無限桃太郎軍団 後編

 その後も、桃太郎の『数』は順調に増え続けました。


 お腹が空いてきび団子を食べる度に桃太郎の数は2倍、4倍、8倍とどんどん増えていきました。そして、桃太郎たちにお供をしたいと集まってきた動物たち――桃太郎に憧れていた猿も雉も、きび団子の力で新たな『桃太郎』へと姿を変えていったのです。


「桃太郎さん!俺もぜひお供に!」」」」」」」」

「僕もお願いします!」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「勿論、構わないよ」」」」」」」」」」」」」」」」」」



 そして海岸に到着した時、桃太郎たちの数は804人にまで膨れ上がっていました。

 地平線の向こうに鬼ヶ島の不気味な形がくっきりと見えるのを確認した桃太郎たちは、大量の船を使って一斉に乗り込むことにしました。


「「「「「「「「「「「「「「「「「「皆、準備はいいか!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おー!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



 桃太郎たちの行く手を阻むかのように海は荒れ、幾つもの波や風が猛威を振るいましたが、彼らは決して立ち去ることはしませんでした。自分たちを育ててくれた2人や村の人たちを救うと言う決意は勿論、自分と同じ存在がこんなにたくさんいれば、どんなに怖い鬼が相手でもきっと勝てる、という自信に満ち溢れていたのです。

 

 そして、ついに一行は鬼ヶ島の海岸へとたどり着きました。次々に船から降り、臨戦態勢に入った804人の桃太郎たちの耳に、この世のものとも思えない恐ろしい声が響き始めました。


「よく来たな、桃太郎軍団!」


 一斉にその方向を向いた桃太郎の目に映ったのは、憎たらしい笑みを浮かべる鬼の姿でした。ここまでたっぷりと軍勢を増やし準備を整えてきたようだがそれは全て無駄、ここで貴様らを倒して外の世界のあらゆる財産を奪い取ってやる――その宣戦布告を聞き、桃太郎たちは鬼を睨みつけながら剣を構えました。 



「「「「「「「「「「そんな事は、私たちが絶対にさせない!」」」」」」」」」


「ほう、たったの804人だけで、勝てると思ったのかぁ?」


「「「「「「「「「「「「「「「何……?」」」」」」」」」」」



 そして、鬼が大きく指を鳴らした瞬間、桃太郎たちでも驚きを隠せない事態が起こりました。突然、804人の彼らを取り囲むかのように無数の影が現れたのです。しかもその影の数は、明らかに桃太郎たちよりも多く、果てが見えないほどでした。そして、中央の鬼の号令と共に一斉に襲い掛かってきたその影の正体は――!


「さあ行くのだ!100万人の鬼軍団よ!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 ――鬼ヶ島に潜んでいた、最強最悪の鬼軍団だったのです!


=============


「ほらほらどうした、桃太郎さんよぉ♪」「お前の力はそれだけかぁ?」「拍子抜けだなぁ!」

「「「「「「「「「「「「「「「ぐっ……!」」」」」」」」」」」」」」



 さしもの桃太郎でも、数でしのぐ鬼たちを蹴散らすのは至難の業。倒しても倒しても、次々に新手の鬼が後方から襲い掛かり、桃太郎たちの体力をどんどん削いでいくのです。しかも相手は仲間の犠牲をもいとわず、あらゆる手段を使ってでも勝利を目指す卑劣な存在。正々堂々と戦おうとした804人の桃太郎たちは次第に追い詰められ、やがて鬼ヶ島の中央へと追い詰められていきました。



「ぐふふ、残念だったな桃太郎!」「貴様の『数』で、鬼に勝つことは出来ん!」

「「「「「「「「「「「「「「くっ、どうすれば……!」」」」」」」」」」」」



 その時、桃太郎たちは一斉にある事を思い出しました。全員の腰には、自分たちが増殖した数と同じだけ一緒に増えた、不思議な力を持つきび団子がまだ残っていたのです。そして、桃太郎たちはこれを渡してもらった時におばあさんが優しく教えてくれたある事を思い出しました。


「がははは、こんな時にきび団子か?」「知ってるぞ、これを食べれば数が増えるんだろう?」「そんなことをやっても無駄だと……!」



 外面だけを見ていたであろう鬼たちは知らない本当の効果――数だけではなく『力』も更に増す事を。



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はあっ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「ぐはぁぁっ!!」「ぎゃあああっ!!」「うおおおおおっ!!」



 きび団子の力で数が1608人に増えた桃太郎たちは、それを更に超えるだけの力をもって次々に数十万人もの鬼たちを蹴散らし始めました。先程とは打って変わって、いくら鬼たちが襲い掛かっても桃太郎はびくともしません。数の力に頼ることなく、彼らは1人1人が持つ力を信じて、人々を悪から守るために立ち向かい続けたのです。次第に、桃太郎たちの周りには気を失い倒れ果てた鬼たちの山があちこちに現れ始めました。



「なんだこの強さは!」「と、とても叶わねえ!」「に、逃げろ!」

「お、おいこら待て……うぎゃあああ!!」「うわああああ!」「ぐほっ!!」…


「はあっ!」「ふんっ!!」「覚悟!!」



 そして、何時間もの戦いの中で鬼たちは疲弊し、戦意を失い、とうとう桃太郎たちに取り囲まれるほどに数を減らしてしまったのです。



「「「「「「「「「「「「どうだ、おとなしく降参するか!」」」」」」」」」」」」


 最早こうなってしまったら、鬼たちに勝ち目はありません。

 1608人の桃太郎に睨まれた彼らはすっかり平伏し、財宝は全て返すので命だけは助けてくれ、と必死に懇願しました。その言葉に嘘偽りがない事をしっかりと確認した桃太郎たちは、もう二度と悪い事を企まないよう念を入れて注意した上で、鬼たちを許してあげる事にしたのです。自分たちの目的はあくまで皆から奪ったものを返してもらい、『平和』を取り戻すため。命を奪うという選択肢は無かった、と付け加えながら。



「あ、あれだけ強いのにそんな事を考えていたなんて……」「敵うわけ無かったわけだ……」「桃太郎さん、本当に悪かった……!」


「「「「「「「「「「「「「「「「分かればいいのさ」」」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「さあ、財宝を返してくれたまえ」」」」」」」」」」」」」」」



 こうして、1608人の桃太郎軍団は無事鬼たちの悪い心を退治しました。

 その後、財宝は皆で手分けして盗まれた先の人々へと返し、腐ってしまった食べ物の分は鬼たちが餞別として分けてくれた手持ちの財宝を渡してあげました。最終的に桃太郎の手元に残った宝は何一つありませんでしたが、それでも彼らは全く気にしていませんでした。桃太郎たちのもとには、『両親』が渡してくれた最高の宝、きび団子があるのですから。




「「「「「「「「「「「「「「「「「さあ、帰るか!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「そうだな!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」




 無事に指名を果たした桃太郎たちは道中で何度かきび団子を食べその数を12864人に増やしつつ、故郷の山奥へと戻っていきました。

 そして、おじいさんとおばあさん――桃太郎を育ててくれた『両親』に凱旋を報告しようとしたその時、彼らは一斉に目を丸くしながら驚きの表情を見せました。生まれてこの方、ここまで驚いたことは無いほどに。



「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「こ……これは……!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



 ですが、それも仕方ないでしょう。桃太郎たちの眼下に広がっていたのは、あの『きび団子』――その力と数を2倍、4倍、8倍と増やす不思議な食べ物をたっぷりと口に入れ続けた、若々しき姿のおじいさんとおばあさんが――。


「「おかえり、桃太郎♪」」おかえり、桃太郎♪」」おかえり、桃太郎♪」」おかえり、桃太郎♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」おかえり♪」」…



 ――90462569683198100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000人にまで増殖し、山という山、川という川を覆いつくしながら笑顔で桃太郎たちを迎える光景だったのですから……。


<おわり>

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増殖系昔ばなし 腹筋崩壊参謀 @CheeseCurriedRice

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