最終話:すわわっ⁉まさかの新展開⁉
「すわっ⁉ これはトラック転生ッ⁉」
習慣というのは偉大だと思う。佐藤に集中していた意識が台詞ひとつで切り替わるのだから。
道幅の狭い
俺は腕を思い切り回し側転した。予備動作がなかった分は胴体を振り回して距離を稼ぐ。たなびくスカートに風の抵抗を感じながら二回転半ほどで地面から身体を投げ出し、四肢を使って着地。
(……天使先輩は……いる!)
着地の際に
「いつもなら……コレで終わり」
中腰のまま周囲を見回すと、住宅街を流れている小川の水面にぷくぷくと水泡が立ち上っている。
「ヤッベ……!」
直観のまま走り出すと同時、小川のなかから数台の軽トラが射出され弧を描いて俺目掛けて飛んで来た。
「ふざけんなっ! サメ映画かよっ⁉」
パニック映画のクリーチャーのように俺をホーミングしてくる軽トラ。しかし、俺が走り出していたことが功を
「へっ、昇格したってバラすからだよ……!」
いままでにない
「まったく、マヌケな奴だ ――」
ズォッ……‼
視界を覆うように出現したのは影。
流れる額の汗が瞬く間に冷え、鳥肌が立つ。
道路わきのミラーに映っているのは俺の脚と巨大な車両のタイヤ。
加速した状態で飛び出し、俺を押しつぶすように迫るのはタンクローリーだ。
(前方は追いつかれる。左右も……無理! 車幅が大きい)
自身の走力で逃げられる範囲を丸ごと叩き潰せる強大な攻撃。
一瞬、頭にチェックメイトの言葉がよぎる。
「まだだぁ……‼」
それでも俺は駆け出す。
目の前にある小川沿いに設置された
「くっ……!」
空中に投げ出された身体は俺の意思ではもう制御することは出来ない。だからこれが俺に出来る最後の悪あがきだ。
目をつむってしまうのを
「助けてっ‼ 天使先輩ッ‼」
睨むように天使先輩を見つめて俺は助けを叫んだ。
これが俺の切り札。有効かどうかは分からない。いままで先輩が女神襲撃の最中に関わってきたことはないのだから。
それでも俺はなけなしの可能性にかけたのだった。
スローモーションの世界の中で天使先輩の口が『あっ』と動き瞳が見開かれる。
(ダメか⁉)
タンクと車体部の連結が壊れた音が背後で響き、重量が迫る気配を感じる。
諦めかけて目を閉じた瞬間、身体がふわりと浮かぶ感覚に包まれた。
「あ、あれ……?」
「…………」
気が付くと俺は誰かに抱き留められ、その身体にしがみついていた。背中に回した手にはふわふわと柔らかい感触があった。
「天使の羽……?」
天使先輩が俺を抱きしめたまま宙に浮いていた。その背中には
先輩は何も言わず俺を地面に降ろしてくれた。
地に足がついてようやく俺の意識は自分が助かったことと先輩が助けてくれたことに追いついた。
○●○●○●
「ありがとうございます、先輩!」
「…………」
俺は天使先輩の手を握り、ブンブン振り回しながら礼を言う。本当に助かった! 天使先輩マジ天使!
一方、先輩はそれに答えずただじっと自分の手を眺めるだけだ。
「……天使先輩?」
「…………」
どうしたんだ? 呆然自失なんて、先輩には無縁そうな状態だってのに。
「あ、あのっ! せんぱ ――」
「なぁぁにぃ、を! してくれるだぁぁっ!!!」
無言の先輩の肩に触れようとした瞬間、ウチの駄女神がダバダバと駆け寄ってきて勢いそのままに天使先輩に飛び
まったくの無抵抗のまま駄女神キックをくらった先輩は人形のようにふっ飛んで、地面を転がり
「せんぱーーいっ⁉」
「うっしゃあっ‼」
女神はスポーツ観戦中のおっさんの如くガッツポーズで叫ぶ。何してくれてんだ⁉
「てめぇ! 女神ッ! おいこらお前ぇ⁉ 何してくれてんだ、先輩にっ⁉」
「
こいつ、まだ先輩に追撃しようってのか。なんてド畜生だよ。
そんなことをやっているうちに先輩がよろよろと立ち上がった。見ると額から血が流れてるじゃないかっ!
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「……なぜ?」
先輩は呆けた表情のまま視線をコチラと自身の手の
「おい女神! いますぐ謝れっ! 先輩に土下座しろっ!」
「嫌よっ‼ 私、悪くない! ルール違反はそいつの方なんだからねっ⁉」
「うるせぇ‼ いつもしてんだから、いいだろ⁉ コトが収拾できねぇよ!」
なんて奴だ。先輩に怪我させておいて土下座拒否とはどういう神経だ。
そうやって騒ぐ俺たちをよそに先輩は相変わらずぼおっとしたままだ。
「どうして……私は、結城勇人を助けた?」
「えっ?」
「…………」
先輩が口にしたのは疑問。それは自身に対する問いかけだった。
「出来ないはず……私は監視者、事態への介入は許されていない。助けるつもりも、なかった」
「先、輩?」
先輩の瞳は焦点が合っていない。
流れ出る血も俺たちも目に入っていない様子でただ『なぜ』『どうして』『出来ないはず』とばかり繰り返している。おいおい、ヤバくないか?
「おい、女神! 先輩は……!」
「大丈夫、アレは外傷のせいじゃないわ」
俺の問いかけにしばらく先輩を眺めてから女神は頷いた。
「本当だろうな……?」
「本当よ。
女神は真剣な表情でこちらを見返してきた。まあ、ここまで言うのならその通りなんだろう。
「とりあえず、佐藤を復活させましょう」
「……わかった」
普段なら文句のひとつも言うとこだけど、いまは仕方がない。
○●○●○●
「いつもいつも、すまん。佐藤」
俺はトラック同士の正面衝突の被害者、佐藤 ―― だったものに手を合わせた。
復活の呪文を唱えろと
「おい、早くしろよ」
「ええ……けど、なぁんか臭うのよねぇ?」
「はあ⁉」
なに言ってんだこいつは。人ひとりミンチになってれば色々とその、臭いはあるだろうよ。おまけにお前が加害者だぞ?
<ふふふ……!>
「なっ⁉ おい、お前⁉」
「いやいや! 違う! この
突然、頭に
<天使による結城勇人への介入を確認。ふっ、ふふ……!>
突然の声の主は楽し気に笑いながら独り言をつぶやいている。確かにコレは女神の声じゃない。
<これでやっと、僕たちも……深淵サイドも勇人に関われるね>
「なんだよ? これは」
「……勇人、こっち来て」
きょろきょろと辺りを見回す俺の腕を掴み、女神が自身の方へと引き寄せる。
女神は目配せで促してくる。そこには佐藤の血だまりが広がっている。
しかし、その血だまりはどういう訳かブクブクと沸き立っていた。
<ふっ、ふふふ……!>
沸き立った血だまりは瞬く間に黒一色に染まり、見えない手に引き延ばされた飴細工のように立ち上がり人型を形成した。けれど、そのシルエットには人間にはありえないモノがついていた。
「……悪、魔」
フィクションそのものな外見でも実際に目の当たりにすれば誰もが理解できることだろう。目の前にいるのは悪魔だ。
悪魔と目が合う。黒一色の身体に目なんて見当たらないのにそう理解できた。
<そう、コレが正解だよ>
悪魔はなんてことない気安い調子で話しかけてくる。
<あの時の僕の台詞はね ――>
その小首の傾げ方や楽し気な声には覚えがある。
だからってコレはないだろう?
悪魔が指をパッチンと弾くと黒一色の姿がはじけ飛んだ。
「『僕は悪魔なんだよ?』だったんだ、勇人」
そこに現れたのは佐藤だ。ホントにいつも通り、なんてことない調子の佐藤がそこに居た。
「悪魔として僕は勇人を連れ去りに来たんだ」
そう言って佐藤はイベントに誘うような調子で手を差し出しニッコリと笑う。
「改めてよろしくね、勇人♪」
事態についていけない俺は女神の方を見やった。女神の奴も寝耳に水なようで口をあんぐりと開けている。そうか、女神。お前も気づかなかったのか。
俺たちは互いを一瞥し、頷き合うと大きく息を吸いこんだ。
「「すわわわっ⁉ まさかの新展開⁉」」
俺と女神の叫びがハモりながら住宅街に
女神と天使に続いて悪魔が現れた。
一体これから俺の生活はどうなるんだ⁉
<fin>
転生強要女神が現世に俺を殺りに来た‼ 世楽 八九郎 @selark896
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