雨が止むまで帰れない。
万葉 つどい
第1話
「死にたい」
検索ワードを打ち込むと、たくさんの書き込みが見つかる。
「どこにも居場所がない。死にたい。」
「なんで生きてるの。死にたい。」
「生きていても辛いだけ。死にたい。」
「死にたい。」
「死にたい。」
「しにたい」
「誰か助けて。」
いったいこの中に本当に死にたいと思っている人が何人いるのか。画面から目を離し、窓の外を眺めた。雨が降っている。
人間とは不思議なものだ。窓の外を眺めていたはずなのに、いつの間にか窓に映る自分に目がいく。そこに映る自分はじっとこちらをみつめている。その視線に耐えられなくなり目をそらす。行く当てを失った視線を、テーブルに置いたスマートフォンに戻した。先ほどの画面はもう暗くなっていて、そこにはまた、こちらをみつめる自分が映っていた。
平日の昼。県立図書館は、思っていたよりも人がいる。小さな子供を連れた主婦。老後を謳歌するおばあさん。レポートに追われる大学生。しかし私のような高校生が、平日の真昼間からこんなところにいるはずもなく、私の座る窓際のテーブル席だけが、現実とは違う空間のようにそこにあった。平日の昼間に制服を着た女子高生が、一人図書館。そんなわけありそうな女子高生に近づこうとする人はさすがにいない。
外では先ほどより勢いを増した雨がカツカツと音を立て窓にぶつかっている。そういえば朝、天気予報のお姉さんが、傘を持って出かけるようにと言っていた気がする。
傘を持たず、いつものように制服を着て家を出た。もう一週間学校へは行っていない。学校から連絡が入っているはずだから、きっと母も、無断で学校を休んでいることを知っているはずだ。しかし、この一週間、母が私に理由を聞いてくることはなかった。
もう一度スマートフォンに触れる。指紋を認証したその機械は画面を開く。画面には再び無数の「しにたい」が溢れた。ふと思った。私が死んだらこの機械も開かなくなるのだろうか。
なぜここにいるのだろう、と思うことがよくあった。私はなぜここにいて、なぜ生きているのか。本当に不思議に思うことがよくあった。私は、画面の中でただ「しにたい」と言っているだけのこの人たちと同じなのだろうか。
メッセージアプリを開く。
「みつけたよ」
彼からの連絡に返事を出来ずにいる。
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