小田参考人に対する意見聴取‐四

(佐竹参考人)

 ただいまの発言は不適当でありましたのでお詫びして取り消しますけれども、そもそも世論調査の質問項目にもございましたが、摩耗核惨事の対応につきましては非常に国民の皆様方からもお叱りをいただき、これについては非常に大きな損害を被ったことは間違いございませんからやむを得ないと感じておりましたけれども、原発の稼働停止要請に関して申し上げれば、これは賛意が明らかに反対を上回っておりまして、全体として支持率が急落したことは間違いありませんけれども、原発の稼働停止が支持率急落につながった、という発言は全くの事実誤認で的を射ておりません。


(新田委員)

 佐竹参考人のご意見を受けまして、小田参考人、いかがでしょう。


(小田参考人)

 全体として支持率が急落しておりますので、そういった民心を失った過去の政権担当者が一政策をとらえて支持を得た得ないという話を、現時点、この場において云々することに意味があるとは思えません。

 以上です。


(新田委員)

 いや、そうじゃなくて、佐竹前内閣は確かに支持率急落に見舞われ退陣したけれども、個別に世論調査の質問項目を検討したら、原発の稼働停止要請に関していえば、これは明らかに世論の支持を得ているじゃないかということを申し上げてるんです。そういった民意は世論調査で明確に表に出てきてるけれども、資源エネルギー庁としては現内閣と同様に、核燃料サイクル政策を維持推進する立場を貫かれることについて、その政策は明らかに民意を無視していると考えますがどうでしょうかと聞いています。

 お答え下さい。


(小田参考人)

 従来のエネルギー政策を推進する政権が発足している以上、そのように解釈する余地はありません。


(新田委員)

 余地ならありますよ。世論調査の結果ですよ。明らかに稼働停止要請は賛成だという民意が示されてるじゃありませんか。


(小田参考人)

 それを提唱した内閣は支持率急落が原因で退陣しましたから。


(新田委員)

 開いた口が塞がりません。

 そもそも、福島第一原子力発電所事故後の稼働停止を反故にして再稼働に転じたから、ここまでの大惨事に至ったんじゃないんですか。明らかに原発の稼働停止は民意ですよ。


(小田参考人)

 本件摩耗核惨事の原因は、未知の生物による原発襲撃にあります。もし稼働停止が今日に至るまで継続されていたとしても、各原子力発電所に保管されている使用済み核燃料が本件摩耗核惨事と同様の経過をたどって環境中で燃焼すれば、稼働中であっても停止中であっても、本件と同規模の惨禍をもたらしたであろうことは明らかであります。

 したがいまして、「摩耗」が再出現性のない特殊生物であると認定された以上、ありもしない再出現をいたずらに恐れて、すぐにでも再稼働出来る原発を動かさず、除染や復興に支障を来すことはあってはならない、という現政権の認識は、資源エネルギー庁の見解とも一致します。

 篤志船による敦賀沖海底調査の結果、海底に直径約二〇〇メートルの円形状の陰影が発見されたと報道されておりますけれども、こういった海底調査は「摩耗」出現後、頻繁におこなわれるようになったものでございまして、それでは過去にこういった巨大な陰影が海底において発見されたことがあるのかといいますと、調査がおこなわれていなかっただけで実際にはあったともなかったとも言い切れないわけであります。以前からそういったものはあったのかもしれない。頻繁に海底調査をするようになって初めて発見されたものかもしれないじゃないですか。

 先ほど佐竹前総理のお話にもございましたように、万が一「摩耗」が再度出現して、我が国に上陸するような事態になれば、それこそ国家の存亡に関わります。一旦総理の談話として再出現性を否定したにも関わらず、そういった事態を恐れるような動きは、寧ろ政府として何か隠し事をしているのではないかという不信感を、国民延いては国際社会に与えることにもつながりかねません。「摩耗」の再出現性は否定され続けなければならないのです。そのためにも、また今後いよいよ進展するであろう除染復興のためにも、原子力発電所の再稼働は、これは実現されなければなりません。

 福島第一原子力発電所事故後、福島県内の児童生徒に対して甲状腺がんの検査が頻繁におこなわれるようになりました。結果として甲状腺がんの患者数は有意な増加を示したわけですけれども、これも甲状腺がんを過剰に恐れるあまり、頻繁に検査がおこなわれた結果、治療の必要がない腫瘍が発見されたことによる一種のスクリーニング効果であるという見解も一部にはございまして、今回篤志船によって発見された敦賀沖海底の陰影につきましても頻繁に海底調査をおこなった結果のスクリーニング効果であると。


(西田委員長)

 小田さんちょっと黙って。ただいま連絡がありました。ちょっと速記止めて、止めて。


(西田委員長)

 はい、速記を起こしてください。

 ただいま、敦賀沖に出現した直径約二〇〇メートルの巨大球体が、福井県方向に侵攻中との連絡が入りました。暫時休憩をいただきます。



   午後三時十一分休憩


   (休憩後開会に至らなかった)



                 (終)

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摩耗核惨事 @pip-erekiban

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