第2話
天気予報のお姉さんは、午後からの雨に備えて、傘を持って出かけるように言っていた気がする。しかし出かけるときになると、私はそのことをすっかり忘れて家を出る。
小学生のときからそうだった。朝の情報番組の占いはしっかりみて、ラッキーアイテムは忘れずもって出るのに、傘を持つのはいつも忘れるのだ。それは高校生になった今でも変わらない。いや、むしろラッキーアイテムすら忘れてしまうのだから、悪化していると言ってもいい。
学校へ向かう道を歩きながら、今日の獅子座のラッキーアイテムは何だったかと考える。しかし、全く思い出せない。
土曜日の朝のこの道は、部活動に向かう中高生としかすれ違わない。視界に映る空は、青くて、本当に雨が降るのだろうかと思えてくる。
高校に入学して、何の迷いもなくバスケ部に入った。中学のころからずっと続けてきたことだったし、他にこれといってできることが思いつかなかったのだ。しかし、高校では周りの実力についていけず、のらりくらりとただ続けてきただけの私は、一年から試合に出ている他の同級生の、練習相手にもならなかった。そして入部三カ月で、あっけなくリタイアした。結局二年になった今も、どこにも入らずのらりくらりとしている。
ああ、そうか。今日のラッキーアイテムは「紙の辞書」だったな。と突然思い出す。もちろんそんなもの鞄に入っているはずもなく、足を止めた。
回れ右をして、再び歩き始めた。そもそもラッキーアイテムが「辞書」って、どういうことなのだと、考えれば考えるほど笑えてくる。
そういえば小学生の時、ラッキーアイテムが「黄色いスカーフ」で、母のスカースをこっそりランドセルにつめて、持って行ったことがあった。結局あの日は、掃除中男子が振り回していた雑巾が、顔面を直撃した。
中学生のとき、今日こそ好きな男の子に告白しようと、決意した日のラッキーアイテムは、「しいたけ」だった。純粋だった当時の私は、必死にキッチンを漁ったあげく、やっとの思いで見つけた「干ししいたけ」を、鞄の奥に忍ばせ学校に向かったのだ。今思えば「しいたけ」で告白が成功するわけがなかったのだ。
ある日は「フライパン」、ある日は「うきわ」ある日は「こんにゃく」。「土偶」の日は遅刻ギリギリまで悩んだ。そんなラッキーアイテムたちが本当にその日をラッキーにしてくれたことなんてなかった。
けれど信じていたかった。ラッキーアイテムのおかげで、今日は本当にいい日だったと思える日がくると。だから今日も辞書を求め、二年になってから参加していた休日補習(主に成績不振者のための)を自主的に欠席することに決めたのだ。
スマートフォンを開き、時間を確認する。画面には8:05の表示。こんな時間に本屋が開いているはずもない。他に辞書がありそうなところはどこだろうか。そもそも新しい辞書を買ったところで今日しか開くことはないだろう。なんだかもったいない。お金がかからず、辞書を手に入れる方法はないだろうか。そんなことを考えながら、カヤは歩き続けた。
雨が止むまで帰れない。 万葉 つどい @tudoi1010
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