キャンパスの先に

御手紙 葉

キャンパスの先に

 僕は煙草を吸いながら、大学校舎下のベンチで、ぼんやりと目の前を行き交う学生達の姿を眺めていた。街を往来する無数の影のように雑多なものではなく、見慣れたホームグラウンドのようなどこか親しみを覚えさせるものだった。

 大学に通ってからもう二年が経つけれど、ほのぼのとした何の気負いもいらないようなこの雰囲気がとても気に入っていた。授業がない日でも学食でゆっくりと過ごしたり、図書館で勉強したり、となかなか有意義な時間を過ごせた。それは本当に束の間ではあるけれど、自由気ままに過ごせる楽しい一時だった。

 この日々が終わるのは寂しいけれど、これから何をやるかが、とても大切なことのように感じられた。大学に入る前はアルバイトをずっとしていたけれど、お金を溜めて親を説得し、ようやく入れた。

 あまり名の知れたところではないけれど、人気はそこそこあった。隠れたオアシスのような場所でゆっくりと学生生活を過ごしていると、平穏な日々が緩やかに流れ去っていくようにも感じられた。

 それはたぶん「安寧」というものに過ぎないのだろう。どんな困難が待ち受けており、どんな壁がこの先にあるのかはわからなかったけれど、今はとにかくできることをしよう……そう思えただけでも、収穫はあった。

 ベンチから離れて、正門へと歩き出した。二駅先にあるその職場に行こうと思っていた。どこか忙しい仕事も、夏の夜の蝉時雨のように、親しみを感じさせるものだ。

 親しいクラスメイトと挨拶を交わしながら、ゆっくりと歩いていった。この先にあるのは、まだ思いもつかないような情報の海だった。けれど、僕は今、できることをする。この先に出会うことになるだろう、その困難に立ち向かう準備をするのだ。

 その放浪の時間はいつか、心の奥底にガラス玉となって、浮かび上がることもあるかもしれなかった。そんな時間を持てたことへの感謝と、アルバイトの仕事への熱が僕の全てとなっていた。

 「井の中の蛙」と言われても、蛙は蛙なりに、外界へと飛び出す準備をしているのだ。それはきっと蛙の強靭な足と平穏な川の流れが、溶け合っているに違いないと思うからだ。


 了

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