2-B 原力王

ワタルがシナプーに乗り、ライヤと共に町へと向かってから2日は経過した。


その間はシナプーから出る必要もなかったので、ワタルはライヤに様々な事を聞いていた。


シナプーには無限燃料『石核せっかく』が乗せてあり、そのエネルギーで動いている事。シナプーはライヤの父、ライオから譲り受けたものである事。ライオは石核の発見者かつシナプーの開発者であり、周囲からは『原力げんりき王』と呼ばれ慕われていた事……。


「ライヤは優しいんだな」


今までのライヤとの会話を想起していたワタルは、操縦室でモニターを眺めるライヤにそう声をかけた。


「急にどうした」


「いやね、だってシナプーのエネルギーを、他の町に分けるために旅してるんだろ?しかもほぼ見返り無しに」


「仕方ないだろう。町の亜石核あせっかくが動かなくなったら、その町のあらゆる機械がストップするんだ。放ってはおけないさ」


ライヤは振り向かないまま会話を続ける。

ライヤが言うには、町では亜石核あせっかくというものが電力や動力の燃料として使われているらしい。ただ、亜石核はシナプーの石核から作られた模造品……というよりはバッテリーに近いものらしく、石核が充電しないと稼働時間は5年と持たないらしい。


「それが優しいってのよ」


「……そういうものか?」


ライヤは難しそうな表情で首をかしげる。

善意ではあるものの、今まで当然のようにやってきた事に、そのような意識を持った事が無いのだろう。


「ああ、そういうもんさ。一人ではどうしようもなく困ってる人を助けるのは優しさだよ。さっきだって俺を助けてくれたしな」


「……なるほど。覚えておくよ」


ライヤは振り向かないまま、そう呟いた。



シナプーは荒野を進み続ける。

あと1日はこのままのんびりしたままなのかと考えると、ワタルは少し退屈に感じてきた。


「あぁ、あと1日か。退屈だなぁ」


あまりにも退屈なので、自然と声に出してしまう。

すると、ライヤから思いがけない返答がきた。


「退屈だと……いいんだけどな」


「あ?そりゃ一体どういう意味……」


ワタルが思わず聞き返そうとしたその瞬間、ワタルの動きが止まった。


「……何か近づいて来てないか?」


ワタルはエンジン音の轟く機内で、何かが荒野で走る音を聞き取った。


「わかるのか?モニターを見てみろ」


ライヤがモニターを指さす。

そこには、小さい戦車のようなものが猛スピードで走っている姿が見えた。


「なんだこれ……」


ワタルが眉をひそめる。そのはとてつもない速さで、シナプーの進路へと向かってきているのだ。


「ジョーンDだ……しつこい奴め」


「ジョーンD?」


「資源ハンター……盗賊だよ」


聞けばライヤがジョーンDと呼ぶは、石核のような原力を始めとした様々なエネルギーを根こそぎ奪う泥棒らしい。

奪ったエネルギーを町に高額で売りつけ、私腹を肥やしているとのことだ。


「うわー、悪いやつなのね」


「それをよりによって生活に必要な原力でやるんだからタチが悪い……」


「おいおい、さすがに石核が盗られたら大変じゃないの?」


「もちろん大変さ。だから対策してる」


そう言うと、ライヤはカタカタと素早くキーパッドを操作する。

そしてライヤが操作し終えると、モニターに動く影が映り込んだ。


モニターの映像はシナプーの外壁が映っている。

シナプーは地ならしのような唸り声を上げ、ゆっくりと外壁の一部を開くと、そこからは長い筒のようなもの――機銃がゆっくりと顔を出した。

ライヤはシナプーから武器を取り出したのだ。


「これで追っ払う」


「えっ」


こんな物騒な物を持ち出すほどなのか。ワタルは思わず声を漏らした。


機銃がジョーンDの戦車に狙いを決める。


そして次の瞬間、けたたましい銃声とともに戦車へと弾丸を浴びせた。


ズダダダダダ!


何十発もの鉛が小さな標的を襲う。


しかし、そんな猛攻にも関わらず戦車は止まらない。

それどころか、何発か命中したはずなのにどこにも破損は見られなかったのだ。


「うわ、無傷じゃないの」


「いつものことだよ」


他人事のように口を挟むワタルを横目に、ライヤはキーパッドを再び操作した。


続いてシナプーから顔を出したのは、爆発力のあるロケットランチャー。

迷う事なくジョーンDに照準を合わせると、これも間髪入れずに発射。


ドカァーン!


瞬く間に着弾し、大きな爆風で土を舞い上げた。


しかし、戦車は素早く蛇行をすることで、爆風の直撃を避けてしまっていた。


「あいつもやるなぁ」


「ちっ……弾がもったいない」


敵に関心するワタルを横目に、ライヤは顔をしかめた。


戦車の勢いは弱まらない。このままではもうすぐシナプーの足元に行ってしまう。


「くそっ、面倒だな」


「……」


今までとは違うのだろうか。ライラが苛立つ姿から、今の回避は予想外だった事がよくわかる。


「仕方ないな……俺に任せろ!」


見かねたワタルはそう言うと、早足で操縦室を出た。



猛スピードで来た道を駆け戻る。


ドアを開けシナプーの外に出ると、すぐさまあたりをキョロキョロと見回すワタル。

そして程なく、戦車の位置を目視した。


「おお、いたいた」


戦車は砂埃を巻き上げ、シナプーと並走している。

しかし詰めに詰められ、今やとてつもなく距離が近い。ほとんどシナプーの足元とも言える位置だ。

やや丸いシナプーでは体の影に隠れて見えないだろう。


「肉眼で見るとよォ〜くわかるぜ……。ん……あのボロ戦車、年代モノかな」


のん気な言葉をこぼすワタルだったが、戦車の動きには一瞬たりとも目を離さなかった。


すると突如、戦車の砲身がワタルに向く。


「!」


ズガァン!


瞬時に素早く跳んでシナプーの外壁にしがみつくワタル。

一瞬遅れて砲弾が発射され、先ほどまでワタルが居た足場をかすめた。


「おぉう、危ねぇなあ」


幸い、弾はシナプーにも当たらなかったが、通り過ぎたそれはとても大きく、殺人的な速さだった。

もしワタルに命中しようものなら、体の半分が吹き飛ばされてしまうだろう。


「ヤロー、ぶっ潰すつもりだな」


その一撃から戦車の殺意を感じ取ったワタル。

すぐさま外壁を蹴り、走り続けるシナプーの足に飛び移った。


掴まると同時に別の足へとまた移動する。

また掴まると、次はまた別の足へ。


足と足の間を次々と渡り、少しづつ戦車へと距離を詰める。


もちろん戦車もそんな奴を撃ち墜とそうと砲身を構えるが、激しく動くシナプーの足に加え、そこを止まることなく乗り継ぐワタルには照準が定まらなかった。


そうしているうちに、ワタルはついに戦車へと飛び移る。


真上に乗られ、戦車も砲身が向けられない状態だ。


ワタルは戦車にしがみつきながら、シナプーから持ち出したであろうスパナを掲げると、戦車のハッチめがけて2、3度振り下ろした。


「こにゃろ!こにゃろ!」


ガンガンとハッチから鈍い音が鳴る。


もちろん弾を耐える戦車にこんな攻撃は効くはずがないし、ワタルも攻撃として殴ったわけではなかった。


「よし、この辺だな?」


ワタルはハッチの音の響き具合で、ハッチのどこに鍵があるかを確認していたのだ。

鍵の位置を確認したワタルは、これまた懐から今度は親指ほどの太さのある大きな穴あけドリルを取り出した。


そのドリルを躊躇なくハッチに突き立て、穴を開けるワタル。

深く刺すにつれて、ハッチからガリガリと異音が鳴る。

最後まで穴を通すと、そのままドリルをひっかけ、の要領でこじ開けた。


中を覗くと、そこには一人の操縦士。

この戦車は大きさからもわかるように、一人乗りの戦車だった。


「っ!」


操縦士・ジョーンDは開けられた音に反応し、こちらを向く。

シナプーから降りてきた見たこともない男を目の前に、ジョーンDは思わず叫んだ。


「お、お前は一体誰だ!」


「俺は通りすがりの迷子ちゃんだ。覚えておけ」


驚くジョーンDに、ワタルは一言だけ言い放つ。

そして、手に持っていたスパナを振りかざし、ジョーンDの頭を思い切り殴りつけた。

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イセカイワタル! -Let me return- Lein. @lears33

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