第19話【ラッキースケベにご用心】

 ストラマと街から少し行った先に広がる草原。辺り一面見渡す限り広がる様は、日本では中々味わうことが出来ないのは景色だった。


「ん〜、気持ちいいわねぇ」


 俺達は地面にシートを敷き、のんびりくつろいでいる。日差しは暖かく、緩やかに吹く風が心地よい。あー、このまま何も考えずにゴロゴロしていたいな……。


「さて、と。それじゃあまずはお弁当にしましょうか。その後ちょっと休んだら特訓ね」

「はい!頑張ります!」


 紗綾とマリベルさんが用意したのは、サンドイッチっぽくパンに野菜や肉なんかを挟んだやつを始めとして、一口サイズにした肉や色とりどりの野菜、果物達……。水筒にはスープまで用意されていた。うーん、あの時間で良くここまで作れたな。


「さ、どうぞ召し上がれ」

「「「いただきまーす」」」


 さて、まずはパンから……。ガブリと勢い良くかぶりつく。柔らかな食感とともに、しっかり下味の付いた肉と、新鮮な野菜のさっぱりとした風味が凄くマッチしている。野菜の水分がほとんどパンに付いてないのは流石本職か。


「はぅぅ〜美味しいですマリベルさん」

「あら、サーヤちゃんが作ったのも美味しいわよ」

「いえいえ、やっぱりまだまだマリベルさんには敵わないですよぅ」


 料理組がお互いの作ったものを褒めあっている。謙遜しながら褒めあってるせいで、なんかループしてるぞ……。このままずっと褒めあってるんじゃなかろうか……。


「あ、カズマ。そっちのパン取ってくれない?」

「ん、これか?ホイ。ってお前、両手にパンってどうなんだそれ……。欲張りだなぁ」

「だって美味しいんだもの!しかたないわ!」


 和気あいあい、食事は進んでいく。気が付くとあっという間に平らげてしまっていた。


「「「ご馳走さまでした!」」」

「はい、お粗末さまでした。みんな良い食べっぷりで嬉しいわ」


 こうやって広い所で食べるのは何年ぶりだろうか。環境のせいもあるのか、とても美味しかった。


「あ〜、このまま寝たい……」

「食ってすぐ寝ると牛になるぞ」

「何それ?」

「いや、俺の住んでた国だと、そう言うことわざ?格言?があるんだよ。ようは太るって事だよ」

「あんた、いちいち一言多いのよ!女の子に太るとか言うな!デリカシー無し!」


 まぁ、実際は太るんじゃなくて、行儀の悪さを叱る言葉だった気がするが、あえて言うまい。


「お兄ぃはいつもそうですよ……今日だって……」

「ナニナニ?また何か変な事言われたのサーヤちゃん」

「いやぁ!そろそろ特訓開始じゃないか紗綾!ほらほら、休んでる場合じゃないぞ!」


 そう言って勢い良く立ち上がり腕を突き出す。紗綾が余計な事を言い出す前に何とか誤魔化さねば。


「また誤魔化そうとしてるわね……。サーヤちゃん、後でこっそり教えてね」

「あはは……もう……恥ずかしいなぁ」




「さてと、じゃあサーヤちゃん。こっちに来てくれるかしら?」

「は、はい!」


 緊張した様子でマリベルさんのもとへ向かう紗綾。特訓って具体的に何するんだろうな。


「まずはそうねぇ……何かイメージして魔法を使ってもらえるかしら?」

「はい!えーと……何をイメージすれば良いかな……」

「あ、サーヤちゃん。じゃあ冷たいお水出してくれない?私ちょっと喉が乾いちゃって」


 何でもと言われて悩んでいた紗綾に、フィーナが助け舟を出す。


「分かりました!冷たいお水ですね!えーと……冷たいお水!」


 そう言って突き出した紗綾の両手から、水が出る。しかし水道の蛇口でもイメージしたのか、チョロチョロと零れ落ちるだけだった。


「あ、あれぇ……?」

「サーヤちゃん、もっと強く強く!ドバっと出して!」


 水量が足りない事に不満を覚えたのか、フィーナが更に要求していく。しかし若干テンパっていた紗綾に、そんな風に言うと――


「ドバっと……えいっ!」

「あ……」


 文字通りドバっと、をイメージしたんだろう。さっきまでチョロチョロと出ていた水は、まるでバケツの中身をぶちまけたかのような量で、フィーナに向けて勢い良く出ていった。


「きゃあぁ!冷たっ!サ、サーヤちゃんストップストップー!!」

「あわわわわ!ご、ごめんなさーい!!」


 まぁ、さっきのはフィーナが悪い。紗綾は言われた通りドバっと出したわけだしな。


「うー、全身ビショ濡れになっちゃった……」

「ご、ゴメンナサイ……」


 頭から濡れネズミのようになったフィーナ。毛先からはポタポタと水滴が滴り落ちている。


「あ!フィーナお姉ちゃんだめ!しゃがんでしゃがんで!早く!」

「え、どうしたのサーヤちゃ――!!!」


 自分の現状に気付いたのか、慌ててフィーナがしゃがみ込む。

 うん、水浸しになったフィーナはシャツが肌に張り付き、その、色々透けていた。つーかフィーナ、下着付けてないのな……。


「う〜、カズマ……見たでしょ……」


 顔を真っ赤にしたフィーナが上目遣いでコッチを睨んでくる。いや、不可抗力だし自業自得だろ……。まぁ、バッチリ見てしまった訳だが。仕方ない、ココは渾身のフォローを……


「あー、その、フィーナ。なんだ、うん。あれだ、下着は付けたほうが良いんじゃ無いかな……」

「〜〜〜〜〜〜〜!!カズマのバカ!!」

「お兄ぃのエッチ!スケベ!バカ!」


 おかしい……。何で俺が責められてるんだ……。


「あらあら、困った子ねぇ。これはお仕置きかな――突風よ!」

「え……うわぁぁぁぁぁ!」


 マリベルさんがそう言った瞬間、俺はマリベルさんが作り出した突風に押され、草原をゴロゴロと転がされていた。

あぁ、草原を転がるのは気持ちいい……いや、目が回って気持ち悪いわ……おぇ……




 ラッキースケベからしばらく、俺は正座のまま紗綾の特訓を見ている。そろそろ足の感覚が無くなってきたんだが、いつまでこうしていれば良いんだろう……。


 ちなみに濡れ透けになったフィーナだが、紗綾が手のひらからドライヤーのように温風をだし乾かした。余分な水分だけ飛ばせば良いんじゃないかと思ったが、また事故が起きてもいけないので安全策だ。火を起こすとかしたら、今度は服ごと燃やしかねないしな。


「紗綾ちゃんの魔法にしても、この世界の魔法にしても、大事なのはイメージよ。ここさえしっかり出来ていれば、予想外の事は中々起きないわ」

「はい……ごめんなさいフィーナお姉ちゃん……」

「あはは……良いわよ。私の伝え方も悪かったしね。……カズマ!あんたは許さないからね!」


 俺はまだ許されないらしい……。もう足が限界何だが……。


「毎回イメージするのが難しかったら、パターンにして覚えちゃうのも手よ」

「うー、覚えられるかなぁ……」


 マリベルさんは恐らく魔法を使う時に言う、突風とかの言葉でパターン化してるんだろうな。まぁ、ゲームとかでも呪文名で大体の効果が決まってるし、その方が覚えやすいかもしれない。


「そういえばさ、サーヤちゃんは大きくなりたいって言ってたけど、自分を大人にする魔法とか使えないの?」

「あぅ……その……実はこっそり試そうとしたんですけど……」


 いつの間にそんな事してたんだ。朝起きたら紗綾が大人になってるとか、びっくりにも程があるぞ。


「駄目だった?」

「はい……。大人の自分を上手くイメージ出来なくて……」

「そっかぁ残念。あ、でも胸だけ大きくするとか」

「は、はぅ!?いいいいえ、そ、そんな事はしてないですよ!ええ、してませんよ!」


 あ、これはやったな紗綾。まぁ、毎日マリベルさんのアレを見てたらなぁ……。でも、いくらコンプレックスとは言え、ズルは駄目だぞ紗綾。ちっちゃくても需要あるさ、きっと。


「お兄ぃ、まだ反省が足りないみたいだね……」


 また心を読んだのか、それとも顔に出てたのか、鋭く反応した紗綾が怒り心頭といった様子で近づいてくる。だからどうしてお前はそんなに鋭いんだ……。


「えいっ!」


 ドン、と押され思わず後ろに倒れる。ああああ、足の痺れがぁぁ!!


「お姉ちゃん達、やっちゃってください!」

「ふふ〜んなるほどね。覚悟しなさいカズマ!」

「あらあら、楽しそうね」


 そう言いながら痺れて動けない俺に、三人とも手をワキワキさせながら迫ってくる……。ちょ、やめ、今は足が痺れて…………


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 雲ひとつない青空の下、俺の叫び声が響き渡っていった……。

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正しい妹の使い方〜チート魔法が使えても妹は小さいままのようです〜 @shirahuku

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