魔王の嫁。はじめました

最終話 レフィアからの手紙・終

　お父さん、お母さん。

　ルルリにロロラ。お元気ですか。

　私はとても元気です。

　こうして手紙を送るのも、

　もう何度目でしょうか。

　もうじき、18度目の誕生日が来ます。

　初めて魔王城へ連れ去られたのが

　17歳を迎えた次の週でした。

　あれからもう一年が経ちます。

　この一年、本当に色んな事がありました。

　人生で一番忙しい一年でした。

　本当に、ありえない位に。

　色んな人と出会って、別れて。

　色んな事を知りました。

　自分に出来る事、出来ない事。

　そして、しなくてはいけない事も。

　先日は聖都の中央神殿で、

　マオリとの挙式をあげる事も出来ました。

　雪どけを待っての式です。

　もちろん知ってますよね。

　だって一緒にいたのですから。

　突然だったのでさぞ驚かれたと思います。

　わざとです。

　中でも迎えの馬車に一番驚かれてましたね。

　可愛かったです。一生忘れません。

　特にカチコチになったお父さんとルルリを。

　ふはははっ。

　家族を迎えに行くと言ったら、

　聖女様が特別に馬車を出してくれたんです。

　当日も言いましたが、

　本当は魔王城で挙げるつもりでした。

　今は完成も間近な魔王城ですが、

　その時は再建の途中も途中、真っ最中。

　とても挙式を執り行う余裕もありません。

　そこで聖女様に相談したんです。

　どこかに良い場所はないかと。

　まさかそれで用意してもらった場所が、

　聖都の中央神殿とは思ってもみませんでした。

　思った以上の大騒ぎに加え、

　色々と予想外の事が起きた挙式でしたが、

　今は無事に済んでほっとしています。

　色々と迷惑をかけてもしまいました。

　悪いのは全部ベルアドネです。

　本当にアイツだけは……。

　当日は本当にありがとうございました。

　改めてお礼を言いますね。

　そうそう、お礼と言えばあの時、

　誓いの言葉を取り持ってくれた人達。

　あれにはさぞ驚かれたかと思います。

　まさか聖女様と教皇様とで二人して、

　私とマオリの誓いを取り持ってくれるとは。

　安心してください。

　私もびっくりしていました。

　聖女教と女神教。

　いきなりすぐには無理かもしれませんが、

　互いに向き合い、互いに認め合う、

　そんな関係にしていきたいのだそうです。

　その為に二人で合同で、

　その祭祀を担ったのだとかで。

　難しい事はよく分かりません。

　よくは分かりませんが、それでも。

　両者側のトップの二人が並んでるのを見れば、

　どこか安心出来るのもまた確かかなと。

　そんな風に思ってもいました。

　未来はきっと明るい。

　そうであって欲しいと願うばかりです。

　そんなこんなで終わった挙式ですが、

　近しい人達のその後も報告しておきますね。

　まずミリアルド法主様から。

　知っての通りだとは思いますが、

　あの後、法主様は法主を辞されました。

　今回の責任をとって法主を辞めて、

　地方に戻って一からやり直す。

　そのつもりだったそうです。

　その後なんだかんだとあり、

　今はラダレストで総大主教やってます。

　嘘みたいな本当の話です。

　本人もどうしてこうなったと、

　頭を抱えて苦悩していました。

　リディア教皇の方が一枚上手で、

　気づいたらそうなっていたそうです。

　そんなミリアルド新総大主教には、

　聖女教と女神教双方の関係改善の為、

　是非とも頑張って欲しい所でもあります。

　法主様の後任には、

　バゼラット元騎士団長が選ばれました。

　強そうな法主様の誕生です。

　聖女様といい新法主様といい、

　聖教国は武闘派を目指してるのでしょうか。

　頼もしくて何よりです。

　聖女マリエル様はそのまま、

　今も聖女様のままで頑張っています。

　多分もう、今後福音が下る事はありません。

　だからこそ聖女としての在り方をもう一度、

　しっかりと築き上げていきたいと。

　そう言っていたマリエル様はやっぱり、

　とても綺麗で素敵な人だと思いました。

　聖女様が聖女を続けるのならと、

　勇者様もまた、勇者を続けるのだそうです。

　やる事は今までとそう変わらないからと。

　ただ、ちょっと意外だったのが、

　ちゃんと身なりを整えるようになった事です。

　ボサボサ頭のヒゲもじゃだったのが、

　何と言うか、見違えていました。

　その姿は意外に素敵でした。

　変われば変わるもんだなと。

　魔王城の方でも色々と変化がありました。

　まず、挙式のすぐ後、

　セルアザムさんが息を引き取りました。

　寿命だったそうです。

　ずっと一人で戦い続けてきて、

　最後に決着がついたからでしょうか。

　最期はとても安らかな様子でした。

　女神との最終決戦の時、

　私の意識を最後に導いてくれた人。

　あれは確かに、初代様でした。

　初代様が確かに、力を貸してくれたのだと。

　魂の器が砕けてしまった人は、

　魂そのものもが消滅してしまうそうです。

　けれど思うんです。

　本当にみんながみんな、

　消えてしまったのだろうかと。

　もしかしたら、と。

　もしかしたら初代様もずっと、

　見守り続けていたのかもしれません。

　一人戦い続けてきたセルアザムさんを、

　ずっと……。

　だったら、良いなと。

　今頃は二人仲良く、

　昔話に花を咲かせているのかもしれません。

　そうであってくれれば、

　そうである事をただ、願うばかりです。

　セルアザムさんが亡くなったのと同時に、

　他の四魔大公の方々もその座を退きました。

　良い節目だからなのだと。

　ル・ゴーシュさんは自らを鍛える為、

　早々に旅立っていきました。

　まだ鍛えるつもりらしいです、あの人。

　クスハさんとシキさんも一線を退き、

　後続の育成に注力していくそうです。

　そして新しい四魔大公も選ばれました。

　まず一人目。

　リーンシェイドが姫神大公だそうです。

　すでに魔大公じゃありません。

　結構いい加減です。それでいいのか魔の国。

　ベルアドネとアスタスもそれぞれに、

　幻魔大公と天魔大公を継ぎました。

　ベルアドネには正直不安しかありません。

　しばらくはアスタスと共に大公として、

　先代の二人にしごかれるそうですけど。

　そして最後の一人が剣聖さんでした。

　剣聖大公だそうです。

　魔族ですらありません。

　もう何でもありです。

　それでも鬼の兄妹二人となんだかんだで

　仲良くやっている剣聖さんの姿を見ると、

　それもありかなとも思ったりも。

　四人の内半分魔じゃない新四魔大公で

　今後マオリを支えていくのだそうです。

　魔どころか神とか聖とかついてます。

　それでも四魔大公だそうです。

　ばるるんとアドルファスも、

　それぞれにちゃんと元の役職に戻りました。

　とても生き生きと頑張っています。

　レダさんとポンタくんも、

　ファーラットのテセとジジも元気です。

　たまにオーガのギンギさんも魔王城に来て、

　楽しそうに過ごしたりもしています。

　……実はあと一人、

　特筆しなくてはいけない人がいます。

　魔王近衛騎士団のカーライルさんです。

　カーライルさんが騎士団を辞めました。

　騎士団を辞めて、今はロシディアにいます。

　何でも目が放せない人がいるのだとかで、

　側で守っていたいのだそうです。

　いつの間にそんな人を見つけたのか。

　それには特に驚きました。本当に。

　ロシディアと言えば、

　あの有名な傭兵王が婚約したらしいです。

　勇者様が微妙な顔で祝福していました。

　今はガマ先生とアネッサさんが二人、

　そのロシディアにいるそうです。

　七夜熱撲滅活動をそこでしているのだとか。

　聖教国の次に国交を結ぶとしたら、

　多分ロシディアが優先候補かもしれません。

　その時が少し、楽しみです。

　噂の傭兵王や、新しい王妃様。

　ガマ先生やアネッサさんにも会いたいですし、

　そのカーライルさんの良い人も是非、

　紹介してくれたらなぁと。

　色んな人達がいて、

　色んな場所があって、

　それぞれがそれぞれに、

　色んな形で頑張っています。

　そして私も。

　ずっと宙ぶらりんでした。

　どっちつかずで、どっちにもつけず、

　自分のすべき事、したい事も分からず。

　そんな私でしたが、今は違います。

　やりたい事が出来ました。

　私にしか出来ない事を、見つけました。

　この一年、色んな人達と出会い、

　知り合う中で感じた事、知った事。

　本当に、本当に色々ありました。

　だからこそ思うんです。

　だからこそ、それらを繋ぐ為の、

　大切な人達を繋ぐ架け橋になりたいと。

　出来るかどうかは分かりません。

　とても難しい事だと言うのも知っています。

　でも、やりたいんです。

　やってみたいと強く、そう思っています。

　そして大丈夫だとも。

　必ずやりとげる事が出来るハズだとも強く、

　そう信じてもいます。

　だって今の私はもう、一人じゃないんです。

　支え合う相手がいます。

　共に補い、助け合う人が側にいるんです。

　私はとても元気です。

　これからもずっと、ずっと元気です。

　マオリと一緒にこれからも、

　ずっと、ずっと元気でいます。

　だからみんなもずっと、元気でいて下さい。

　今まで本当に、ありがとうございました。

　最後に一つだけ。

　改めて胸を張ってご報告します。

　私、レフィアは今ここで、

　大好きなマオリの隣で。

　魔王の嫁、はじめました。

──「まおよめっ！」完