第3話 本日大学にて・・・

「本日大学にて何があったか、知っておるか?」

三番目の客は、いきなり質問してきた。かなり年配の男だ。


「そんなこと、知っているわけないでしょう」

自分と同年配なのに、下手したてに出てしまった。俺も年配の男なのだが。


「いや、失礼した。先ほどからマスコミが騒いでいるから、誰でも知っておるかと・・・」


客は店の入口を振り返り、他の客が入ってこないか気にしているそぶりを見せる。


「本日大学って、どこの大学ですか?」

「何を言っておる。この近くにある有名な大学ではないか」


客の言葉遣いが気に入らないので、俺もぞんざいに言い返した。

「有名って、その大学の世界ランキングは何位なんだい?」


客は一瞬たじろいだが、不機嫌な表情で俺を見た。

「そんなことは、どうでもいい。ここに来たのが間違いだったようだ」


「いやいや、迷っているなら聞いてやってもいいぞ。何しろ俺は、占い師だからな」


客はしばらく横を向いていたが、低い声で話し始めた。

「国技の相撲の地方巡業があったが、そこで大学の女子相撲部員が問題を起こしたんだ」


「女子相撲部の女子部員?どんな問題かな?」


「日本の国技相撲の土俵上は女人禁制だ。地方巡業先の県知事は女性だった。女性知事が土俵に上がって、挨拶を始めようとした時、国技協会の会長が土俵に上がり知事を土俵から降ろそうとした」


「大男の会長が女性知事の腕を引っ張ったのか?」


「いや、会長が知事の腕をつかんだ時に、二人の女子相撲部員が知事と会長の間に割って入った」


「おー、それは素晴らしい。その二人の部員は大男の会長を取り押さえたのか」


「いや、勢いよく会長を突き飛ばしてしまった。会長は肩と腰を強く打って起き上がれなかった。意識を失っていたらしく、救急車で病院に搬送されて、まだ入院している」


「うーん、不幸な事故だな。しかし、女子相撲部員が問題を起こしたと言って騒ぐのは、いかがなものか」

俺には問題にする意味が理解できなかった。


「国技協会やマスコミが女子部員を非難したら、二人の女子部員は謝罪した後、総監督の指示に従って突き飛ばしたと説明したんだ。総監督とは、この大学の女子相撲部の総監督でこの大学グループの理事長だ」


「へー、ずいぶん大物なんだな。そんな総監督に命令されたら、女子部員は協会長を突き飛ばすだろうな」


「私はそう思いたくない。女子部員が説明した翌日、総監督はマスコミに、協会長を突き飛ばせという指示はしていないと釈明したんだ。」


「じゃあ、二人の女子部員と総監督のどちらかが嘘を言っているって、マスコミが騒ぐなあ」


「そうなんだ。二人の女子部員の説明は具体的で誠実な印象だった。一方、総監督の釈明はいさぎよくない印象だったので、マスコミの非難対象になってしまった」


「それなら、問題を起こしたのは女子部員じゃなくて、総監督じゃないか。どうして、あんたは総監督の肩を持つんだい?」


「総監督は私の妻だが、事実を曲げて妻をかばっているわけではないぞ。私はこの大学の学長で、男子相撲部の監督だ。妻は理事長になるほどの聡明な人格者なんだ」


「話がややこしくなって来たな。あんたは、俺に何を占って欲しいんだい?」


「いや、占って欲しいわけではない。ただ、二十年後の未来がどうなっておるのか知りたいのだ。あんたは未来から来た占い師なんだろう?」


俺は、この事件の未来なんて全く知らなかった。

しかし、そう言いたくなかったので、とりあえず店のテレビを点けた。


「おっ、俺はこのバラエティー番組が好きなんだ。丁度、あんたの大学の話題で盛り上がってるぞ」


「私の質問から逃げるな。未来はどうなっているんだ?」


「えっ、この二人があの女子部員か?いい意味で印象的なアスリートだな」


「う、うん、二人とも女子相撲のスーパースターと言われておる。実は、私の妻も若い頃は人気があった。私は教育と研究の分野で成果を上げて来たが、妻は事務職から始めて事務局長になり、官僚や政治家と親交を築いて、この大学を発展させた。だから理事長になったのだ」


「あれっ、今、テレビで評論家が言ったけど、相撲をオリンピック競技にするために、女子相撲をもっと世界に普及させようとしているらしいな。しかし、あんたの奥さんを相撲の国際組織の会長にしようという活動を妨害しているのが、国技相撲の協会長だと・・・」


「それは評論家の憶測だ。妻は協会長を恨んではいない。そんなことより、未来はどうなるんだ?」


俺は、今テレビで見た女子部員と似た顔をどこかで見たような気がした。


「じゃあ、二十年後の新聞記事を見てみようか。国技の相撲はマンネリ化して人気がなくなったぞ。その代わりに、新相撲というスポーツの人気が上昇している」


「その新相撲って、どんなスポーツなのか?」


「今は介護事業なんかで使ってるロボットスーツが、未来では、男女の体格体力の差を解消して闘うためのロボットスーツに発展するんだ。男子相撲、女子相撲のスター達がロボットスーツを着て、男女区別なく闘うのがプロの新相撲さ」


「そのロボットスーツの性能によって勝敗が決まるから、選手も観客も面白くないじゃないか」


「いやいや、新相撲の国際組織がロボットスーツの厳格な基準を決めているから、世界的に人気のスポーツになっているぞ。しかも、認定された一社だけがロボットスーツを作っているから、スーツの差によって勝敗が決まることはない」


俺の話を聞きながら未来の新聞を見ていた客が、急に立ち上がった。

「あっ、あー、新相撲国際組織の会長は、あの女子部員だあー」


俺は、客が見ていた新聞の別のページを開いて、さっきテレビで見た顔を見つけた。


「ほーら、もう一人の女子部員は、ロボットスーツを作る会社のオーナーになっているぞ」

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未来から来た占い師の正体は 鶴野 天王正(てんのうせい) @tennosei

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