【「桃太郎」より】

無限桃太郎軍団 前編

 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。

 ある日おじいさんが山へ芝を狩りに行くと、そこに大きな大きな桃が落ちていました。


「これはいったいどうした事か。そうじゃ、おばあさんにも見せて、腐っていなければ一緒に食べてみよう」


 ところが、先に帰っていたおばあさんはおじいさんが背負ってきた桃を見てびっくり。

 なんと、川で洗濯をしていたおばあさんも、どんぶらこどんぶらこと流れてきた大きな大きな桃を見つけ、何とか家まで持ってきたのです。


「早く食べなければ腐ってしまいそうですねぇ、おじいさん」

「そうじゃな、ばあさん」


 そして、2人はまずおじいさんが拾ってきた桃を割り、中身が腐っていないことを確認したのち、思う存分頂きました。甘くて美味しい桃でお腹がいっぱいになったその時、突然2人の体が眩く光り輝きました。一体何が起こっているのか、周りが見えず慌てるおじいさんとおばあさんでしたが、光が収まったとき、2人はそれぞれの姿を見てさらに驚きました。


「なんと、これは……!!」

「おじいさん、これはどうなっておるんじゃ……!?」


 2人の体は、出会ったばかりの若々しい姿――凛々しく逞しい体を持つ男子と、誰もが振り返る美しい女子に戻っていたのです。訳が分かりませんが、これなら今までよりも更に仕事もこなせますし、何より若い頃の相手と一緒に過ごせるなんてまさに夢のようです。


「綺麗だねぇ、ばあさん……」

「あらやだ、この体でおばあさんなんてねぇ、おじいさん♪」

「こらこら、ばあさんだってそう言ってるじゃないか♪」



 そうこうしているうち、2人はもう1つ、おばあさんが持ってきた桃が残っていたことに気が付きました。

 これを食べればますます元気になり、格好よく綺麗になるかもしれない、そう考えたおばあさんは若々しい体で力いっぱい桃を叩き割りました。ところが、何故か包丁は桃を途中までしか割れず、何か固いものに当たり止まってしまいました。一体何事か、よっぽど大きな種が入っていたのか、と驚いたおじいさんとおばあさんが桃に近づいたその時、突然『種』は光り輝きながら2つに割れ――。


「まぁ……!!」

「なんとなんと……!!」


「おぎゃあ!おぎゃあ!」


 ――そこには、1人の可愛らしい赤ん坊が入っていたのです。

 おじいさんとおばあさんが、この不思議な子供を育てることにしたのは言うまでもないでしょう。

 そして、2人はこの子に桃から生まれたので『桃太郎』という名を付けました。



 それからというもの、桃太郎はすくすく元気に大きくなりました。

 おじいさんとおばあさん――いえ、この子にとっての「お父さん」と「お母さん」の愛に育まれ、山を駆け抜け木を登り、愛と正義にあふれた立派な人間に成長したのです。

 そして、桃太郎の元気が宿っていたからでしょうか、あの桃を食べてからというもの2人は年老いることなく、若々しい姿のまま、我が子の成長を見守り続ける事が出来ました。


 そんなある日、大変な事態が訪れました。


「おらぁ!そこの米をぜんぶよこせ!」

「宝もぜーんぶ俺たちのものだぜ~♪」


 悪い鬼たちが鬼ヶ島から来襲し、近くの村の宝や食べ物を次々と奪い取り始めたのです。


 幸い、おじいさんとおばあさんが住む山奥にはまだ被害はありませんでしたが、このままでは大変なことになってしまいます。

 いったいどうすれば良いのか、と2人が慌てていると、桃太郎は力強く告げました。鬼たちを退治して皆の宝を取り戻してくる、と。最初は止めようとした2人でしたが、桃太郎の決意を見て考えを改め、快く送り出すことにしました。


 立派な旗に切れ味抜群の刀、代々受け継いできた鎧をまとった桃太郎。そこに、若々しい美女になったおばあさんはあるものを授けました。


「これは一体何でしょうか?」

「これは『きび団子』と言う食べ物だよ。1つ食べれば2倍、2つ食べれば4倍、どんどん『力』が増していくのさ」


「ありがとうございます、大事に持っていきます!」


 

 そして桃太郎は『両親』に見送られ、意気揚々と旅立っていったのでした。



「桃太郎、頑張れや……ところでばあさん、このきび団子というのは……」

「あらごめんなさいね、私の家に代々伝わる不思議な食べ物でしてね、おじいさんも食べてみます?」

「それはありがたい、では一口……」


=============


 さて、鬼たちの本拠地、鬼ヶ島へ一路向かう桃太郎。

 しかし、歩けば当然お腹が空くもの。大きな音が鳴ってしまった桃太郎はいったん休み、おばあさんが渡してくれたきび団子を一口食べてみることにしました。するとどうでしょう、あっという間にお腹がいっぱいになり、少し疲れた体にも元気が戻ってきたのです。ところが、きび団子の効果はそれだけに留まりませんでした。


「えっ……!?」」


 桃太郎の体が光り輝いたと思った瞬間、なんと桃太郎の隣にもう1人、別の桃太郎が現れたのです。


 最初は当然驚いた2人の桃太郎でしたが、じっくり顔を合わせた両者は、目の前にいる自分そっくりの存在に決して悪意がない事を直感で理解しました。それに、鬼ヶ島では何が待つか分かりませんし、仲間も多いほうが良いでしょう。


「そこの私に似ている人、一緒に鬼ヶ島へ向かってくれるか?」

「当然だ、私も『桃太郎』という名前だからな」

「それは頼もしい、ありがとう」


 そして2人の桃太郎が固い握手を交わした時でした。近くから、驚いたような声が聞こえてきたのです。その方向を見た2人の目に留まったのは、口を大きく開きながら自分たちを見つめる1頭の犬でした。強くて優しいと評判の桃太郎が鬼ヶ島へ鬼退治に行くと聞き、ぜひお供にして欲しいとやってきた時、偶然にも桃太郎が2人に増えたところを目撃してしまったのです。



「「そうだったのか、驚かせてすまないな」」

「どっちも桃太郎さんだったんですね……信じられないですが……」



 そして、犬は桃太郎にあるお願いをしました。今の自分は弱くて力になれそうにないが、もしかしたらきび団子を食べれば立派に手助けできる存在になるかもしれない。だから自分にも、桃太郎の腰に付けたきび団子を1つ分けてほしい、と。勿論桃太郎が断わるわけはありませんでした。



「ありがとうございます……ってうわあああ!!」



 そしてたっぷりとその美味しさを味わい、ごくりと飲み込んだその時、突然犬の体が光り輝き始めました。やがて光の中で犬は大きく姿を変え、背は高く、足は長く、そして四つん這いから直立歩行となり、やがて気づいた時、そこにいたのは1頭の犬ではなく――!



「え、わ、私も……桃太郎さんに!?」



 ――なんと、桃太郎と全く同じ姿かたち、同じ声を持つ人間に変身していたのです!


 やはり最初は驚いてしまった犬でしたが、次第に嬉しさの心が勝り始めました。ずっと憧れていた桃太郎になり、一緒に鬼ヶ島へ行って悪い鬼たちを退治できるのですから。


「「それでは、犬君……いや、『私』かな?一緒に来てくれるか?」」

「どちらでも構いません!新たな『桃太郎』として、お供いたします!」



 こうして、桃太郎と犬――いえ、3人の桃太郎は鬼ヶ島へ向けて進み始めたのでした……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る