0-1

「話は終わりだ。着いたぞ」

「うーん、面白いようで全然面白くなかったね! これならアマチュアの小説家が書いた話の方がずっと面白いわ」

「俺は運び屋でね、小説家じゃない」

「それもそっかぁ……」

「……」

「……」

「おい」

「何?」

「早く降りろよ」

「それがレディに言う言葉?」

「どうすれば降りてくれるんだお前は」

「質問を一つずつ、正直に答えてくれたらいいよ」

「俺とお前で一つずつか?」

「そう」

「じゃあそっちから言え」

「あら、優しい。じゃあねえ……テルアキさん。この子を、よろしくお願いします」

「それ、質問じゃないだろうが」

「でも言わせて。ありがとう」

「本当ならお前のとこに放り投げたいところなんだが」

「でも、この子が貴方を選んだから。この子が道具ではなく、ただの取り換えパーツとしてではなく、この子自身の心をむき出した結果だから。まあ、この子にはこの世界は厳しい世界なのかもしれないけれど、貴方がいれば大丈夫でしょ?」

「子供を育てる気はないし、育てた事もない」

「でも、貴方にとっても必要でしょ?」

「それは質問か?」

「ううん。あたしなりの事実を言葉にしたかったの。それを聞いてくれる誰かが欲しかった。あたしはどうせ他のみんなには見えないからね」

「……お前は本当に幽霊なのか? それとも俺が単に疲れていて、幻覚を見ているのか?」

「グラズヘイム自体が幻想のような、ネオン色の霧のようなもの。でもあたしは幽霊じゃなくてミクロとミクロが共有してできた電子みたいなもの」

「ミハルを造ろうと考えた……あー……コンピューターというところか」

「そうね、システム。でも、エラって呼んでほしいわ」

「エラー?」

「違う、エラ」

「そうか。じゃあなエラ。もう二度と乗ってくるな、そしてこいつにも近づくなよ」

「何よ、案外大事にしているじゃない」

「同乗者がいるのも悪くない」

「天邪鬼」

「お前もな」



「ん……? あれ、ここどこ?」

「ようやく起きたか。ちょっと寄り道していた、ホテルは我慢してくれ」

「街は? ご飯は? お風呂は……」

「近くの風呂屋があるだろ、飯は……贅沢言うな」

「……ねえ」

「なんだよ」

「今誰かと話してた?」

「……」

「テル?」

「いや――なんでもない」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Gladsheim 文月文人 @humiduki727

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ