第36話 みんな、家族

「これでグラナスは家族みんなの友だちになったんだな。いや、うちの家族になった」

 ぼくはなんだか自分のことのように、胸を張りたい気持ちになった。考えてみて? 家族にドラゴンがいる家なんて他にないと思うよ。


「グラナス、話があるんじゃが……」

「ああ、とうとうその時が来たかい?

「その時?」

「塔を、出るんだろう?」

 ……グラナスさんはあまり気分が良くなさそうだった。塔の外に出てもらおうと言うのは、ぼくたちの先走りだったのかも……。グラナスさんは一歩もここを出たくなかったんだ。


「グラナスさん、外に出たくないの?」

 ぼくはみんなと話し合ってきた日々のことを思い出した。グラナスさんを外に出してあげたくて、実咲には内緒でみんなの考えを聞いて回った。何が大切で本当なのかわからなかったけど、……グラナスさんの大切なことは、ここにいたいってことだったんだ……。ぼくはなんだか、すごく恥ずかしくなった。そして、しゅんとした気持ちをどこかにやっちゃうことはできなかった。


「グラナス、わたしたち、あなたが大好きよ。だからね、どこかに行ってほしいなんてだれも思ってないのよ。でもね、あなたにいい思いをしてほしいなとは思うの。……どう? むかしを思い出して、塔の上に出てみない?」

「本気で言ってるのかい?」

「ええ、もちろん本気よ? 魔法書はおじいちゃんが読み解いてくれたし、わたしは必要な草を集めたわ。中には集めるのが難しいものもあったけど、元々、本業だからね、友だちにも協力してもらったのよ」

 お母さん、すごくかっこいい。


「真美……そこまでしてくれたのかい、ありがとう」

「でも、いちばんがんばったのは誠。誠が、一歩を踏み出せないわたしたちの背中を押してくれたの」

 ぼくは、スポットライトがぼくに当たった気がした。

 塔の地下室はいつも通り、湿ってて、かび臭い匂いがした。


「グラナスさん、ぼく、あなたに『外の景色』を見てほしいんだよ。潮の香りや、茂ったローズマリーやラベンダーの香り……当たり前のものを、あなたに見せたいんだ」

 お父さんやお母さん、みんながぼくを見守ってくれた。それが、自分の言いたいことを話すための勇気になるなんて知らなかった。

「グラナスさん、お母さんが『甲羅干し』って言ってたよ。カメだってたまには里に出るんだもん、グラナスさんも外の風に当たってみようよ」


 お父さんがぼくの頭をぐしぐしと撫でてくれた。

「誠、よくがんばって言えたな。グラナス、どうだい?」

「わたしが地下室から出ているあいだ、さぞかし地下室の掃除には都合がいいだろうよ、真美」

 お母さんは楽しそうに笑った。

「確かにそうだわ」


「さあて、大人にしかできない仕事をする時が来たなぁ」

「? なんのこと?」

「文字通り、さ」

 ぼくにはなんのことかぜんぜん、思い浮かばなかった。そして、お母さんが何かがたくさん書いてある紙を持ってきた。

「さて、どれくらいの家が残っているのかしらねぇ? これはイラクサを集めるよりずっと困難な気がするわ」

 お母さんが大きなため息をついた。

 遠目に見ると、それは名前と住所のリストのようだった。


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