第3話 悪魔に取り憑かれた村で悪魔を倒してゲームオーバー

ここはとある村。噂では悪魔が暴れていて何人も犠牲者が出ているらしい。

そんな噂を耳にした一人の冒険者が、悪魔を倒すべくその村へと向かうこととしました。


冒険者が村に着いたとき、彼はなんとも言えぬ違和感を感じました。

村全体に臭気が漂うというか、村人自身が何かにヒドく怯えている様子でした。

「悪魔が居着いてしまっているのなら無理もないか」

冒険者はそう思い、村人一人ひとりに話を聞いて回ります。

村人の口は固かったのですが、悪魔を倒しに来たことを告げると徐々にぽつぽつと悪魔について語ってくれるようになりました。


冒険者が村人から聞いた悪魔についての情報は次の通り。

・悪魔が子供に取り憑き、その子供は数日も持たずに弱り果てて死んだ

・大切に保存していた食料が次々に腐ってしまい、もう村には食べ物が少なくなってしまっている

・悪魔を祓おうとした者がいたが、悪魔の怒りを買い家ごと燃えて死んでしまった

・親切だった商店の夫婦が悪魔に操られて人が変わってしまい、食料など商品の値段を釣り上げている

・悪魔に操られた村人が毎晩のように酒に溺れて気力を失っている

・悪魔について調べに来た学者がいたが、逆に操られるようになりデタラメばかりを触れ舞うようになった


そして現在、悪魔の封印に一時的に成功したため、人々は徐々に正気に戻りつつあるとのこと。村人は冒険者に伝えます。

「悪魔の封印のために、この村の代々の神官でもある村長が自らの身体に悪魔を閉じ込めた。しかし封印は完全ではないため、いまは村長は村はずれの洞窟に籠もり一人で自分の中の悪魔と闘っている。洞窟の前には監視役の村人が2人いるはず。もし冒険者様が悪魔を倒せる術を持つのなら、洞窟にお向かい下さい」

冒険者はこの村に着く途中の街の神殿で悪魔退治の術を学び、そのための道具も揃えて来ていました。実際に悪魔を見たことがあるわけではなかったのですが、話を聞く限りは自分でも何とかなりそうだと思いました。


そうして冒険者は洞窟に向かい入り口で見張りをしている村人に事情を話します。

本来は村のオキテにより村長以外は誰も洞窟に入ってはならないとのこと。しかし街の神殿で授かった悪魔退治の紋章を見せると、それなら、ということで中に入ることを許されました。


話によると村長は洞窟最深部の部屋のようなところで封印の儀式を続けているらしいです。洞窟自体は入り組んでいるわけでもなく、ほぼ一本道。脇には小さな水路があり水も流れています。洞窟は結構な距離で掘られていましたが、しばらく歩いていると灯りが灯る部屋にたどり着きました。


冒険者は用心深く部屋の外から中の様子を探ります。灯りも付いているし村長がいるはずですが、それにしても静か過ぎます。人の気配がしません。

「おーい。村長さん、いるんだろう?」

と声もかけてもまったく返事がありません。

「これは村長は封印に失敗しているのかも知れないな…」

冒険者は悪魔と対峙することも覚悟して部屋の中を覗きます。

すると村長は首にナイフを突き刺した形で床に大の字で倒れていました。目を見開いているがすでに手遅れのようでした。

「遅かったか…。しかし、これは何かの儀式なのだろうか?そういえば神殿にいたときに聞いた話では身体に封印した悪魔を滅するために自らの命と引き換えにする方法があったな。この状況からして、村長はその術で悪魔を滅したのか…」

冒険者はとりあえず悪魔が退治されたと思い安心しました。そして改めて部屋の中を見渡すと、部屋の隅の机の上に一冊の手帳があるのを見つけます。おそらく村長が残した手帳でしょう。悪魔退治について何か書かれているかも知れません。そうして冒険者が手帳を開くと、最近の日付が書かれた村長のモノと思われるメモが書かれているのを見つけました。そのメモには

・死んだ子供は、周囲に面倒ばかりかけていたため親が憎さから殺してしまった

・食料が腐っていたのは、その子供が泥や動物の死骸を塗り付けたいたずらが原因

・家ごと燃えて死んだあの男は、酔っ払って転んだ時に松明にぶつかりその火が燃え広がったのが原因

・商店の夫婦は少なくなった食品で一儲けしようと値段を釣り上げていた。

・酒に溺れて気力を失うことに悪魔は関係ない。仕事もなくやることもないなら酒に溺れるのは自然な成り行き

・デタラメばかり言う学者がいるが、あれは元から学者でもなんでもない。あぁやって注目を浴びたいだけ

となどなど書かれていました。そしてメモの最後には

「悪魔がいると思い込めば、なんでも悪魔の仕業にすることが出来る。つまりは悪魔なんてのは、人の心が産み出した魔物に他ならない。そしてこの村に代々伝わる悪魔祓いの儀式は、こうやって村長が悪魔を封印して一時的に人々の心から忘れ去らせることにある。これを読んでいるということは次の村長なのだろう。この村の平和を守るにはこれしか術がないのだよ。私も先代のメモを読んで全ての事情を悟った。洞窟に入った村長は代々こうして死を迎える。私のように死に急ぐ必要はないが、村の平和のためにすべきことはこれしかない」

冒険者は愕然としました。そして部屋の奥の少し窪んでいる場所には何体分でしょう、骸骨がいくつも積まれていました。おそらくは歴代の村長たちの骸骨なのでしょう。


そしてしばらく冒険者は考えました。

「いくらこのような形で村の平和が保たれているといっても、これは呪いでしかない。村人たちに真実を告げなければ、ずっとこんなことを続けるだけだ」

冒険者は村人に真実を伝えるために洞窟の外に出ます。とりあえず入り口にいる村人に広場に出来るだけ多くの村人を集めるように頼みました。


そして日が沈み広場にいくつもの松明の灯りが灯ります。多くの村人が集まって来ていました。そして冒険者は広場の真ん中の壇上に立ち、村人たちに訴えます。

「みなさん!この村はずっと悪魔により苦しめられていました。そしてそれを代々の村長が押さえて平和が保たれていた。しかし、悪魔なんてのはどこにもいないのです!私はあの洞窟に入り村長の記した手帳を見つけました。そこには書かれていました。悪魔なんていない!それは人の恐怖が生み出した幻想という化け物に過ぎないのだと!」

広場は静まり返ります。そして次第に村人たちは少しずつ口を開きます。

「え、じゃああれは悪魔の仕業じゃなかったの?」

「そうかも知れない。よく考えたら悪魔の仕業で困っていたことももっと簡単に説明がつく」

悪魔を否定する声が広まっていきます。これでこの村からは悪魔は完全にいなくなる、と冒険者は思いました。

しかし

「じゃあ悪魔に取り憑かれたっていうあの子はなんで死んだの?」

「悪魔が死なせたんじゃなければ誰かが死なせたってこと?いったい誰が?」

「悪魔のせいで酔いつぶれていたってのも嘘?ただの酒を飲みたいってだけの言い訳?」

なにやら広場の雰囲気が変わってきてしまいました。

そうして徐々に村人たちの声が大きくなり

「お前が子供を殺したのか!」

「悪魔のせいにして酒ばかり飲んでいたんじゃないのか!」

だんだん村人の声に怒りの感情が混じって来ました。

冒険者は不穏な空気を感じます。

「これはマズい。このままでは村人たちがお互いがお互いに怒りをぶつけて暴動になってしてしまう」

そう思った時に広場の一角から場の空気を切り裂く大声が響き渡りました。

「みなさん!悪魔はちゃんといます!あの冒険者が言っていることを真に受けてはいけません!ああやって悪魔がいないと言って安心させて、また私達に取り憑くつもりです。現にこうしてみんなが怒って互いを憎みだしている。それこそが悪魔の思う壺です!あの冒険者こそ悪魔の化身です!!!」

そして次第にそれに呼応した声が高まっていきます。

「そうだ。あいつがこんなときに来たのは村長の封印の儀式を邪魔するためだ!」

「悪魔の味方は悪魔でしかない!」

「どうせ街の神殿で授かったとかいう紋章も偽物に違いない!」

「あいつを捕まえて自分は悪魔だと白状させろ!!!」

冒険者は身の危険を感じて走り出します。が、広場の途中で道を塞がれ次の瞬間に後ろから頭を殴られて気を失い倒れてしまいました。


冒険者が気がつくとそこはあの洞窟の中でした。どうやら悪魔として洞窟に閉じ込められてしまったようです。灯りもなくほとんど何も見えないのですが、入り口に通じるであろう方向は扉で塞がれてしまっていました。これでは洞窟の前にいる村人に何かを訴えることも出来ません。どうすればいいのか分からず冒険者は諦めかけますが、それでも最深部の部屋の机の上にマッチがあったことを思い出します。暗闇の中、壁伝いになんとかあの部屋にまでたどり着きマッチを見つけて火を付けました。そうして冒険者は思いました。

「悪魔を消せると思っていた自分が愚かだった…。人の心が、恐怖が悪魔という怪物を生み出すのなら、人の心がある以上、悪魔はいつでも甦ってくる。何か理不尽なことは悪魔の責任に押し付ける。その悪魔がいなくなれば理不尽は人の元に帰っていく。理不尽が理不尽であるほど人の心は耐え切れずに再び悪魔を生み出す、か。なるほど。こうして自分が悪魔として閉じ込められているのなら、いま村人の心の中には悪魔がいないのだろう。この村の平和とはこういうことだったのか」

冒険者はこうして村長が本当に伝えたかったことを悟ったのでした。何故、代々の村長が悪魔を存在をそのままにしていたのか、それが理解出来ました。自らにナイフを突き立てた村長もそれを理解したからこそ自らの命を絶ったのでしょう。


こうして村の平和はその形のまま続いていきました。


冒険者は洞窟の奥で衰弱していきましたが、一縷の望みをかけて死の間際に洞窟の奥の小さな水路から村長の手帳を流しました。洞窟から流れ出たその川の縁で偶然その手帳が拾われたことから始まるストーリーはまた別のお話。


おしまい。

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ストーリーの本筋以外で詰む冒険者の物語 ゆたりん @nirakuyu

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