第34話 実咲

 みんなで古文書の読解に挑んだ。


 ぼくは夕方はリョウタとタクミといつも通り遊び、宿題をやった。


 おじいちゃんは地下室に潜って、ラグナスさんの記憶を頼りに古文書の読解を進め、お父さんは帰るとそれを鉄だった。


 お母さんは儀式に使うための植物を探した。この塔で行なう儀式のため、植物は手帳もので済みそうだった……。


 でも、実咲は、いつもひとりぼっちになってしまった。お母さんは植物は探しを午前中に済ませて、実咲の相手をしていたけど、実咲はなんにも知らないんだ。

 ぼくたちがこそこしてても……。


「おかーさん」

 洗濯物をたたむお母さんの隣で、ぼくはお母さんに声をかけた。「どうしたの?」

 ちょっと言いにくくて、頭の中をぐるぐる回した。自分の言いたいことこそ、よく考えて話すべき、それがうちのやり方だ。

「うーんとね」

「はい?」

 実咲は部屋で宿題をしていた。


「ぼく、実咲だけ何も知らないのはズルをしてる気がして嫌なんだ。実咲だけかわいそうだよ」

 お母さんは洗濯カゴに畳んだたくさんの洗濯物をドサッと入れて、ぼくの方を見た。

「お母さんから、おじいちゃんとお父さんに話しておく。だから、それまでナイショね。……誠はお兄ちゃんなのね。しかも女の子の気持ちを考えるなんて」

 お母さんは鼻をつまんできた。

「何をするんだよー」

「きっといつか、そういう時になったら、モテるわよ。でも選ぶときは吟味してね」

 気が早すぎるよ!

 確かに大きくなったら結婚する人も出来るだろう……お母さんみたいに。すべて受け入れてくれる人をみつけないと……。お母さんみたいにスーパースペシャルな女の子っているのかな? あんまりいなさそう。


「実咲、よく聞いてくれる?」

 その話し合いは土曜日の夕食後に行われた。話はお父さんが切り出した。

「うちに地下室があるの、知ってる?」

 実咲はもう、やや逃げ腰だ。

「わ、わたしが知ってるのは、あの地下室に大きな、生臭くて生あたたかい息をする生き物がいるってことよ」

「ふむ、それでよかろうよ」

「実はね、……実咲、ドラゴンて、知ってるかな?」

「知ってる……お兄ちゃんたちがいつもやっつけてるだよね?」

 ぼくはつい、うつむいた。

「そうそう、。実咲の想像は合ってるよ。……でね、実咲?」

 実咲はお母さんに捕まって、目を閉じてふるふると震えていた。

「ドラゴンがなに? あんな凶暴な生物、わたしと何か関係があるの!?」

「あるのよ」

 お母さんが実咲の、顎までの長さに切りそろえられたさらさらの髪の毛を撫でた。

「うちの地下室にはね、勇気があってやさしいドラゴンがいるのよ」

「ファルコンみたいに?」

 お母さんのセリフを聞くやいなや、実咲はガバッと身を乗り出した。

「うちのドラゴンはグランドドラゴンという種類でね、ふだんは洞穴などで宝を抱いて寝ているらしいんだ。……残念ながら、白くてもふもふじゃないんだ」

 お父さんは苦笑した。

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