第14話 異様な足音
炭鉱前、雲の切れ間から徐々に両者の間合いを浮き出だす。騎士は暗闇に居る敵の思惑と動向を探る。
「……」
月明りが炭鉱前を徐々に照らしてゆく。鮮明になる敵の姿。黒い鳥の面。両手に翼のような剣。
「………」
べったりと広がった赤く濡れた地面。使い古されたツルハシやスコップ。それらを一瞥した騎士は 沈黙を溶かす。
「貴様には話す舌は持たんと言った………だが、応えて貰う。いや、貴様は応じる義務がある」
「何でしょう。私は貴方の問いに興味があります」
「命を何だと思っている」
「なるほど……しかし、貴方が望むような答えが出来るかどうか」
「……貴様らが来なければ失われることはなかった。私が問うているのは貴様の足元に落ちている、その
「………」
「無垢な少年たちを利用し、
「
その刹那、怒りが殺意へと変わる。
「地獄に堕ちろ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
西の森・中間地点。シャルデュンシーはレティーナの熱い息と高温の身体を
「はぁはぁ」
「レティーナ、あともう少しで着くから」
敵の出現によりシャルデュンシーと風の精霊はアイーネ国まで 大きく迂回せざるを得なかった。伏兵の可能性がある抜け道は明らかに危険だと判断した。急ぎたい気持ちを抑えた末の行動だった。光を消し闇に息を潜めながら慎重にアイーネへ進む。
――――――――突如、周囲の木々が揺れ始める。
「な、何この地響き」
『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉ!!!!!! あ、居た!!!!』
「!?」
目の前で何かが通り過ぎた……と思ったら。
『見つけたっス――――――――!!!!』
その何かが土埃を巻き上げて、こちらへ勢いよく戻って来た。
「いやぁ~~探したっスよ。森の端から端までぐるぐるぐるぐる回ってたっス」
角のある帽子からはみ出した三つ編みの髪。彼女の身体より少し大きい装飾の無い
「女神のシャルデュンシーさんっスよね。ファイマーの名前はファイマーっス! よろしくっス!」
くだけた物言いをする少女は、まるでバイキングのような見た目をしており。巨大な斧は木を切るより戦いに特化しているように映った。女神は距離を取る。
「ごめんなさい。先を急いでいるの」
「いや、ちょっと待ってほしいっス。ファイマー、悪い奴じゃないっスよ」
「え? てっきり魔王軍かと」
「いや、ファイマーは魔王軍っスよ」
「な、魔王軍!? 敵じゃない!!」
「いやぁ~そうなっちゃいますっスかね」
――――――再び、周りの木々が揺れ始める。先ほどよりも大きな地響きだった。
「な、なに?! またこの揺れ?」
「あ、師匠っス。こっちっス!」
『うおーーーーい!! ファイマー!!』
地響きと共に野太い声が森に響き渡る。声の出所に気を取られていた時には既に背後を取られていた。
「まさか、もう一人!?」
見た目はファイマーと名乗る少女と似ているが、仮面から飛び出た
「がはーー。つかれたわい」
彼らの体つきは人間の子供より少し高い程度。しかし、二人目に現れた男は
「ぜーーはーーぜーーはーーぜーーはーー」
「師匠、息切れてるっス。大丈夫っスか?」
「がははは、面を付けてると呼吸しづらくてかなわんわい」
「確かにっス。でもファイマーのは口元が開くヤツっス」
「え~いいのぅ、
「ダメっス。これはファイマーのっス」
「うーむ……おっと、いかんいかん。女神どんが困っておるぞ」
「うっかりしてたっス」
「いくぞファイマー!!!」
「押忍っス!!!」
「!!」
女神は身構える。
「「せーの、マッスルポーズッ!!!」」
「………」
「「我らは魔王軍・第七席次とその弟子!! 鍛え抜かれたその肉体で敵を
一言語るたびに二人そろって筋肉を強調したポーズを次々にとって行く。
「どうじゃ女神どん!!」
「……え、え?」
「どうじゃ女神どん!!!」
「いや、知らないわ」
「女神さん、女神さん。そういう時は、《周りの大木に負けないくらいデカい脚》とか《山のような僧帽筋》とか筋肉を何か別のものに例えたり、大きさに対して褒めないといけないっス」
「……あの、もういいかしら」
「はぁー全くわかっとらんのぅ!!」
「
「なんなの!」
「さて、本題に移ろうかのぅ」
「!!」
再び女神は身構えた。
「で、
「知らんわ!」
「冗談じゃ。さて女神どんや、
「魔王軍へという事かしら」
「話がはやくて助かるわい」
もちろん、逃げることも考えていた。でも敵の実力を知らないまま無暗に動くのは
「魔王軍・第七席次としてあんさんをこのまま逃すわけにはいかん。じゃが女神とて手負いの者に、
「何故、そこまで?」
「
「うん、どちらも用意できない。そこまで言うのなら信じるわ。けどもし、その提案を断ったらどうするのかしら?」
「そうじゃのう。これが受けられないと申すなら、
第七席次は斧を振り上げた。途端、周りの木々たちがパリパリと音を鳴らし綺麗なほど縦に割れていく。それも一、二本だけじゃない、その倍以上は倒されていた。
「これでも逃げきれるかのぅ」
「……」
動けなかった。その光景に思わず女神は唾液で喉を湿らす。これほどの
「分かったわ」
女神はその提案を受け入れた……否、受け入れざるを得なかった。敵の攻撃に反応できなかった時点で差は歴然だった。逃げて追いつかれた際の最悪の状況。逃げなくて正解だった。
「でも、闘うことは出来ないわ」
「どうしてっスか?」
「彼女は今、凄い熱を出して危険な状態なの。早く治療しないといけないわ」
「なるほどのぅ。だから、背負ってここまで来たんじゃな」
「うーん、そうっスね。ファイマーは
「それならいいわ。ただし、レティーナには手を出さないで」
「あんしんせい。勝負がつくまでは一切手を出さん」
「おっしゃ! いくっスよ!!」
「待って」
レティーナを大木へ背にするように寝かせる。同時に隠れていた風の精霊に小声で何かを伝えた。
「………いつでも、いいわよ」
「最初から全力っス!! とおぉぉぉぉぉりゃ!! ブヘッ」
勢いよく駆けだしていたファイマーが木の根に足を掛けて派手に転ぶ。
「……え、大丈夫?」
「なかなかやるっスね」
「何もしてないわよ!」
「…………
「何もしてないからね」
「なるほど、ファイマーの動きに合わせてカウンターをしてくるとは思ってなかったっス」
「深い読みをしているみたいだけど私は何もしてないわよ」
「流石っス。こうなったら禁断の技を使うしかないっスね」
「禁断の技!?」
「名付けて《ファイマー・トルネード》」
「ファイマー・トルネード?」
彼女は
「こ、これがファイマー・トルネード!」
しかし、徐々にトルネードの威力が弱まっていった。
「……め……目が回ったっス」
「おばか」
「やばいっス。当てられないまま最後になっちゃったっス」
「ファイマー自分を信じるんじゃ」
「押忍ッス!!」
「次で最後ね」
この後の攻撃を耐えることが出来たらレティーナをアイーネ国へ連れていける。一度、あと一度だけ。
「これが最後っスね。なら当たって砕けろっスね!!」
ファイマーは
「とおぉぉぉぉぉファイマーーーーー!!」
「
「くッ!! なんて力なの!!」
ファイマーの
「くぅ~~~感動っス!! ビリビリ来るっス!!」
拮抗しているかのように両者はぶつかっていたが女神には見えていた。
「う、嘘……ひびが!?」
「女神さん、この勝負ファイマーが貰ったっス!!」
「耐えなきゃレティーナが」
「そのまま貫くんじゃ!!」
「押忍っス!!!」
さらに、その隙間から
「勝ったっス!!」
「ッ!!」
“終わる”その言葉が女神の頭を掠めた。
―――――――『
ヤンキーな勇者とBBAな女神 せみの ゆううつ @seminoyuuutu
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