第35話 リーフレタスと友情

 実咲は、ふわふわのファルコンではないというドラゴンに怯えた。お母さんにぎゅっと掴まって見えない何かを鋭く見つめている。

「会ってみるかい?」

 ふるふるふるっと、大きく首を振った。

「わたしは、みんなの秘密がわかればいいの。もうわかったからいい」

「でもさ、実咲。秘密を知ってしまったら、それはもう仲間に入っちゃうってことなんだよ」

 お父さんがなんだか意地の悪そうな声でそう言った。実咲の眉根は怪訝そうに寄せられて、今にも席を立って「くだらないわ」と、言いそうだ。


「実咲にドラゴンを見せたいのね?」

 実咲は逆ギレすることなく、理性的にそう言った。……そういところはお母さんによく似ていると思う。

「そうなんだよ。人間の言葉も話せるし、きっと友だちになれるよ」

「ドラゴンの知能は、大きくて珍しいものほど高くなるものね」


 みんなはハッとした。……実咲は自分で調べていたのだ。ドラゴンについて、彼女に調べられることを。


「ちょっと待ってて」

 実咲はどこかに走っていくと、息をせききって戻ってきた。

「お待たせ……」

 さあ、おじいちゃんの部屋からグラナスさんのところに直行だ。

 グラナスは今日も寝ていた。しかし、こちらには起きてもらわなければいけない理由がある。


「グラナス! わしの孫娘が来たんじゃ。起きんかい!」

 耳栓が必要なくらいの声で、おじいちゃんは呼んだ。……おじいちゃんの声に反応しなかったグラナスさんは……。

「美咲だよ。はじめまして、グラナスさん」

 と言われて、眠そうな目を開いた。


「おお、実咲か! 誠の妹じゃな」

 実咲はさっき急いで取りに行ったものを背中に隠していて、グラナスさんに渡した。

「はい、はじめましてのプレゼント。食べられなかったらごめんね」

「おお、ありがとう! 大好物だよ」

 そのプレゼントは、取立てのレタスだった。家の裏の母さんの菜園で作ったリーフレタスを抜いてきたのだ。

 お母さんが奥にある水道で土をあらってあげる。そしてそれを実咲にあげる。

「グラナス、はい、食べて?」

 グラナスは美味しそうにシャクシャクと食べた。実咲はそれを満足気に見つめて、

「これでもう友だちだね!」

と言った。


なんだかぼくは「してやられた」気分になった。これでもう、ぼくだけのグラナスさんじゃないのか……

「グラナスは何でも食べるのね?」

「置いてもらってる身だからね、ワガママは言えないさ」

 ファッファッファッ……と笑って、また少しブレスを漏らした。

「うわっ!」

「おっと、これはレディに対して失礼したな」

 みんながにっこりした。実咲の「グラナス」デビューは、思っていたより難なく済んだのだった。

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