真実の本論(3)人権を、返せ

 どうだ。

 先生のコネにコネを使って呼び集めたえらいやつら、俺の僕の私のために来てもらった真実の意味で人間に値するあなたがた、――この演説を配信で観ている聴いているひとたちよ、世界よ、この提案を受け入れるか? 受け入れないのか?


 今日はアイドルの格好をしてきてよかったよ。にゃん、話題性作りも、ばっちりですし? それになこれは俺の覚悟なんだ。俺は男だよ――でも可愛い可愛い女の子に見えるだろう?

 だからおまえは犯されたんだって、きっと思うやつがいるだろう?

 気をつけろよ。思うまではまだいまは裁けない――けれどもそんなん口にした途端、僕のこれからつくる社会ではおまえは人間未満となる。犯されるほうに理由を求めるんじゃねえよ。悪いのは、間違ってるのは犯すほうに決まってんだろ? そんな簡単な道理もわからず犯されるほうに向かってだからおまえは犯されたんだって、その判断がベースとなる価値観じたいが、人間未満に値するモンなんだよ――もっとも、言われて直るようなら話は早いからな。

 ……人間未満は言われたってずっと気づかないんだろうよ。哀れな存在だよなあ。俺を犯したあいつらも――そういう存在だったよ。



 ……あいつらが人間なんかじゃなかったことを僕はかならず証明してみせる。



 俺はかならずやってみせるよ。

 人間たちのために。

 人間たちが不当に奪われた権利を、かならずや奪いかえしてやる。


 もう僕みたいな犠牲は出さない。二度と。人類史上でひとりたりとも出さないと――約束してみせるよ。人間に値しない存在が、人間の権利を奪うことがないように。あきらかにだれがどう見ても人間に値しない人間未満が、被害者面をしていまさら人権を主張することのないように――ひとでないものが、ひとを、蹂躙することが二度とないように。

 僕はすべてを捧げるよ。

 全生涯、僕のもてるすべてを、捧げる。人間のために奉仕するんだ、なんて、……嘘みたいなフレーズだろう、でも僕は本気だよ。



 本気じゃなければこんなパフォーマンスじみた真似、しないだろう?



 人類、気づいてほしい。貧しくなったのはどうしてだ。物が増えたはずなのに満たされないのはどうしてだ。生きづらいのはどうしてだ。運にこんなにも人生が左右されるのはどうしてだ。理不尽なのは、どうしてだ。

 自分のところにだけ、世界にはかならず存在するはずのあらゆる価値が、まわってこないのは、どうしてだ。


 答えは簡単だよ。人間に値しない蛆虫があふれすぎたんだ。そいつらに人権なんて大義名分を与えちまったからいけなかった。人類はいまこそ――人権という思想から脱却すべきとき、なんだよ。



 あらゆる人間には人間というだけで固有の価値がある――けっこうな発明だったじゃないか。たぶん、あの時代には必要だったんだろう。人権という概念の発明された、身分ですべての決まっていたような世のなかにあっては。そりゃそうだよなあ、わかんないもんなあ、身分が高かろうと低かろうと人間であったやつは人間であったはずで人間でなかった存在は人間でなかったはずで、でも当時は権利というものは身分に応じて持っているものだった。だったら一度、そのシステムを解体して、すべてのヒトは人間であるという前提のもとで社会を組み立てようと思ったことじたいは、……当時の事情を考えれば、社会規模、世界規模の実験として、なんら悪いことではなかった。


 人権という発明をおこなって実践した先人たちのおかげで、僕たち人間は、次のステージに進めるんだ。



 人権、も結果的にすこし違う概念となっていくだろう。人権とは文字通りひとの権利――ひとがひとであるだけで本来的にもつ権利のことだ。この、ひと、というのを定義しなおすんだから、結果的に具体的に――人権をもつ存在の範囲というのは、いまより狭くなる。簡単な、簡単すぎる話だよな。

 つまり人権を失う人間――より正確には、本来は人間には値しなかったのに、人間のふりをして生きていた害悪というのが、あらわれてくる。炙り出されてくる、ってことだ。


 僕は、人権のすべてを否定したいわけじゃない。これまで述べてきた通り、一定の敬意を払ってさえいるんだ。ひと――人間、を再定義するのだから、結果的に人権はほんとうの意味での人間だけのもつ権利になる。当たり前のことだ。



 でも本来そうあるべきなんだよ、いまは人間に値しないやつらが権利を持っていて権利ばかりガンガンガンガン主張して――だから僕をあんな方法で犯した最低のやつらだって、いまは罰されることがない。どころか、保護されるんだよ。――金持ち野郎どもだから、なおさらにな。ふざけんなよ、って話だよ。

 そういう、クズどもにこれまで分配されていたリソース、価値が、ほんとうに人間であるべき人間たちのもとに、かえってくるんだ。

         

 

 ねえ、だから、返してもらうだけ、って言えばいいのかな――人権を。

 不当に、分配されていた、人権を。……確実に。



 僕たち人間のために――返してもらう、いや、……返させるんだよ。

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