第37話 翠色の宝玉

 その紙に書いてあったのは、たくさんの住所と名前の羅列だった。

 筆で書かれている。


「これは、ラグナスをここに置くことを承認した家の家主の承認状なんじゃよ。とは言え、わしも生まれておらん年のことじゃがな」

「ラグナスさんがここにいることを知ってる人がいるの?」

「さあのう、その話がその家に伝わっていればの話じゃなぁ」

 ラグナスさんがこの塔の地下にいることを知っている人たちがたくさんいるなんて……少なくともバズーカ射撃で援護しなくてもよさそうだ。

「さあ、この承認状を解読して、どこの誰に連絡すべきなのか調べないことには」


「むかーしむかし、グラナスがここに来たのは知ってるわね? これは、そのグラナスがここへ来たときの話。

 今はもうその時に立ち会った人は一人も生き残っていないわ。お母さんはもちろん、グラナスの到来を知らないし、お父さんのお母さんも、聞いたんだって。

 とにかくその頃ね、南蛮渡来の船が、日本の近海で難破しては助けたり。日本人も、外国の人がきっと珍しくて、仲良くなりたかったのね。

 そして、ここ、この岬にたどり着いたのがグラナス。グラナスは翠色の大きな宝玉を身につけた、西洋人を乗せていたようよ。その西洋人は立派な甲冑をつけた体の大きな立派な人だったのですって。そして、翠色の大きなこぶし大の石を、言葉のわからないわたしたち竜崎の者に見せて、『グラナスを頼む』と言ったのですって」

 ぼくはわくわくしてきた。あのグラナスさんにそんな過去があったとは……! その、一緒にやってきた男というのが、グラナスさんが話していた男のことだろうか? その男はそのまま、何も残さずにどこへ行ってしまったのだろう? 残したのは宝石ひとつだったんだろうか?

 疑問は次々と、炭酸水の泡のようにやって来ては消えていく。


「それでね、何しろグラナスは大きいから他にも見た人たちがいてね、みんなで話し合ったのよ。グラナスをどうしたらいいのか……。そして出た答えがこれ。塔の中にしまってしまうの。でもね、みんないろいろな意見を出したし、その乗ってきた異人さんも、グラナス自身も話したそうよ」

「グラナスさんはなんて言ったの?」

「飛ぶことには疲れたから、少し眠るとしよう、と言ったそうよ。異人さんはグラナスさんの意見に賛成したし、この町に住むことに決めた。そしてもしお墓に入る時は、一緒に入ろうと決めたそうよ」


 グラナスさんは首を下ろして話を聞いていた。その時の思い出を、少しでも克明に思い出そうとしているようだった。

「誠、あまり劇的ではなくてがっかりしたかい?」

「すごく劇的だったよ? ……宝玉はどこで拾ったの?」

「あれは元々、わたしの家のものでね、盗ったフレイムドラゴンとはきっちり決着をつけたさ、グレイと共にな!」

 ――グレイ、それがグラナスさんの。

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塔の中の飛ばないドラゴン 月波結 @musubi-me

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