番外編

特級ギルド13巻発売記念小話「結婚指輪」

特級ギルドへようこそ!13(完結)は

本日(3月19日)発売です!


こちら読んだ後、またカバーイラストの指輪に注目してみてください♡


メグたちの物語を、お手元に迎えてもらえたら嬉しいです。


────────────────



 ────私はもうすぐ、ギルさんと結婚式を挙げる。


 なんでもない風を装っているけれど、実のところかなり舞い上がっていた。


 あ、いや。周囲の人たちにはバレバレみたいなんだけどね? なんでもない風を装ってるメグちゃんかわいい、とか言われちゃったし! 恥ずかしい!!


 そんな浮かれポンチな日々を送っていたある日、ギルさんが唐突にある提案をしてきた。


「メグ、指輪を買いに行こう」

「えっ」


 基本的にギルさんが買い物を提案することはあまりない。あっても必要な物を揃えるための、いわゆる買い出しのお誘いがほとんどだ。


 デートのお誘いは時々してくれるけど……それでも、ここまでピンポイントに行先ややることを伝えてくるのは珍しい。思わず変な声が出ちゃったのも仕方ないのである。


「指輪は、結婚する者が贈るのだろう?」

「お、覚えていてくれたの?」

「当たり前だ」


 けれど、続けられた言葉には思わず赤面してしまった。ついでににやけが止まらない。


 だ、だって! 結婚指輪なんてこの世界にはそんな習慣がないから……!


 それでも、結婚式が近付くにつれて脳内にちらついてはいたんだ。いくら恋愛方面に関してポンコツな私でも、人並みに憧れはあるから。


 お揃いの指輪を左手の薬指に嵌めて、永遠の愛を誓う。


 日本では永遠の愛っていうと大げさなイメージがあるけれど、この世界ではそんなことはない。

 むしろ魔力を持つ者は番を見つけると生涯たった一人を愛するのが当たり前だから。


 永遠の愛の証とも言える結婚指輪は、ロマンチックすぎるアイテムでしょ!?


 サウラさんやアドルさんあたりに知られたらまた商機! と言って目をキランとさせそうだ。


「確か、番同士がお揃いで身に付けるんだったな」

「あ、あれ? そこまで話してたっけ……?」

「ああ。かなり前に聞いた話だから、うろ覚えなんだが……合っているか? 他にも何かあるなら教えてほしいんだが」


 ギルさんがスパダリすぎて辛いっ!!


 些細な会話の内容を覚えていてくれた上に、さらに要求を聞こうとしてくれるなんてぇっ!


 というわけで、私はせっかくの機会だからとあれこれと説明することになったのでした。

 花嫁だもん、ちょっとくらいいいよね? ね?


「ふむ。つまり、そのダイヤモンドで作ったものがいいんだな?」

「あ、えーっと。厳密にはダイヤモンドの指輪は婚約指輪なんだけど……特に決まりはないよ? 石はなんでもいいし、結婚指輪は石のないシンプルなものが多いし!」


 ちゃんと説明したはずなんだけど、どうやらギルさんは私がダイヤの指輪を欲しがっているようだと認識みたいだった。


 た、確かに「給料三か月分って言われてて!」「プロポーズの定番で!」みたいに熱のこもった話し方になってしまった気はするけど。

 でも別にダイヤの指輪が絶対に欲しい! とまでは思っていなかったんだよ? 憧れはあるけど、本当にっ!


「それに、この世界でダイヤモンドがあるのかわからないし……」

「似た石ならあるかもしれないだろう」

「そ、れはそうだけど。でも、欲しいと思ったのは結婚指輪だから! 特に石はいらないんだよ!」


 なんだか宝石のある指輪を作る方向で話が進み始めた。本当に、シンプルな物でいいから!

 だってギルさんって基本的に装飾品は身に付けないでしょ? 出来るだけ邪魔にならないデザインの方が良い気がするし。


「だが、憧れているのだろう?」

「あう」

「観念して、石の特徴を教えてくれ」


 しかし、ギルさんの押しの方が強かった。こうなったらギルさんって譲らないからなぁ。私と同じで、変なところで頑固なのだ。

 そして私は憧れがある手前、強く拒否もできない。番だからそういう内面まで筒抜けなのが悔しい。


 お言葉通り、観念した私はダイヤモンドのことを伝えることにした。


「色が付いているのもあるけど、透明なのが一般的かなぁ……」


 とはいっても、私に宝石の知識はない。まったくと言っていいほどない。どんな種類の宝石があって、どんな色があるのかとかも覚えていなくて、全てがあやふやである。


 つまりダイヤモンドに関する知識はとても硬くて透明な石、くらいの知識しかないのです。

 あと婚約指輪によく使われる、くらいで。知識チートなんて使えない転生者ですみません。


「透明……」


 だというのに、ギルさんは真剣な顔で考えてくれている。なんだか申し訳なくなってきた。

 やっぱりいいよと断ろうと思ったところで、ギルさんは何かを思いついたように影の収納から何かを取り出した。何だろう?


「これは、ダメだろうか」

「あっ、それって……」


 ギルさんの手の上には、割れた透明な魔石が乗っていた。


 これはハイエルフの郷で、ピピィさんとシェルさんにお祝いとしてもらった魔石……? だよね?


 元はバスケットボールくらいの大きな魔石で、ピピィさんの絶対防御の魔術が込められていたものだ。

 あの最後の戦いの時、砕けてなくなったものだと思っていたけど……。


「なんとなく、大き目の破片を拾っておいたんだ。メグが後で悲しむかと思ってな」


 なんて出来る男なんだ、ギルさん。知ってたけど!


 で、それを思い出して今出してくれたんだよね? 確かにこの石は透明度の高いダイヤモンドのような魔石だ。


「せっかく貰ったものだ。あのいけすかないハイエルフから、っていうのが気に食わないが……メグを守ってくれた石だからな」


 いけすかないって。シェルさんに対するギルさんの認識は今後もずっと変わることはないんだろうなぁ。


 それでも、私の祖父というだけで尊重してくれたのだろう。あとはピピィさんに託された、という部分が大きいかもしれない。不服そうな顔しているけど。


 さらにギルさんは何かに思い当たったかのようにさらに眉根を寄せた。こ、今度はなんでしょう?


「だがこれは、高価なものではあるだろうが宝石でもない魔石だ。それに一度大きな魔術を付与し、砕けたせいでもう付与も出来ない」


 あぁ、確かに。この魔石はもはやクズ石扱いになっちゃうだろうな。でもきっと貴重な鉱石だろうし、同じクズ石でもそれなりに値は張ると思うけど。


 そもそも、この魔石は私にとって特別なものだ。プライスレスな一品ものと言えます!


「すまない。忘れてく……」

「待ってギルさん。私、これがいい!」


 諦めモードなギルさんを遮るように、私は声を上げた。

 ギルさんは驚いたように顔を上げつつ、申し訳なさそうに眉尻を下げている。提案したはいいものの、その価値があまりに低いと思って気まずいのかもしれない。


 でもね、そんなことない。そんなことは絶対にないし、そこはどうでもいいのだ。


「ただのアクセサリーになるぞ? どうせなら宝飾用魔石にして何かしらの魔術を付与した方が……」

「ううん。ただのアクセサリーなんかじゃないよ。さっきギルさんも言ったでしょ? 私を守ってくれた魔石だもん。特別なアクセサリーになるよ」


 私が欲しかったのは、ギルさんとお揃いの結婚指輪だ。高価なものである必要も、魔術を付与する必要も最初からないのである。


 なんなら、子どもが付けるようなオモチャの指輪でもいいくらいなんだよ。でもそれは絶対にダメと言うだろうし。


「それに、ギルさんがいつでも側にいてくれるんだよ? 付与なんて必要?」


 最後の一押しとばかりに私が悪戯っぽく笑って言うと、ギルさんはとうとう諦めたようにフッと笑った。


「……必要ないな」

「でしょ?」


 そう言い合って、二人して笑う。


 高価なものではなくて、二人にとって大切な物を身に着けたい。その思いが伝わってくれたようだ。


 この石は、私たちが協力して戦ったあの日の思い出が込められている。互いを思い合って、守りたいって願った強い思いも。


 そりゃあ、戦いは大変だったし苦しい思いもしたけれど。それも含めて大事な思い出だからね!


「俺がメグを守る。守らせてくれ」

「……うん。私だってギルさんを守るよ」


 ふと真剣な顔になったギルさんの言葉に、私も自分の気持ちを言葉にして返す。

 ギルさんは私の手を取ると、自分の頬に当て、そのまま手のひらにキスをした。……色っぽ過ぎてやばいです。


「今度の休みに、一緒に店に行って加工してもらおう」

「うん! 楽しみだなー」


 なんだか毎日のように幸せなことが起きてる気がする。でも、大変過ぎる目に逢って来たんだからご褒美だと思ってたくさんの幸せを受け止めようと思います!




 次の休みの日。私たちは約束通り二人で指輪を作りに行った。

 ピピィさんとシェルさんからのお祝いとして貰った透明な魔石は硬度が高く、加工が難しいと言われたけれど、そこはプロ。オルトゥス所属の職人も協力してくれて、素晴らしいカットをしてもらえた。


 っていうかこれ、実は本当にダイヤモンドだったり……?

 何度も言うけど私に石の知識はないからよくわからないけど。輝きが段違い……。


 そして注文してから十日ほど。指輪の形として完成したものをまた二人で受け取りに行った。


 お店で実物を軽く確認した後、二人でオルトゥスの私の自室へと足を運ぶ。

 これは特別なものだから、二人きりになれるところに行きたかったんだ。


「わぁ、綺麗……」


 金色の指輪は流線型となっていて、少しだけ石の周辺が捻じれているデザイン。

 そして加工をお願いした透明の魔石は角度を変える度にキラキラと輝く美しさがあった。もうダイヤモンドでいいよね、これ!?


「あの、ギルさん。お互いに指輪を付け合いたいんだけど……いいかな?」


 本当は、結婚式で指輪の交換をするんだけど、進行にも関わってくるし、無理は言えない。

 それに、出来れば二人きりでこっそり交換し合いたいなって、そう思ったんだ。


 ギルさんは快諾してくれて、優しい眼差しを向けながら手を出すようにと告げる。私はドキドキしながら左手を差し出した。


 指輪はスッと左手の薬指におさまった。それがどうにもくすぐったくて、しばらくぼんやりと眺めてしまう。


「メグ。改めて言おう。俺は生涯、メグのことを愛し続けると誓う」


 ここでプロポーズの言葉ですかぁぁぁぁっ!?

 ご褒美をいただきすぎじゃないですかね!?


 って、動揺している場合じゃない。私もギルさんに指輪を嵌めて答えなきゃ!


 慌てて左手を出してもらうように声をかけると、ギルさんはクスッと笑いながら手を差し出してくれた。


 ドキドキしすぎて手が震えてしまったけれど、ギルさんの左手薬指にも私と同じように指輪がおさまる。うっかりまた見惚れてしまいそうだったけど、その手をギュッと握りながらギルさんの目を見つめた。


「私も、生涯ギルさんを愛し続けるって、誓います」


 まるで、今が結婚式みたいだ。


 恥ずかしくって、くすぐったくて。今にもゴロゴロと転げ回りたい気持ちだったけど、ギルさんの顔が近付いてきたからそうもいかない。


 コツンと額と額がぶつかって、目だけで見上げるようにギルさんを見た。


「装飾品は邪魔になるとしか思っていなかったんだが……これだけは絶対に外したくないと思える」

「ふふ、それなら良かったよ」


 ギルさんは嬉しそうに微笑むと、私の額にキスをした。

 ああ、甘い。甘すぎる。


 でも、まだまだこれからだよね。

 結婚式を終えたら、私たちは新居に引っ越すことになっている。そうしたら、この激甘なギルさんと四六時中一緒にいることになるのだ。想像しただけで茹で上がりそう。


 だけど、それは約束された幸せな日々だ。


 私たちはお互いの指につけられたお揃いの指輪を眺めながら、しばらく二人で楽しみな未来について語り合うのだった。

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