真っ白なキャンバスに描く未来

 月曜日の夜、山崎はこの前の店のカウンター席に座っていた。

 隣には敷島がいる。


「こうやってせめて前の日にアポイント取るなら、日常の誤差の範囲に収まらないかな?」


「規則正しいいつも通りを崩したくないって意味でしたら、たまに――くらいならいいですけど」


 山崎は少し苛ついている。

 敷島のことを嫌いではないからこそ不用意に近づきたくないと言っているのに、まるで通じていないかのような昨晩の呼び出しメールだ。


「僕ね、働くのがあまり好きじゃないと思うんですよ。正確には働くっていうか、人と関わること、ですね。今はこうして営業やってますけど、いずれ管理職になったりして部下の面倒を見る自分が想像できないんです。部下や後輩にそっぽ向かれる姿しか想像できないんですよ」


 好意を抱いている相手なのに、自分は何を言っているんだろう? と頭の片隅で自問自答しながらも畳み掛けるように言葉は口から溢れ出す。

 敷島の目を見ることができない。

 山崎の視線は目の前の手塩皿を見つめたままだ。


「もう働くのは嫌だって思った時に、敷島さんや、もしかしたら子どもの人生まで僕が背負っちゃっていたらって考えたら、怖くて踏み込むことなんてできないんですよ」


 元々は敷島の結婚願望から始まった話だ。ここまで言えば、さすがにもう敷島も時間の無駄だと悟るだろう。

 きっとその方がいい。

 敷島は自分なんかと関わり合いになるべきではない。

 そう思って敷島の方を向いた瞬間……。


 目の前が暗くなった。

 なんだかいい香りにつつまれた。

 ふわっと柔らかい谷間に鼻先が押し付けられている。

 頭をギュッと抱きかかえられているのだ、と他人事ひとごとのように思う。

 誰に?


「もしもそうなっても、私は後悔しないよ。

 キミを支えてあげる。

 ねぇ、新しい『いつも通りの日常』を一緒に創ろうよ」


 しばらくの逡巡の後、山崎もおずおずと敷島の背に手を回した。


 fin

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白い日〜〜ふたつ年下の後輩〜〜 @kuronekoya

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