あなたに書いて欲しい物語

 以下のリンクの診断メーカーからお題をいただきました。

 https://shindanmaker.com/801664

 雨時雨さんには「探し物はここにあるのに」で始まり、「本当は知っていた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート以内でお願いします。

*独自ルール*

 字数制限に関しては、Twitter上で書かないので単純に「140(1ツイートの文字数)*13=1820」文字以内に納めます。なお、文字数カウンターはWordのものを使用します。



「探し物はここにあるのに……」

 私は高い高い塔を見上げて溜息を吐く。目の前には閉ざされている塔の内部へと繋がる扉。

 人は死後、本になる。故人の人生は物語に、個人の性格は装丁に。全てが本に成る。それらの本は、世界各所に存在する塔という共同墓地に収められ、司書により厳重に保管される。

 私はまた溜息を吐いた。一時間程ここで立っているのではないだろうか。と、ぎぃと音がして、中から扉が開いた。顔を覗かせたのはエプロンを付けた司書。

「第百二五の塔にようこそ。……あの、ずっとここにいらっしゃいますけど、何か御用でしょうか」

「うぇっ」

 見られていたとは思わず、変な声が出る。

「えーっと、あの、友人が亡くなったのでその本を読みに来たんですが……、中々本を読む勇気が出なくて」

 不審者と思われていないかな。

 ちらっと司書の顔を窺うと納得した表情を浮かべている。案外そういう人は多いのかもしれない。

「とりあえず中にどうぞ。お茶とお菓子がありますので」

 そう言って司書は安心させるように微笑む。私は頷いて、塔の内部にようやく入った。

 塔に入ってまず見るものはどこまでも続く螺旋階段だろう。塔の中心にガラスの柱があり、そこを取り囲むように幅の広い螺旋階段が続いている。壁沿いには本棚が螺旋階段に沿うようにして、上から下までびっしりと本が収められている。

 司書は入り口近くでお茶会の準備を始めた。

「友人様が亡くなられたのは最近の事ですか」

「はい。……ほんの数日前、車に轢かれて。即死だったみたいで苦しまずに死んだみたいで」

 親友ともいえる友人だった。

「……なるほど。あ、よければこちらに。スコーンと紅茶もご自由にどうぞ」

 私は勧められるままに椅子に座った。丸テーブルの上にはカップに入った紅茶とスコーンがある。私は紅茶のカップを手に取って一口飲んだ。

「実は、友人が死ぬ前の日に彼女と喧嘩、したんです。とてもくだらない喧嘩。だから彼女が死んだって聞いた時、すごく後悔して。恨まれていたら、怒ったまま死んでたらって考えると怖くて。……身勝手ですよね、すみません」

「いえ、そんな事ないですよ。他人が自分の事をどう思っているのか知るのは怖いものです」

 司書が微笑む。

 読むのが怖い。でも折角ここまで来たのだ。彼女の本を読むまでは帰れない、帰りたくない。

 私は手に持っていたカップを置く。

「あの。友人の本まで案内してもらっていいですか」

 その言葉と共に友人の名前を告げる。塔は蔵書数が多いため、司書に本を探してもらう事が多い。

「分かりました、こちらです」

 司書が立ち上がる。私も彼女を追いかけた。

 先程の丸テーブルからさほど離れていない、螺旋階段の中心の柱。そこがエレベーターになっている。ボタンが押されると扉が開いた。中に乗り込み、司書がボタンを押すと静かにエレベーターが動き出す。ドア部分と上下以外はガラス張りになっており、ガラスの柱を通して塔の様子を見ることができた。

 やがてエレベーターの動きが遅くなり、完全に止まる。チンと軽い音が鳴って扉が開いた。

 エレベーターから降りた場所は広めの踊り場のような場所である。そこだけ他の階段の幅より少しだけ広くなっていた。

 私が辺りを見回していると司書が一冊の本を大切そうに持って、こちらにやってくる。

「この本ですね」

 そう言って司書がその本を私に手渡した。

 綺麗な、本だった。夏の空を彷彿とさせるような青と白のチェック柄の表紙は布張りで、手触りがとても気持ちいい。本を開けてみると真っ白な紙に友人の名前が印字されていた。

 ぱらり。

 ページをめくる。

 どうやら彼女の本は日記風になっているらしい。段々と成長し、沢山の人と――私と出会い、別れる様子が淡々と綴られていた。

 本の最後の方、終わりまであと数ページという時にその文章は来た。

『今日は大切な友達と喧嘩をしてしまった。些細なきっかけで。今すごく後悔してる。早く謝りたい』

 ページをめくる。

『友達に会いたいのに予定が合わない。もしかしたら避けられているかも。不安』

 ページをめくる。

『ようやく会える日が決まった。まずは謝らなくちゃ。楽しみ。寝て起きたらその日になっていないかな』

 ページをめくる。

 そこにもう文章は無かった。さっきのページが最後だった。私は思わずその場に座り込む。

「大丈夫ですか?」

 司書が私の顔を覗き込む。私は頷いて、笑った。

「本当、バカだ。私。何年も親友やってきたのになぁ」

 友人が恨んでないなんて、本当は知っていた。

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徒然なるままに 雨乃時雨 @ameshigure

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