5周年記念SS「オルトゥスの新リーダーは」

特級ギルドの1巻が発売されて早5年!

つまりデビュー5周年です!

6年目も頑張りますので今後ともよろしくお願いしますー!


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 いつかは来ると思っていた。みんな、覚悟はしていたことだ。


「嫌だからね! 私は絶対に引き受けないわ!!」

「いくらサウラディーテが引き受けないと言い張っても、今だって実質君がオルトゥスのリーダーみたいなものじゃないか」


 そう、新しいオルトゥスのリーダーを決める日が……!


 話し合いが開始して早々サウラさんが宣言し、ケイさんが呆れたように反論している。

 割といつもの光景である。思わず乾いた笑いを浮かべてしまったよ。


 お父さんと父様が亡くなってからというもの、しばらくの間喪に服す期間が必要ではあった。


 けど、まさか十年以上もリーダー不在が続くとは。


 喪に服すにもほどがある。長命種の感覚ってほんと……まぁいい。


 他の特級ギルドや国の王様にもずっとせっつかれてはいたんだよ。けど最近になって人間の大陸からいい加減リーダーを決めてくれと泣きつかれちゃったんだよね。


 お父さんがいる間はすべての許可をお父さんが下せばそれでよかった。けど、リーダーがいない以上いろいろと手続きが面倒らしいのだ。

 人間って大変だよねぇ……。人間の感覚で十年は長いよね、ほんとごめん。


「私としても、適任はサウラだと思いますが……」

「俺もそう思うぞぉ! それに、いい加減リーダーを決めねぇと業務に差し支える」

「そうよ! だから早くリーダーを決めることには賛成。でもそれは私じゃないわ!」


 シュリエさんやニカさんにも推薦されているというのに、サウラさんの意見は変わらない。

 自分はリーダーにならないっていう意志はこの世の何よりも固い気がする。


 ところで……いつも思うんだけどさぁ。


 なんでこの場に私がいるの? 私、重鎮じゃないんだけど?


 今回はたまたまギルさんと一緒にいただけなんだよ。当たり前のように連れて来られちゃったんだけど。 


 ま、まぁそれもついでってことでいいとして。よくないけどいいとして。

 このままでは埒が明かない。今の流れはよくない。


 これまでもどうする? って話題が出る度にサウラさんの名前が挙がって、本人が拒否して結局決まらずに終わるって流れだったのだ。今回も同じ結末になりそうで心配だなぁ。


「多数決で決めたらどうだ」

「絶対にダメ。みんなして私を陥れる気満々じゃない」

「陥れるって……」

「あら、他にどんな言い方があるというのよ、ルド。みんなが私って言うんだもの。多数決になんてしたら決定しちゃうじゃない。断固拒否よ!」


 ルド医師の提案もこの通り、一秒と持たずに却下されちゃった。

 サウラさんの言い分もわかるけどね。確かに、多数決ならすぐにサウラさんで決まってしまう。


 あぁ、今日も決まらずに話し合いが終わってしまうのか。人間の大陸の人たちがまた泣いちゃう。


 よ、よし。ここは勇気を出して私が話の流れを変えてみよう! 重鎮でもなんでもない、この若輩エルフがね!


「あ、あのぉ、私が口を出す問題ではないと思いますが一応。サウラさんはどうしてそこまでリーダーになりたくないんですか?」


 恐る恐る告げると、私に一斉に注目が集まった。や、やめて、あんまり注目しないでっ!

 しかもどうしてそんなに驚いたような目を向けてくるのか。


 別におかしなことなんて聞いてないよ? むしろ、どうしてこれまでみんな聞かなかったのか不思議なくらいだよ!


「……頭領が、すごすぎる人だからよ」


 しばらくの沈黙を挟み、サウラさんが渋々といった様子で答えてくれた。

 口を尖らせている姿から、もしかすると本人も悔しい気持ちがどこかにあるのかもしれない。


「あんなに大胆で、自由で、頼みごとの上手な人はいないわ。無理な依頼でも頭領に言われたらなんだかんだと引き受けちゃう。それに、彼なら失敗してもなんとかしてくれるという絶対的な信頼があったわ。あの人は、リーダーになるべくしてなった人なのよ。そんな人の跡なんて、継げっこないじゃない……」


 サウラさんが漏らした本音に、みんなが一様に黙り込んでしまった。


 もちろん、私もだ。


 だって、その通りだって思っちゃったんだもん。お父さんはすごすぎる人だったよね。

 アレは計算で動けるようなものじゃない。お父さんは勘が鋭い人だったから。真似しようと思って出来るものじゃないよね。


 でも、誰もお父さんのようになれなんて思っていないよ。サウラさんのやり方でリーダーとしてオルトゥスを引っ張ってくれたらって思ってる。

 そのためのサポートはみんな全力でするだろうしね。


 ……ま、そういう話じゃないんだってこともわかっているけど。


 オルトゥスの創始者でもあるお父さんの影響力は絶大で……自分がリーダーになることでオルトゥスが変わってしまうのも怖いんだ。


 立場を自分に置き換えれば、サウラさんの不安は誰にでもわかることだった。


「そんなことを言ったら、適任なんて誰もいなくなってしまうよ。そんな中でも、最も頭領の意思を理解し、近くで支えてきたのがサウラだからみんな君が適任だと言っているんだ」

「それも、わかっているけど……でも、私はやっぱり補佐に回るのが性に合っているもの。リーダーのサポートを全力でやるのが生き甲斐なのよ」


 ルド医師が、この場にいるメンバーの声を代弁してくれている。

 本当にそうなんだよね。サウラさんで出来ないというのなら、この場にいる誰も出来ないって思っちゃう。


 そしてサウラさんは、お父さんがいた時のようにずっと誰かを支えていたいのだろう。


「正直、オルトゥスのリーダーはここにいるメンバーなら誰でもいいと思っているわ。いざという時の判断や決定は私もサポートするから。ただ、欲しいのは問題解決能力ね。ああ、頭領みたいな発想力を持つ人がいればいいのにっ!」

「確かに、あの斜め上の作戦や提案、大胆な行動力にはいつも驚かされたよねぇ」

「我々では思いつかないようなことばかり提案していましたね。あれは異世界の知識によるものでしょうか」


 お父さんを思い出してしんみりとした雰囲気が流れる。

 そんな中、これまで黙っていたギルさんがとある言葉を拾って呟いた。


「異世界の、知識……」


 ……ちょっと。

 ちょっと待って。


「あの、やめて。こっち見ないで……」

「適任だわ!! この世界でメグちゃんの頼みをきかない人なんていないもの!! こんな簡単なことに今まで気付かなかったなんて!!」

「ちょ、ちょっ」

「そういえば、メグちゃんはいつも会議に参加しているよね。まったく違和感がなかったな」

「ちょっと……」

「確かに、驚くべき発想力を持っていますよね、メグは。頭領でさえ驚くことも多々ありましたし」

「意外と大胆な行動とるしなぁ! がはは!!」

「ちょっとぉぉぉ!!」


 このままだとなし崩し的に私がリーダーにされてしまう!

 思わず皮切りとなる一言を発したギルさんを睨んだ。目を逸らされた!


「ダメですよ! まだまだ小娘でしかないエルフをオルトゥスのリーダーになんかしちゃ!! お飾りにしかなれませんっ!」

「メグちゃんがお飾りになるわけないわ。それに仕事はほとんど私が指示するし、難しいことはさせないもの。何かいい案はないか相談することはあるけどね!」

「そんな急に言われても出来ないですよっ!」


 サウラさん、自分が対象じゃなくなったらグイグイ来ますね!? 当然かもしれないけど!!


「ボクは出来ると思うなぁ。一度は魔王になるために色々と勉強もしていたでしょ? それが活かせるんじゃないかな。現魔王とも密に連絡が取り合えるし、いずれは特級ギルドアニュラスもメグちゃんと仲の良いルーンちゃんが引き継ぐだろうし」

「ケイさん、それは……」

「ふむ、頭領の忘れ形見であるオルトゥスを、娘の魂を持つメグが引き継ぐのはなんだか運命めいたものを感じるね」

「ルド医師も!?」


 ……正直、次代の魔王になると覚悟を決めた時よりは遥かに気が楽ではある。

 魔王城にもたくさん支えてくれる人がいたけど、オルトゥスは幼い頃からずっといる場所だから誰にどんな時頼ればいいのかもすぐにわかるから。


 それに、ルーンのこと。あの子はもっと小さな頃からいつかアニュラスのリーダーになるんだって言い続けていた。


 そんなルーンが誇らしくて尊敬出来て……ちょっと憧れていて。

 私にも、情熱を注げる何かを見つけられたらなって。


「メグ」


 心が揺れていた時、ギルさんから静かに声をかけられる。

 ふと見上げると、柔らかな黒い瞳がまるで全てを見透かしているかのように私を見つめていた。


「やりたくないなら、そう主張していい。俺たちはサウラの時と同じで、口出しはしても無理強いはしない」

「ギルさん……」


 周囲を見回すと、みんなもまた優しく私を見つめてくれている。

 期待はするけれど、あくまで私の意見を尊重してくれる、そんな安心感があった。


「ただ、もしメグが引き継いでもいいと思ってくれたなら……俺たちは安心する。誰よりも心優しい者が、誰よりも長くオルトゥスを守ってくれる。そんなメグを俺たちは全力で守るし、他の者たちもそうするだろう」

「誰からも愛されるメグちゃんなら、きっとオルトゥスは誰からも愛されるギルドであり続けると思うわ。どうしても、ダメかしら? 嫌だとごねた私が言うのもなんだけれど……」


 胸がドキドキする。なんだろう、私……。もしかして、嬉しいのかな。

 メグなら出来るって思ってもらえるのが、嬉しいのかも。


 お父さんが残したこの大事なオルトゥスを、引き継ぐのにふさわしいって思われるのは光栄だ。


 自信はない。まったくない。それに、こんな風にみんなにあっさりのせられるようなちょろいエルフで大丈夫?って感じだし。すぐ騙されるし。


 魔力だって今は膨大に持っているわけじゃない。弱くはないけど決して強くもない。頭だっていいわけじゃない。


「わ、私、きっとものすごくポンコツですよ……?」

「がはは! 安心しろぉ。ここにいるヤツら全員、どこかがポンコツだぁ!」

「全力でサポートしますよ。メグが困るような案件はそもそも持ち込みません」

「その前に篩にかけるよねぇ。任せてよメグちゃん。ボク、そういうのは得意だから」


 でも、とても強い味方がたくさんいる。


 胸の奥が熱い。

 突然のことで混乱したけど……落ち着いて考えてみればこれは、私の「やりたかったこと」なのかもしれない。


「……やり、ます。皆さんがそれでいいと言ってくれるなら」


 ワッと一斉に歓声が上がった。な、なんだか恥ずかしい。顔が熱くなっちゃう。


「あっ、でも頭領って呼ばないでくださいよっ! 私はどこまでいっても、ただのメグでしかないので!」

「ふふっ、わかったわ。オルトゥスのメグちゃんだものね」


 頭領なんて呼ばれるような器じゃないし……あの呼び方はお父さんのものだ。


 そうだよ、私はずっとオルトゥスのメグだ。たとえリーダーになったところでこれは変わらない。


 半ば流されるような感じではあったけど……ちゃんと、自分の意思で決めた。


 突然グイッと肩を引き寄せられて見上げると、嬉しそうに微笑むギルさんと目が合う。


「大丈夫だ。俺がいる。何があっても助ける」

「ギルさん……! うん、すっごく頼もしい!」


 えへへ、これは本当だよ? 起きたこと全て真っ先に相談しちゃうんだから。


「皆さんにも遠慮なく頼りますからね! 無茶ぶりされたとしても文句は受け付けませんよ!」

「あっ、今のは頭領っぽいね」

「頭領からもたくさん無茶ぶりされたよねぇ」

「これは早まったかぁ? がはは!」

「望むところですよ、メグ」


 うんうん、頼もしい。似てる部分があるのは仕方ない。魂は親子だからね!


 と、いうわけで。

 私、エルフのメグ。今日からオルトゥスのリーダーになります!


 ……あっ、すっごい重圧。くっ、負けないもんね! 頑張るもんねーっ!!


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お読みいただきありがとうございます!

特級ギルドは書籍全13巻(完結済)発売中です☆


それから特級ギルドを楽しんでくださった方は、現在連載中の「ルージュの巻き込まれループ人生」もオススメですよぉ……!

こちらもぜひ読んでもらえたら嬉しいです!

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特級ギルドへようこそ!〜看板娘の愛されエルフはみんなの心を和ませる〜 阿井 りいあ @airia

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