そして、あとは単なる真実
人間を再定義しなおすことで、本来人間ではなかった存在の人権を奪還し、人権はほんとうの意味での人間にだけ与えられるものとする。
そうすれば僕たちはもっと豊かになるだろう。
僕たちはもっと助け合えるだろう。
慈しみ合って。思いやりあって。
もっと愛し合うことさえ、できるはずだ。
だってこれまで不当に配分されていた価値が、ほんとうの意味での人間たちのもとに、かえってくるのだから。
新時代の人間たちよ。
僕をどうか信じてほしい。
僕は徹頭徹尾、人間の味方なんだ。
他人の権利を過剰に侵害せず、社会に一定以上貢献している、ふつうで、ありきたりで、どこにでもいて、でもだからこそ人間と認められる、あなたたちの、絶対的な味方なんだ。
きっといい世の中をつくってみせるよ。
僕をぜったい信じてほしい。
革命の時代がきたんだ――この国が前に大きく変わったのは、いつだ? もう百年近くも前のこと。パラダイム・シフトという言葉もある――価値観、世界、社会はつねに新しく変わっていかなければならない。もちろん、それ以前の価値観を背景にして、ということだけれど、……現代はもう、限界だ。
どうして人間に値しない存在どもに人権が与えられ続けてきたのだろう?
僕には疑問だ。すごく疑問だ。……どうしてかばわれたのは僕ではなくて、やつらだったのか。ただ、人間であるというだけで。ただ、……彼らがいいとこの子どもだったというだけで! 僕は、僕は――だれにもかばわれずに。だれにも、守ってもらえずに……。
……ぜったいに奪いかえす。
そう。……だから。
賢明なる新時代の人類諸君。あなたたちの違和感は、間違っていない、――人間未満が存在するという感覚を、事実を、僕は、絶対的に守ってみせるよ。
僕に共感してくれたら、どうか僕を応援してほしい。できることからでいいんだ。フォローしてほしい、拡散してほしい、自分自身の考えを発信して広めてほしい。これからも僕はこういう演説の機会をもうける予定だ。そういう会にも来てくれると嬉しい。……社会的影響力の、波を、みんなでつくっていく。そのためには、ひとりひとりの力が不可欠だ。
本気で言うよ。僕に協力してくれる人間、ひとりひとり、みんなのことを、……僕は愛するよ。これから未来永劫ずっと、僕の、僕たちのつくる新しい世界で。
みんなでよりよい社会をつくっていこう。人間未満は、排除しよう。
僕が今回人間未満だと認定したおまえたち。おまえたちはもう人間ではない。新しい僕の社会では、基準では人間ではない。……この後は人間と扱われないとよくよく覚悟するように。って、人間未満にこんなことまで親切に説明してあげるなんて、猫、やさしーい、……ほんと、そんな必要ないんだけどね?
……僕がされたようなことを、もうだれにもさせないって誓うよ。
いや。ほんとうは、違うのかもしれない。……僕の勝手な思いなのかもしれない。
ねえ、正直に言っていいか。
僕があなたたちほんとうの意味でのまともな人間に望むことは――
僕を俺を私を、助けてほしい、ということだ。
名もなき蹂躙されてきたひとたちとおなじ。……高柱猫という人間はずっとずっと、蹂躙され続けてきた。蹂躙されてされてされてされつづけて、ずっとずっと、報われることもなくて、……社会に蹂躙されていたあの時代がようやく終わったと思ったらこんどは、……新しく希望を求めて行き着いた地で、こんどこそ、ほんとうの意味で、身体ごと、……蹂躙された。
あの日の無人島の暗闇と、男の臭いから、まだ脱け出せていないんだ。
あの日のくらやみがきょうも続く。……でもそんなの僕だけじゃ俺だけじゃ私だけじゃないだろう、
みんな、おんなじだろう。
だからみんなおんなじにならなくちゃならない。
みんな、という言葉のさす対象が、もっと具体的にまともにほんとうに、……おんなじになんなくちゃ、ならない。
だから。
僕は、みんなに望む。
人間を再定義せよ。人間を再定義せよ。
ヒトであるからといってすべて、人間であるわけではない。
人間未満が人類社会には人の顔して多くいる。
さあ、再定義だ。人権を奪還せよ――。
もういちど僕の言ったことをよく考えてみて。配った資料に目を通してみて。……人間に値しない、って心のなかで相手を罵倒したことがないのか、自分の心に、よくよく聞いてほしい。
……みんなで力を合わせれば、きっとできるよ。
そして助けて。あなたを。僕を、俺を、私を、――分裂した僕たちを、お願いだ、助けてよ。もうおどけるしかなかった僕を。自分を自分でもちゃんと呼べなくなってしまった僕を――
……
そしてさよなら、人間未満。
僕たちの新しい時代に、――人間に値しないおまえらは、要らないんだよ。
ヘルパス 高柱猫の演説「人間の再定義の提案」 柳なつき @natsuki0710
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