自動人形メイドさんのエネルギー補給

「昨晩はよく眠れましたか?」


「…………正直言うと寝てない。」


「あら!大変です!なにか不都合や悩みでもありましたか?それとも私のイビキが……?」


「いや、アヤに問題は無いんだ……が。」


彩は絵本を読んでいるマヤを見る。


「マヤが昨晩―――――」


昨晩はマヤが絵本を読め!って駄々をこねたから仕方なく読んだんだが……、絵本じゃなくて辞書だったんだよな……。


マヤが言うには辞書にもたまに絵が入ってるから絵本でしょ?という見解らしく……。一晩中読まされていた……。マヤは寝なくても回路の一部ずつを休ませるだけでいいらしいし……。


その事をアヤに話したらアヤは必死に頭を下げてきた。


「す、すみません!うちのマヤがご主人様にご迷惑を〜!」


「いいよ、大丈夫。小さな子だから興味もあったんだろうし、俺も小さい頃はよく絵本、読んでって急かしたよ。流石に辞書ではなかったけど……。」


「本当にすみません!

お詫びになにか……あ!」


マヤはなにか思いついたようにふろばにかけこんでいった。その2・3秒後、飛び出してきたアヤは――――――、


「学校に行きましょう!」


制服を着ていた。


「が、学校って……。」


「どちらにしても、ご主人様から離れないというミッションがございますし、学校という場所には個人的に興味があります。それに、ご主人様へのお詫びも兼ねて学校で奉仕活動を……。」


目を輝かせながらアヤは体を揺らしている。よほど楽しみなんだろう……。


「まぁ……いいんだけど……な。」


「ん?どうかされましたか?」


少し言葉を濁す彩にアヤが首を傾げる。


「いや、そもそも学校には入学試験ってのがあるし、いきなり入るのは難しいと思うぞ?それに入ったら入ったでなんて名乗るんだ?アヤだけじゃな……それに―――――ん?」


アヤは耳に手を当てて頷いている。


「はい、はい!ありがとうございます。」


「?」


「ご主人様、学校から許可がおりました。政府からの依頼ということで、Ms.P様も研究には良い環境だと快く受け入れてくださいました!」


「ま!マジか!?」


「はい!本日より私、桐生院 アヤ、鍋島高校に通う高校2年生となりました!」


アヤは明るい表情で笑いかけてくる。だが、


「ま、ま、まて!桐生院って俺の苗字だろ?ってことは……。」


「はい!ご主人様の家族として入学します。」


「ま、マジかよ……。」


「な、何か問題がございましたか?」


「いや、問題は無い……と、思う。だが、メイドが学校に……。」


どんな目で見られるかわからない……。ずっとアヤがべったりくっついていたら……。


「…………はぁ。なんだか疲れたな。」


「た、体調が宜しくないのですか?」


アヤは慌てている。


「違うから!そんなに慌てないでくれ!」



朝から騒がしい部屋です。


「え、アヤ姉たち、ガッコウに行くの?」


「うん、ごめんね。だからお留守番、出来る?」


「うん、任せて!変なやつ来たらポルトガルまで飛ばすから♪」


マヤはニコニコしながら腕まくりをする。


「うん、じゃあ行ってくるね!」


「ばいばーい、お兄ちゃんもばいばーい!」


彩も手を振りながら寮の階段を降りる。


「そう言えば、ほかの方はおられないのですか?」


寮の玄関で靴を履き替えていると、アヤがそんな質問をしてきた。


「あ、ああ、管理人の真彩さんがいるだけで他に生徒はいないよ。」


「何故ですか?」


「いや、みんな新しく出来た寮に行っちゃって……。ここより安いし、広いからさ。」


「何故、ご主人様は行かないのですか?」


「いや、埋まっちゃったんだよね。それに、俺はみんなでいるよりかは1人の方が好きっていうか……。」


「もしかして、ぼっちと言われる種族の方でしたか?」


「いやちがうちがう!ただ、騒がしいのは苦手なだけだ。」


「大丈夫です!ご主人様には私がいます!ご主人様がよろしければカノジョという関係にもなれます!人生のパートナーにだって……、」


「いやいや、そこまで求めてない!ってかメイドというより、友達の立場にいて欲しいっていうか……。てか、なんで勝手にぼっち認定されてんの!?」


「申し訳ありませんがメイドはメイドなので、ご主人様と対等に立つわけには……。」


「そうなのか……。悪いな、無理言っちゃって。」


「いえ、ご主人様が思っていることを言っていただけるのは、私にとってとても喜ばしいことです。何かあればもっと伝えていただきたいです。」


「ああ、何かあったら伝えるよ。」


学校まではそう遠くないのだが……。


「なんか見られてないか?」


彩より、アヤが見られている気がする。


「そうですか?私はご主人様しか見ておりませんので……。」


すこし頬を赤くしながら照れたように言う姿が可愛い。


「いや、アヤが見られている気がするんだが……。」


「もし目障りなのでしたら、私を見る人を消してきますが?」


「いや、いい!やらないで!怖い……!」


「あ、申し訳ありません。」


丁寧に頭を下げるアヤ。学校は目の前だ。


「これが学校、ですか?」


「ああ、正確にはそこら一帯が学校で、寮のある場所も学校の敷地なんだけど……。」


「へぇ、凄いですね。」


学校に入るなり、アヤは天井、壁、床をキョロキョロしながら見回している。


「えっとー、教室はこちらですか?」


「ああ、よく分かったな。その階段を上がって右だ。」


「わかりました!」


アヤは彩のペースに合わせて階段を上ってくれる。


「ここですね。」


2人は教室の前で止まる。


「…………」


「ん?どうかした?」


「いや……その……。」


なんだかアヤがモジモジしている。


「もしかして……人見知り?」


「あ、いや、そうではなくて……ご主人様以外と接するのは少し怖いと言いますか……。」


「へー、そんなこともあるのか?」


「私はご主人様は絶対的に信頼するように、そして信頼して頂けるようにプログラムされていますが……他の方々は少し……。」


「だが、心配することはないと思うぞ?アヤなら大丈夫だ。」


「あ、ありがとうございます。ご主人様に励ましていただくなんて……ダメなメイドですね……。」


「そんなことない。こんなにそばにいるだけで安心できるメイドは他にいないと思うよ?」


「……ありがとうございます!少し勇気が出ました!では……、」


アヤが扉に手をかける。


「行きます!」


勇気を出して扉をスライド……!


バンッ!


大きな音を立てて扉が開く。


「…………」


「…………」


「…………」


クラスの目が一斉にアヤを見る。


「あ……あ……。」


「アヤ、頑張れ。」


「おは……よ……う……ござい……ます。」


すごいカクカクしていて本当にロボット言葉のようになってしまった。


「あれ?誰?」


「あんな子いた?」


「知らない子だね……。」


様々な声が聞こえてくる。


「アヤ、大丈夫か?」


「ご、ごごご主人様!た、助けてください〜!」


「た、助けろと言われても……。」


こういう時の対処法ってなんだ?多分『自動人形が人見知り』で検索しても出てこないだろうな……。


「落ち着いてみようか?」


彩はアヤの背中を撫でる。


「席、座るか。」


アヤは小さく頷く。


「席はどこだ?」


「決まっていませんが……ご主人様の隣がいいです……。」


クラスのみんなに見つめられながら2人は教室の一番後ろの窓側に向かう。そこが彩の席だ。


「隣は座ってる人がいるから……。」


「なら、ご主人様と同じ席に座ります!」


アヤがお先にどうぞと勧めてくる。


「あ、なんならご主人様が私の膝の上に座るのでも……。」


「それは無理だ!」


「そうですか……。」


アヤはなんだか悲しそうな顔をするが、すぐに気を取り直して、


「では、新しい机をもらいに行きましょう!なので、本日は半分こで……。」


アヤがあまりにも引き下がらないから根負けして机が用意されるまで彩が左半分、アヤが右半分を使うことになった。


と言っても、アヤは教科書もノートも持っていないし、そもそも見ただけで覚えられるんだとか……。ロボットだし?


ただ、周りの目が気になる……。


1時間目のはじめ……。


担任が教室に入ってきた……。


「みんな、今日は転校生を紹介する。アヤさん、出てきてくれる?」


「はい!」


アヤが立ち上がり、前に出ていく。だが、少し足がふるえている。


(だ、大丈夫か?)


「あ、わ、私は……えっと……き、桐生院 アヤで、ででです!よ、よろしくお願いします!」


かなり緊張している……。まばらな拍手の中、よろよろと席に戻る。


「大丈夫か?」


「ご、ご主人様の隣なら大丈夫です……。」


ほんの少し前に出ただけなのに、アヤは疲れているようだ。こんなのでこれからやっていけるのだろうか?


1時間目をなんとか乗り越えたアヤはなんだか苦しそうだった。


「だ、大丈夫か?」


「あ、ご心配おかけして、すみません……。だ、大丈夫です。少し休めば……。」


アヤの息が荒い。


「そ、そんなに……。」


「し、システムには抗えませんね……。」


アヤはそのまま机に突っ伏して目を閉じる。


「アヤ……?大丈夫か?寝てるのか?」


アヤからは息のひとつも聞こえない。


「ろ、ロボットって、息もしないのか?」


わからないがアヤが動かないことに少し恐怖が湧いた。


「こ、壊れてないよな……?」


彩はアヤの背中に手を当ててみる。


「ん?なんだこれ……。」


背中に変なポケットがある。そこから長い紙が出てきた。


「ん?説明書?」


『本機が動かなくなったら、ネジを回してあげてください。』


そう書かれていた。


「ネジ?確か、鞄に……。」


彩は鞄から大きなネジを取り出して……。


「あれ?服きてるけどどうやって取り付けるんだ?」


ネジの取り付け口は服の下だ。


「む、無理だろ……。」


校内でアヤを脱がすなんて……、出来るわけない。


「ん?」


教室の外から誰かが手招きしている。


「え、えっと……だれ?」


彩はその人物に近づいてみる。白衣にサングラス、マスクにチェックの帽子……。明らかに怪しい。


「彩くんだね?」


「え、あ、はい……、あなたは?」


「アヤからは聞いてないか?Ms.Pだ。」


「あ、あなたがPさんですか。」


「ちょ、Pだけだと禁止用語みたいになるだろ!」


「あ、やっぱりそこ気にするんだ。」


思っていた通りの変な人だ……。


「で?何のようですか?」


「君、今、アヤを脱がそうとしていたね?」


ギクッ


「い、いえ!ね、ネジを……」


「分かっているよ。君が卑猥なことが出来ないと知っていてアヤを送ったんだからね。」


「そ、そういうことですか……。」


「じゃあ、アヤを連れてきてくれる?ネジを回せる場所に案内するよ。」


「あ、はい……。」


彩は不自然ではない感じで教室からアヤを運び出す。おんぶの時点で怪しいのだが……。

Ms.Pに案内されて学校の端まで来たのだが……。


「ん?壁、ですよね?」


「そうだ、今まで何度壁ドンをされてきたかわからない壁だ。憎い……。」


「私情を挟まないでください……。」


「で、ただの壁に見えるだろ?」


「違うんですか?」


「ああ、アヤの手をこうやって……。」


Ms.Pはアヤの手を壁に触れさせる。


「う、うわ!」


壁が左右にスライドし、通路が生まれた。


「これはアヤを運びやすいように私が学校を改造した結果だ。旧校舎に繋がっているぞ。」


「いや、まって……。やりすぎでしょ……。」


「いやいや、アヤを作った時点で行き過ぎてるよ。」


「ま、そうですね……。」


「さあ、旧校舎の一番奥、そこが安全だよ。」


Ms.Pに連れられ、一番奥の教室に入る。何も無い埃っぽい部屋……。


「さあ、ネジを出して!」


「は、はい……。」


彩はネジを取り出した。

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自動人形メイドのいる生活 プル・メープル @PURUMEPURU

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