第5話
「…すっかり話し込んでしまったな。」
気がつけば私は、何事もなかったかの様に、ただソファに座っていた。
少し減った茶が冷めきっている。
「この辺りは街灯が少なくてな。暗くなるのが早いんだ。まだ日はあるが、どうする?泊まっていくか?」
「…ああ、いや…」
書き割りの様に薄っぺらくなり、ト書きじみた言葉を発する「彼だったもの」に、私はノロノロと返答する。
「今日はもう、帰らせてもらうよ…また、来る。」
「はは、期待せずに待っている。」
私は一刻も早くこの場を立ち去り、二度と戻るまいと心に誓った。
しかし同時に、それでもここを訪れるだろう未来を確信していた。
何度嘲りに打ち倒されようと、美の聖遺物となった「彼」を詣でる喜びに、私は永劫、焼かれ続けるしかないのだろう、と。
カロンの谷へ 青羽根 @seiuaohane
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