異世界トリップ
西木 草成
プロローグ
『シーケンス....調査開始
全並行世界390789世界への干渉データを調査
太陽系第三惑星地球と類似した世界への該当....893世界。
生物生存可能性世界への該当....14世界
人類史....及び、文明線生存可能性世界への該当....1世界。
座標の固定を開始。
並行世界干渉開始。
空間間固定磁場、安定まで80秒。
カウントダウン、開始』
ここまでのやり取りを透明なチューブの中で目を閉じながら、この作業工程の内容を口ずさんでいた。何十回、何百回。この日のために自分は何度も訓練を受けてきた。自然と頭が覚えている。
うっすら目を開けると、見慣れた機械で囲まれたところで大勢の人物があたふたと作業を行っている。この光景も慣れたものだ。だがそれも、今日で終わりだ。
この日、世界初の試みの本番となるからだ。
緊張はしている。当然だ、何せ人類でこの試みを行うのは自分が初めてだ。
成功例もない。失敗例もない。
ただただ未知の領域がそこにはある。
チューブの中で深く、深く息を吸い込み、吐き出す。息で曇ったチューブのガラスの向こうでは赤い電子版が残り時間50秒と表示されていた。
さて、そろそろか。
再び目を閉じようとした時、コンコンとチューブの扉を叩く者がいる。再び目を開けてみると、これまた見慣れた白衣を着込んだ女性がチューブの前でニコニコして手を振っていた。
『調子はどお?』
チューブの向こう側からくぐもった声が聞こえてくる。かなり大声で話しかけているようだ。
「身体検査なら、このテストの前に三回も行いました。結果はご存じでしょう?」
それほど大した音量では答えていない。すると、女性は満足げに頷き視界から消える。その代わりに、耳にはめてあった通信機に軽いノイズが走った。
「通信機に問題は無しね。どう? 緊張してない?」
「だったらドクターが変わりますか?」
「お断り。こんな危険なこと、あなた一人で十分よ」
その言葉を最後に耳からノイズは消えた。チューブの外に見える電子版には残り20秒と表記されていた。
目を閉じる。
深く息を吸い込む。
感覚を研ぎ澄まし、余計な雑念を振り払う。
『空間間磁場安定、誤差0.00032%
並行世界へのコネクト完了
有機生命体転送装置起動完了
無機物転送装置起動完了
対転送時ショック緩衝装置起動完了
空間通路固定完了
全行程完了
転送まで、残り10秒前』
9
頬を伝う汗が、右手へと落ちる。
8
ふと見た右手に持っているのは、小さなロケット。
7
そうだ、これは必然だ。
6
自分は、生きなければならない
5
そして、生きて帰らねばならない。
4
これを成功させなければ、もはや希望はない。
3
もう二度と、絶望しないために。
2
あの時誓ったのは、
1
この手で、未来を救うこと。
0
『トリップ完了
異世界への転送が完了しました』
異世界トリップ 西木 草成 @nisikisousei
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