第2話 荒れ果てた農村を復興してゲームオーバー
とある山間に普通の農村がありました。特に裕福でもなく、かといって貧しくもなく平穏な生活がずっと続いていました。しかししばらく収穫が多い年が続いていたため、若者の数が多くなっていました。村の農地はそれほど広くはないため、このままでは将来的に仕事にあぶれる若者が出てきそうでした。そこで大人たちはいろいろ対策を考えていたのですが、これといって解決策が見つかりません。
そんなある日のこと、旅の商人が一人の人間を連れて来ました。商人の紹介によると、その人間は有名な開拓指導者であるそうです。なんでも貧しい村に対して開拓指導を行い、これまでにいくつもの村を救って来たとのこと。ちょうど山の向こう側での開拓の仕事が終わったので、次の仕事を求めて商人に誘われてこの村に来たそうです。
とりあえずまずは村の様子を見てもらおうと、大人たちは開拓指導者にしばらく滞在してもらうことにしました。そして開拓指導者の調査の見立てによると、山の中腹に比較的平坦な場所があり陽当たりや水源もなんとかなりそうだということでした。大人たちは渡りに船とばかりに、その開拓者に依頼することにしました。開拓に成功すれば将来仕事にあぶれそうな若者にも農地を与えることができます。
そうして、村の大人たちや若者が総出で開拓を行うことになりました。ただ大人たちは農地で作物を作ることしか知らないので、開拓は開拓者の指導に従い行うことに。
始めのうちは慣れない作業で皆が手間取っていましたが、木々の伐採や水源からの水路の導入などにより徐々に農地らしくなって来ました。
そんなある日のこと、村は大雨に見舞われます。それでも年に数回ある程度の大雨だったので、村人達はあまり気にも止めずに眠りにつきました。
しかし、夜更けに雨が強まると山の方から何やら聞いたことのない音が聞こえてきます。
ゴロゴロゴロゴロ
石が転がるような、また木が折れるような。そして少しおかしな臭いもしています。
何人かの村人達が起きて松明を手に広場に集まりました。そしてどうやら開拓途中の農地あたりで大雨により何かが起きているという話になったとき
いきなり巨大な石や折れた木々がすさまじい濁流とともに村を直撃しました。
広場に集まった村人はもちろん、村の大半がその濁流に飲み込まれました。
翌朝になり明るくなってから様子が明らかになりましたが、かろうじて村の離れの家の住民が数十人生き残っていただけでした。村の農地も濁流でほぼ使い物にならなくなり、大きな石もたくさん転がっている有り様。そしてあの開拓指導者は濁流の朝に姿こそあったものの、いつの間にか見当たらなくなっていたそうです。
生き残った大人たちは反省します。あんな開拓指導者の話になんて乗らなければ多少苦しくてもずっと平穏に暮らせていたはずなのに…、と。
場面は変わり、とあるところに別の村の若者がいました。この冒険の主人公はこの若者です。その若者は自分の村にはもう分けられる仕事がないからと、村から追い出されていました。若者も手狭な村の生活に飽き飽きしていたので、追い出されたのは好都合だと思っていました。そしてその若者はしばらく旅を続けたのちに、あの濁流に飲まれた村にたどり着きます。
濁流の災害から数年が経っていたとはいえ、その村の農地は荒れ果てたままでした。若者は考えます。
「かなり荒れているけど、頑張れば結構いい畑になりそうだ」、と。
そうして若者は村人に頼みこみ荒れた畑のいくらかを借り受けることが出来ました。村人も
「あんなに石がゴロゴロしている荒れた畑じゃ何も出来やしないのだから、よそ者に貸しても損はないだろう」
と思っていました。
若者は荒れた畑を開墾するために頑張りました。大きな石があれば少しずつ砕いて畑から取り除いていきました。土砂に覆われていた地面も耕して、畑らしく戻していきます。そうしてまずは自分が食べる分だけ収穫出来る畑を耕し、また次の年にも荒れた畑を使えるように戻していきます。そして数年の後にはかなりの広さの畑で作物を育てられるところまでになりました。若者は始めは苦しかったのですが、いまでは満足そうに暮らしています。村娘の一人とも結婚して子供も生まれます。
しかし、それを見ていた元の村民はおもしろくありません。
「もともと余所者なんかの話に乗ったせいで、こんな苦しくなっちまったんだ。あんな余所者のいいようにやらせてたまるものか」
と村民は不満に思っていました。
そしてついに我慢し切れずに、村民は若者に告げます。
「若いの、そろそろ畑を返してもらおうか。せっかく頑張って耕してもらったのに悪いが、ここの畑も返してもらわないとこっちも生活出来ないんでね」
若者はそれはないだろうと反論します。
「いや、借りたとはいえあんなに荒れていた畑をここまで戻したのはオレですよ。それを黙って返したらただの働き損じゃないですか!」
村民は答えます。
「ふむ、言いたいことは分からないでもない。だが、ここは元々ウチラの畑だったのだよ。貸し借りは貸し借り。何があってもちゃんと返すってのが筋だろう?ただお前さんの働きは認めよう。今度はまた別の土地を貸してやる」
そういって村人が示した土地は、これまでよりもっと荒れ果てていた土地でした。
若者は言いたいことは山ほどあったのですがぐっと我慢してその条件を飲みました。あの生まれた村から追い出された時とは違い、いまでは家族がいるのでアテがないまま村から出て行くことも出来なかったのです。
その後、若者はずっと一人で畑を耕し続けました。家に帰れば家族がいる。それを支えにして。しかし荒れた畑が耕し終わった頃にはまた村民から土地を取り上げられます。それが何度も何度も繰り返され、ついには数十年の時が過ぎました。
その頃、村からはすっかり濁流の災害の跡も見えなくなっていました。それはあの若者だった男の働きに他ならないのですが、村民はずっと余所者扱いをしてその功績は認めませんでした。
さて災害から数十年も経ったため、何故村が壊滅しかける濁流が起きたのかを覚えている村民は少なくなっていました。かつて大人だった村民はこの世を去り、話を伝え聞いている者も詳しくは知らされていません。
余所者の開拓指導者に騙されたなどというのはこの村の誇りに関わるので、伝承からはいつの間にか無理に開拓したのが原因という部分が抜かれていました。
当然余所者の男もただ濁流に飲まれて荒れていたという事実しか知りません。
そして男の息子も立派な大人になり一緒に働くようになったころ、また村民から土地を取り上げられます。男も家族ももうこちらの主張は通らないと諦めていてそれが当然だと黙って従います。
村はすっかり元通りになり村民も増えていました。もう男に耕させる土地はありません。かといって村の娘と結婚している以上村から追い出すことも出来ません。そこで村民たちは話し合い、山の中腹の土地を貸し与えることにしました。かつての濁流の原因となった場所より少し離れている場所です。男はここで思います。
「もうこの村では自分達の家族が暮らしていくことは諦めよう。自分や嫁はともかく息子はまだ若い。ここをあらかた耕せたらどこか別の村に旅立たせよう」、と。
そうして家族総出で中腹の木々を切り倒し水路を引きました。なんとか生活出来る程度の広さの農地を耕し終わった時に男は息子に告げます。
「この村はオレ達家族が暮らしていけるような場所ではない。オレと母さんはもう歳だ。ひっそりとここで暮らす。息子よ、お前は自分で自分の生きる道を見つけろ。どこにもアテはないだろうが、オレが生まれた村の場所を教えておいてやる。そこでオレの名前を出せば少しくらいは世話になれるはずだ」
そうして息子は旅立っていきました。男の生まれた村へ行ったのかそれともどこか他の場所へ行ったのかは分かりません。それでもここよりは幸せになれるだろう、そう男は思いながら嫁とともに静かに生涯を終えました。
さて、それからしばらくすると村民たちが男が耕した中腹にやってきます。どうやらまた農地を求めて開拓に乗り出して来たようです。村民たちは男の家族が暮らした家を壊し木々を切り倒し中腹をどんどん開拓していきます。次第に農地らしく整って来ました。
そんなある日のこと、また村では大雨に見舞われます。いつもと変わらない程度の大雨。そして誰もかつての災害のことなど覚えていません。
ゴロゴロゴロゴロ…
夜もすっかり更けたころ、村には聞き慣れない音が響いていました。いつもの大雨で何か起きるわけでもない、明日はまた農作業と開拓の手伝いだ。そのときは村民の誰もがそう思っていました…。
おしまい
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