大島の師匠・大石久信(大石サイクル店主)

イ)「ここは何処だ…階段から落ちた所までの記憶は有るのだけど…

もしかしたら死んだのだろうか…でもやらなければいけない事が在る…そう、私はインタビュアー…インタビューをするのが我が使命…」


?)「あんたは何をぶつくさ言うてるんや?」

イ)「あ…あなたは?」


?)「人に名前を聞く前に自分から名乗るもんやろう?」

イ)「あ、私は通りすがりのインタビュアーです」


?)「ワシは大石久信おおいしひさのぶ(以下・久)」

イ)「よろしくお願いします。早速インタビューをよろしいですか?」


久)「かまわんよ。何を聞きたいか知らんが、あとでワシも聞きたい事がある」

イ)「では、簡単に自己紹介をしてください」


久)「ワシは大石久信おおいしひさのぶ。自転車・ミニバイク取り扱いの大石サイクルを営んでいた。今もあの世で自転車・バイク屋を営んでおる」


イ)「あの世でもお仕事ですか?」

久)「輪廻転生と言って、生まれ変わるまでは待機することになっておる。

ボ~っと待ってるのは暇で暇で仕方ないからバイクを触っとるよ」


イ)「では、規定の質問です。犬派ですか? それとも猫派ですか? 理由も添えて教えてください」

久)「猫や。カブは『小熊』モンキー・ゴリラは『猿』、猟犬や犬とは相性が悪い名前のバイクを扱ってたさかいな。婆さんも猫が好きやったしな、猫派や」


イ)「大切な人はいますか? いたとしたら、なぜその人が大切なのですか?」

久)「もう死んでるから『居ない』やな。婆さんも生まれ変わってこっちには居らん。人は居らんがカブは来るのう…キャブ時代の古いカブが…」


イ)「なるほど…ところで、10億円あったら、何をしますか?」

久)「あの世では使い様が無いからな…」


イ)「やっぱり私は死んだんですね…」

久)「仮死とかかも知れんぞ」


イ)「ここ最近で一番楽しかったことや面白かったことはありますか?」

久)「あの世へ来てからは毎日が楽しいぞ。この前、若くで亡くなった娘さんが生まれ変わることになってな。婚約者の近くへ行けるって喜んでたな。ワシも何処かに生まれ変わるんかのう…行く先は地獄か天国か分からんが…」


イ)「逆に悲しかったことはありますか?」

久)「自分が死んでしまった事。あの世に来たら婆さんが居なかったこと」


イ)「奥様に会えなかったのは残念ですね…何処へ行かれたんでしょう?」

久)「さあな…生まれ変わって饅頭でも頬張ってるんと違うか?大食いやったからな。金魚鉢で出て来るパフェを普通に完食してたんやぞ。生まれ変わっても大食いは直らんやろう」


イ)「大食いキャラは何処かに居た気はしますが…では次の質問です。

目の前に傷ついた子供がいるとします。どうしますか?」

久)「相談には乗る。でも、困難は自分で乗り越えんとな」


イ)「大島サイクルの関係者は結構厳しいですね」

久)「ベビーブームを見て来たからやろう。子供が多い時代や。いちいち構ってられん時代やったからな。今はやわなガキが多いと聞くけんど…ワシらはタフな時代の人間やからな」


イ)「では次の質問です。見覚えがない異性が声をかけてきました。どうしますか?

久)「こんなジジイに声を掛けるのは勧誘か財産狙いや(笑)」


イ)「さて、『自由に質問コーナー』ですが…」

久)「自由に質問やったらワシが質問しても良いやろう?自由なんやから」


イ)「質問されるのは慣れていませんが…どうぞ」

久)「大島君は順調にやってるか?あの小さい娘に手紙で知らされて部品を遺しておいたんやが…御両親の事故と婚約者の事件は防げんかったんや。その後、どうや?独り身か?」


イ)「大島サイクル・大島さんはどちらも順調です。一度店を潰しかけた時はモンキーやカブのエンジンを売って借金を返したそうです。最近また部品を見つけたそうで、そのうち何か作るでしょう。結婚はしていませんが女性と暮らしています。恋愛関係までには至っていない様です」


久)「ひとつ屋根の下で男女が暮らせば恋は産まれるやろう…子供もな」

イ)「大島さんはオタフク風邪が原因で子種が無いそうです」


久)「元婚約者の娘は『新しい人を』って願ってたんや。じゃあ次に質問。大島君の周りで大喰らいで元気な女の子は居らんか?ワシの嫁は安曇河で生まれ変わったらしい」

イ)「白藤理恵という女の子がよく食べますが…どうでしょう?あ、そろそろ帰らなきゃいけないみたいです。最後に、このインタビューを読んでいる人にメッセージをどうぞ」


久)「バイクに飛び込んでこっちにくる奴が居るぞ。異世界?には行けんから。バイクや乗り物に飛び込んで行けるのは『あの世』やからな」


イ)「大石さん、ありがとうございました…あれ…ここは…我が家…」


階段の踊り場で自分の右足を左足で踏んだ私はそのまま階段を転げ落ちた。

少し気を失っていたらしい。妙な夢を見て、その中でもインタビューをしていた気がする。


私はインタビュアー。今日もインタビューをする男。インタビューを愛し、インタビューに愛された男。この先、私を待ち受けているのは果たして何か…。


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大島サイクル営業中 自主企画参加作品 京丁椎 @kogannokaze1976

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