第9話

 私が目を覚ましたとき、エアコンのスイッチは切られていた。そして、隣人は私の隣で眠っていた。

「なんでやねん」

 いつから布団にもぐりこんでいたのかはわからなかったが、気持ち良さそうに眠るその顔をゆがませることはできなかった。

 目覚まし時計が鳴るまではまだ時間があったので、私は布団をかけ直して隣人の寝顔を間近で見た。長いまつげ、白い肌を彩る薄い唇。自分の手を枕にしていたせいで潰れた頬が愛らしい。

 ん、と可愛らしいうめき声のあと、隣人はゆっくりと目を覚ました。彼女は私と目が合うと柔らかに微笑み、自分の頬に張りついていた手を引きはがして私の頬を撫でた。

「なんで帰ってないのよ」

「寝言、確かめようと思って。でも、あなたの寝顔が可愛かったから、つい」

 それで、と観察の結果を促したが、帰ってきた返事は芳しいものではなかった。

「わからない。私も割とすぐに寝たみたいだ」

「意味ないじゃん」

 呆れた私がため息をつくと、隣人は嬉しそうに笑った。

「なら、今夜もまた確かめに来てもいい?」

 私は浅く頷き、頭まで布団にもぐりこんだ。寝汗のせいだろうか、布団のなかは温度も湿度も高くて、頬が焼けるように熱くなっていくのがわかる。

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寝言姫 音水薫 @k-otomiju

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