には綺麗に畳まれた男物の服と
昨日着ていたであろう自分のスーツが畳んであり蹴飛ばしそうになった。
畳んだ記憶もない。
ダイイチ私はスーツをこんな風に畳んだりしない。ハンガーにかける。
「頭いた。」
フラフラ洗面所へ。
シャワーを全身に浴びながら昨日会ったことを思い出そうとする。
何が起きたんだ?
「、、、。」
「、、、?」
記憶の中で何かが浮かび上がる。
カウンターで飲んでいたら声をかけられた。
「お姉さん。」
「はい?」
自分より幾分か若い男。
「僕、お姉さんの会社と同じビルの4階の眼科にいます。柏木です。」
「ああ、、、?すみません全然知らなくて。」
「あの、一緒に飲んでもいいですか?」
「どーぞ。」
、、、思い出した。
カウンターで飲んだわ。
「僕実はお姉さんの名字知ってるんです。」
ニコニコ喋る柏木はまるで撫でて撫でてと寄ってくる子犬のようだ。
「なんでよ?」
「いつも職員カード下げてるから。根岸さんですよね。」
質問というボールを投げられて嬉しそうな、人懐っこい子犬に見える。
眼科で働いてるというが医者には見えない。
目が合う。
「あ、いえ、、。」
すかさず視線を逸らし柏木は半分ほど残っていたビールのジョッキを飲み干した。
「ハル。」
「え?」
「名前。根岸ハル。」
「はは。」
口を拭いながら、嬉しそうに笑う柏木。
「何がそんなにおかしいのよ?」
「や、なんか一緒だったから。ハルが。僕春彦。」
ピュアか!
「医者にしては若いわね、いくつ?」
「29です。眼科医たまごです。」
恥ずかしそうに答える柏木。
「きかないの?私の歳。」
「んー興味ないから、失礼だし」
「、、、。」
興味があって話しかけてきたわけではないのか。
ナンパかと思ったが、ただいっしょに飲みたいだけなのね。
「一緒に飲んでも面白い話なんかないわよ?」
ハイボール片手に管を巻くように話す。
「ありますよ。今日エレベーターでハルさんが言い寄られてた話とか。」
「ぶ。」
むせた。
「、、、。」
今日、会社の小出係長に下のエレベーターで告白された。その時確かに4階でエレベーターが止まって、、、、。
「付き合ったんですか?」
「付き合ってない。不倫の相手なんかたまんない。勘弁して。」
「不倫とかほんとにあるんだ、、、へ、え。」
不倫と言うフレーズに動揺って
ピュアか!
あんたねぇ。
世の中そんな純愛ばかりでできてないのが現実よ!!
小出係長を思い出したら腹が立ったので、
お通しの漬物のきゅうりを箸でつまんで食べた。歯切れの良い音はストレスにいい。
先週は佐野常務に不倫の誘いを受けたのだ。
またこれも腹が立つ話だ。
私はそんな都合のいい女じゃない。いい加減にしろ!どいつもこいつも!!
「興味ないし。タイプでもない。」
今は男がみんな淀んで見える。
「ハルさんのタイプは?」
私に興味ないんでしょ?
我ながら興味がないという言葉を根に持っていることに気づく。
「お箸の持ち方が綺麗な人。」
「ふ、ふふはは。」
何がそんなにおかしいのよ?
「すみません、ビールとタコワサください。」
「はいよー。」
開いたグラスが3本あって、まだ飲むのかよと思ったかが自分も人のことは言えない。
さっき飲んで来たくせに、5杯目のハイボールの飲みかけを握っている。
「綺麗?」
上目遣いでお箸でタコワサを掴んでみせる柏木が、なんだかボールをくわえてもう一度投げて貰えるのを待つ子犬のよう可愛くて笑えた。
「そうそうそんな感じ。」
こんな29の男を可愛いとか。
ほんと笑える。
私はアンタを柏木ピュア男と呼ぶわ。
「じゃあ僕はハルさんの範疇に入ったってことね!!」
「入らないわよ。」
何を言いだすんだ、柏木ピュア男。
「え!?」
えじゃないわよ。
「入ってどうすんのよ。入ってこないで。立ち入り禁止。」
「なんで?」
「いらない。そういうのは。」
今はうんざりだ。
うんざりしてなきゃ、一杯が5杯になったりするほどこんなところで飲んでいない。
どうせあんたもそーいうタグイでしょ?
だったらいらないわよ。
ほっといて。
ピュアだからって。
かき乱さないでよ柏木ピュア男。
「どうしたら入れる?」
「入りたいの?」
「まあ。」
意味がわからない。
興味がないといいながら。
コイツはスケコマシなのか。
それとも本当にピュアなのか。
「一晩何もしないで一緒に寝れたら考える。」
「え!?」
、、、、で、これか?
我ながら馬鹿なこと言ったもんだ。35歳独身。
私はに興味がないと言うこの男に何を期待したんだろう。
手を出して欲しかったのか?
違うな。
じゃあなんでこんな賭けを?
柏木の気持ちを確かめるようなことして。
、、、で気づく。
私は性欲以外の、自分を求めて欲しかった。
「興味がない」に腹を立てながら、
私は温もりが欲しくて、愛されたくて、愛の大きさを確かめたくてこんなゲームをしたわけだ。
つまり
柏木ピュア男の可愛さに心を惹かれたわけだ。
私の負けだ。
シャワーをとめて、風呂場からでる。
あ。変えの服、、、ソファの上だ。
無意識において来てしまった。
ここから出ないと服がない。
タオルを巻いてため息をつく。
柏木はまだ寝ているだろうか。
自分から引き金を引いておいて、柏木と開口一番何を話せばいいかと思っている。
素直になればいいものを、、、。
鼻から軽く息を吐く。
戸を開ける。
「ハルさん。」
「ぎゃ。」
洗面所から出てたら肌着とパンツの柏木が立っていた。
「僕、約束守ったんで。」
まるで怒られて反省した子犬のようだ。
「あ、、ぼ、僕は脱がせてません。」
知ってるわよ。
これで寝たらシワになるからと脱ぎ散らかしたのは私。
たたんでくれたんでしょ?
「あ、、、こ、これはジーンズで寝るのは汚いかなって思ってそれで、、、」
真っ赤になりながらウルウル瞳。
もう子犬にしか見えない。
私は意地悪なことを言ってみる。
「それで?」
「ぼ、僕は合格ですか?」
「私35よ?」
興味ないんでしょ?
「あなたが幾つでも僕があなたを好きな理由は変わりません。」
ああ。そういうこと。
興味がないのは私の歳だったの。
可愛いじゃないか。
もう可愛いじゃないか。
柏木ピュア男。
意地悪言ってごめんなさい。
自分の心が穏やかになるのを感じた。
多分今私は笑いかけている。
「とりあえず、シャワー浴びたらどう?」
彼はぎこちなく会釈して洗面所に入っていった。
「とりあえず、服着て考えよう。」
それからだ。
2人の春が始まる予感
柏木ピュア男 もちもん @achimonchan
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