風を呼ぶ。吹き抜けるは海神の力、手繰り寄せるは愛しき者の運命

作者の代表作、『ロワールハイネス号の船鐘』のスピンオフ作品ですが、この作品だけ読んでも十分に楽しめます。
『ロワハイ』と同じ世界にて、海、船、海軍…といった、共通する魅力がぎゅっと詰まった作品ですので、『ロワハイ』の前にお試しに読んでみてもいいかもしれません。

本作は「風の力を操る巫女」リュイーシャが主人公です。
狭い島社会で巫女としての務めを果たしてきた彼女が、ある人間たちの欲望に翻弄され、島を出ることを余儀なくされる。
島を襲う激動の場面から、物語が大きく動き出します。

心優しく繊細で、それまで非道な人間の悪意など知らなかったリュイーシャ。
次々に危険な目に遭いながらも、芯の通ったひとりの強い女性として、まだ幼い妹や島の人々のために心を砕きます。
強大な「風の力」を秘めながらも、それを自分勝手な浅慮で使うことはありません。
どこまでも気高く、気配りのできるたおやかな女性なのです。

そんな彼女にも、「力をこの人のために使いたい」と思う人が現れました。
「私はあなたの風になれる」
その思いが彼女を突き動かし、愛する人の危機を救います。

ときに荒れ狂う広大な海を舞台に、まるで映画のようなダイナミックなストーリーが展開されます。
海神のもとに生きる、高貴な心を持った美しい乙女の物語。
ぜひ、映画を観るような気持ちでご鑑賞ください。