ストーリーの本筋以外で詰む冒険者の物語

ゆたりん

第1話 暴れスライム倒してゲームオーバー

とある村で1匹のスライムが暴れていました。スライムは村の畑を荒らし好き放題に野菜を食い散らしていました。村の人々は口々につぶやきます。

「あんなスライム、早く倒されてしまえばいいのに」と。


ある日、一人の旅の冒険者がその村に通りかかりました。冒険者も通りすがらスライムが暴れているのを目にしたので、村人に聞いてみました。

「あのようなスライムが暴れて困っているのではないですか?」と。

そして村人は答えました。

「はい、とても困っています。作物は荒らされるし、これでは生活していけません」

そして冒険者は答えます。

「困っている人は見過ごせません。私があのスライムを倒して来ましょう」

村人も

「それはありがたい。倒していただけるのなら、精一杯のお礼を致します」


そして冒険者はスライム退治に向かいました。とはいってもスライムは近くの村はずれの畑で暴れていたのですぐに見つけることが出来ました。しかしここで冒険者は疑問に思います。

「はて?あれくらいのスライムなら村人でも簡単に倒せるくらいの弱さなんだけども?」と。

「まぁいいか。とりあえず倒してしまおう」

そして冒険者の剣のひと振りでスライムはあっさりと倒されます。


「これでよし」


スライムを倒すと手に入る魔石の欠片も忘れずに回収しました。これがあればスライムを倒した証拠にもなります。そして冒険者は村に戻りますが、あの村人はどこにもいませんでした。それどころか、村内のどこにも人々の姿がありません。家の扉を叩いても返事すらない有り様。

冒険者は今日の寝床も無いためしかたなく村の広場の隅で夕食と寝床の準備をすることにしました。

「村の人はみんなどこにいったのだろう?どこかの集会にでも出向いているのかな?」

冒険者はそんなことを考えながら作業をしていました。


そして日が暮れてあたりがすっかり暗くなったころ、急に騒がしい物音が聞こえて来ました。松明の灯りもいくつも見えます。どうやら村人たちが戻ってきたようです。冒険者は足早に向かってくる松明の灯りの下へ向かいます。

「やあやあ、どこに行っていたのですか?ちゃんとあの暴れスライムは倒しましたよ。もう安心して下さい」と。

しかしよく見ると、松明の灯りを持っているのは剣と鎧を装備した戦士のようです。そして何人かの戦士達の後ろには村人の姿も見えます。あのスライムに困っていると訴えていた村人の姿もあります。

冒険者とその村人の目が合うと、突然その村人が大声をあげ

「あいつだ!あいつがスライムを殺してしまったんだ!」と叫びました。

冒険者は答えます。

「えぇ、ちゃんと倒しましたよ。証拠にスライムを倒した時に出てきた魔石の欠片もあります。もう畑を荒らされることはないですよ」

村人は戦士に訴えます。

「ほら、言ったとおり!あの冒険者が王子様が大切に飼われていたスライムを殺してしまったんだ!証拠の魔石の欠片も持っている!すぐに捕まえ下さい!!!」

戦士は言います。

「冒険者。お前は王子様が飼われていたスライムを殺すという王家に逆らう重罪を犯した。この国ではそれは死に値する。証拠もお前が持っているし、お前がいま言ったことはいましかとこの耳で聞いた。お前の身柄はすぐに城下に送られ裁かれるだろうが、まず間違いなく死刑だろう」

冒険者は反論します。

「そんな!私は村で暴れ回っていたスライムを倒しただけです!この国の王子様が飼われていたなんてことは知りませんでした!それにあの村人もそんなことは言ってませんでしたよ!ですよね!?」と村人に訴えます。

「何を言っている!誰もお前のことなど知らないぞ!おおかた、村民が出払った留守の間に盗人でも働こうとしたんだろう。おまけにあろうことか王子様のスライムも殺してしまうなんて!処罰されて当然だ!!!」

村人は大声を上げて冒険者を罵倒します。他の村人も口々に罵倒を浴びせかけました。冒険者は必死に反論しますが、村人の罵声によりその声は虚しくかき消されます。

そうして冒険者は戦士たちに拘束され、城下に送られて行きました。


その後、その冒険者の姿を見た者はどこにもいなかったそうです。


一部始終を見ていたその村の子供は大人たちに問いかけます。

「どうしてあの冒険者は捕まっちゃったの?悪いスライムも倒してくれたのに?なんでなんで?」

村の大人たちは

「いいか、あの冒険者は悪魔に操られていた悪いヤツだったんだ。もうあの冒険者の話は絶対にしてはいけないよ。悪魔の話をすると今度はお前が悪魔に操られてしまう」

と答え、あの冒険者の話をすることは誰もしなくなっていきました。


その後あの村では、もうスライムが暴れることは無くなり作物も多く取れるようになりました。また冒険者を捕まえることに協力したという功績により、王家より特別の扱いを受けられるようになったそうです。王家直属の様々な施設が建設され、町並みも整備されていきます。そして王子様のモンスターを飼うという趣味に付き合わされる役割は別の村に受け継がれることに。

こうして村では以前より裕福に暮らせるようになったそうな。


【時は少し前後し、冒険者が捕まってからしばらくしてからのこと】

子供たちはしばしば村はずれで遊んでいる時にこっそりとあの冒険者の話をしていました。怖いもの見たさからか、大人たちの目を盗んで悪魔の話をすることが子供たちの間で一種の楽しみになっていたからです。それを森の奥に住む魔女の使い魔のカラスが聞いていたことから始まるストーリーはまた別のお話。


おしまい

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