メイドさんの妹さん
彩とアヤは向かい合う形で机を挟んで座っていた。
「では、私についての質問は以上ですか?」
「あ、ああ……てか、質問をした記憶が無いんだが?」
「ええ、彩さんの質問数は0、ですから。」
「だよね?良かった!記憶飛んでんのかと思った。」
どうやら、アヤにはメイドとしての機能しか入っておらず、さっきのように、メイドとしては必要のないことは機能としては存在しないっぽい。
「服を着ることはメイドの前に人間として必要なんだが……。」
「私、自動人形ですから。」
「そうだったな……見た目人間そっくりだからつい……。」
アヤはいきなり彩に詰め寄る。
「な、なに?」
「私は何をすればいいのですか?」
「な、何って……まあ、1人で住んでるし、暇だし……?一緒にいてくれたらいいかな……なんて?」
「承知しました。『一緒にいる』メイドミッションに追加しました。」
「メイドミッション?」
「はい、私はご主人様に言われたことは何でもこなすように言われております。そしてそれをミッションとし、失敗すればご主人様から叱られるという……。」
「あ、それだけ?」
「それだけとは!?メイドにとってご主人様に叱られるということは自らの手首を切るよりも苦しいことなのです!」
「あ、そうなんだ……。」
(怒らないようにしよう……。)
「ですから、私はこれからご主人様とずっと一緒にいます。」
「あ、うん……。」
そう言えば聞いておくべきことを聞き忘れていた。
「アヤは何で動いているの?」
「私は、この体の中にミクロ単位のブラックホールを作り出し、そのエネルギーを動力としています。」
「え、ぶ、ブラックホール!?」
「――――というのは嘘で、先程使っていただいたっ思われるネジ回しで内部のギアを回し、発電します。」
「あ、そうなんですねー(棒)」
「なんだか反応が薄いですね?」
「ま、まあ……。」
「はっ!もしかしてお腹がすきましたか?」
「あ、そう言えば……。」
「今から作ります!何がよろしいですか?」
「あ、なんでもいいよ?」
「ん?なんでもいいという料理は聞いたことがありませんね……。どんな料理ですか?」
「いや、なんでもいいというのはそういうことではなくて……。」
「あ、ありましたね。なんでもいい……。」
「え!?あったの!?いや、カレーでいい……。何が出てくるかわからないし。」
「そうですか、では……ってあれ?」
アヤは冷蔵庫を開けて首を傾げる。
「あ、ごめん。何にもないんだ……。」
「も、もしかしてご主人様って……、」
アヤが振り向いてなんだか不思議なものを見るような目で見てくる。
「空腹の苦しみを長時間味わって餓死ギリギリまで言ったところで黄泉の国を見ようと試みたけど無理だったわww系の方ですか?」
「ちげーよ!てか誰だよ!?」
アヤは胸をなでおろす。
「よかった、安心しました。では、買い物に……あ。」
ドアの前まで行ってアヤは立ち止まる。
「買い物に行ったらメイドミッションが達成できません!?離れずにお買い物なんて……」
アヤがすごく頭を抱えている。
「仕方ありません。黄泉の国、見に行きますか?」
「いやだよ!」
「なら……最後の手段です。」
アヤはポケットから何やら四角いものを取り出してボタンを押す。すると、それはどんどんと大きくなり、人形に変わる。
そこに現れたのは、アヤよりもかなり幼くなったような見た目の少女だ。服は着ている。妹が服を着て、姉が着ないのは問題だろう……。
「ん?ここはどこ?」
「ご主人様、彼女は私の妹、マヤです。」
「妹がいたのか……。」
「彼女は私の分身として作られました。ですから、これで私がご主人様から離れるのを許してくださいませんか?」
「ま、まぁ……別にいいんだが?」
「ありがとうございます!では、行ってきます!」
「あ、まって!服着て行って!」
慌ててアヤを呼び止める。男物しかないのだが……なかなか似合っている。
アヤが部屋から出て行った後、少し静かな時間が流れた。
「…………」
「…………」
アヤとは違ってピンクの髪色をしたマヤは彩の顔をじっと見つめる。
「…………お兄ちゃん、誰?」
マヤが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「あ、僕はアヤのご主人様……らしいよ?」
「へー、アヤ姉の?」
興味無さそうにマヤは部屋を見渡し始めた。
「ねぇ!遊ぼ!」
「え、いいけど……。」
と、突然マヤが彩に近づく。
「じゃあね、じゃんけんしよ!」
マヤが右手を握りしめる。
「いくよ?じゃんけん……」
「ポ……あれ?」
マヤが手を出さない。
「ねぇ……お兄ちゃん……?」
急にマヤの表情が真剣になる。
「な、なに?」
「マヤさ……何出せばいいの?」
「え……?」
「ていうか、じゃんけんってなんだっけ?」
どうやらこちらもちゃんとした情報は入っていないらしい……。
「えっとね、ジャンケンってのは……。」
「うんうん。」
結局じゃんけんを教える羽目になった……。
「じゃあ、いくよ?」
「まって!マヤの初めてのじゃんけんだから!もっと真剣に!」
「わ、分かった……。」
「じゃあいくよ?じゃんけん……」
マヤの掛け声で手を出す。
「ポン!」「ポン!」
ガチャ
「ただいま帰りました!」
「わーい!勝った勝った!」
「あら?ご主人様、マヤと遊んでいただいていたのですね。ありがとうございます。」
「あ、いや……1回しかジャンケンしてないんですけどね……。」
彩は軽く笑う。
「じゃあ、お兄ちゃん。マヤの奴隷ね!負けたんだから言うこと聞いてよ!」
「え!?そんなこと聞いてないんだけど!?」
「はーい、まったはなし!じゃあまずは抱っこしてもらおうかな?」
「あ、子供で助かった……。」
「あれ?では、ご主人様が奴隷なら、私は奴隷のメイドですか?最下層です……。」
「じゃあアヤ姉もいうこと聞いてね!じゃあ、オムライス食べたい!」
「え!?カレーの予定なんですけど……。」
アヤは申し訳なさそうに彩を見る。
「あ、別にいいよ?オムライスでも。」
「そうですか、ありがとうございます。材料はあるのでぱぱっと作りますね?」
アヤは早足にキッチンに向かった。
「ほらほら、お兄ちゃん!歩いて歩いて!」
抱っこされているマヤが急かす。
「はいはい……、なんでこんなことに……。」
たしか自分は1名のみ当選の超ラッキーなものに当選したんだよな?なんで幼女の世話を?
だが、こんなことをしていると、なんとく妹を思い出す。可愛かったな……妹……。
いや、生きてるけど……。
「はい、出来ましたよ!」
5分ほどでオムライスが出てきた。
「早いな……。」
「はい、料理はメイドの基本ですから。」
「そうなのか?」
彩はいただきますをしてスプーンをオムライスの中に滑り込ませる。
「ん?」
中から茶色の液体が出てくる。
「あ、せめてもの配慮として、オムライスにカレーを入れて『オムカレー』にしてみました。お口にあいますか?」
アヤは心配そうに見つめている。マヤはバクバクと食べていっている。彩も一口、食べてみる。
「……美味い。」
「ほ、ほんとですか!?」
「ああ……初めて食べる味だが充分美味いぞ?」
「ありがとうございます!至福です!」
「そ、そうか……。」
「では、お代わりもありますからね?ほら!」
アヤが見せたのは何十個というオムカレーの山だった。
「あ、ああ……。」
もう何も言えない。
やはり、彼女は何かがズレている。
「ところでこの材料費、どこから……。」
「安心してください!私の使うお金は政府の資金から調達されています。」
「え、それってつまり……税金!?」
アヤは笑いながら頷く。
(すみません、日本の皆さん。あなたのお金が、オムカレーに変わったかも知れません……。)
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