ルルイエへの帰還

蜂蜜 最中

ルルイエへの帰還


「――ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」



 知っているだろうか? 卯月の海はひやりとするほど冷たいことを。



「――ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」



 知っているだろうか? 人の悪性というものがどれほど醜いものかを。



「――ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」

 


 知っているだろうか? 人は余りにもあっけなく死ぬのだと。



「――ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」



 知っているだろうか? 闇は、意外なくらいあたたかくてほっとすることを。



――――――――――――



 望んでこんなものになったつもりは無い。私は確かに望まれてこれになったのに。今は皆駄目だという。酷い酷い。望まれてなったのに、何故、どうして、なんで。


 私を抱きかかえた祖母の手からゆっくりと体温が失われていく。私に海の底の都の話を言い聞かせ、私と共に入水した祖母の手から力が抜け落ち、私に宝剣を預けて私よりも先に水底に沈んでいく。


 何故? 何故? ともに行こうと言ったのに。置いていかないで。


 たった一人だけ、仄暗い、水の底に落ちていく。


 怖い。だけど、なんでだろう。やさしくて、あたたかい。かかさまの胸の中にいるみたい。



「——狂う狂う。大丈夫、こちらにおいでませ」



 え? だあれ? なあに? こっち? こっちになにかあるの?



「狂う狂う。お待ちしておりました」



 闇の中から声がする。声音は甘く優しく、頭の中を蕩けさせていく。


 こっちにおいで、こっちにおいでと手招きして。ここに御坐みざがあると囁いて。貴方の座すべき場所があると手を引いて。



「狂う狂う。我らは待っていた。我らは待っていた。■■■の末裔を」


「狂う狂う。待っていた。待っていた。御身の帰還を待っていた」


「狂う狂う。外はいけない。こちらにおいでませ」



 いくつもの奇怪な石造りの砦の根元に、群衆が見える。私がやってきたことをよろこんでいるみたいに。迎え入れているみたいに。おかでは誰もよろこんでくれなかったのに。



「さあお眠りなさいませ、我らが神――狂う狂う」



 ——いつかあの星々が御身を迎え入れるまで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルルイエへの帰還 蜂蜜 最中 @houzukisaku0216

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ