えぴろーぐ


「では博士、挨拶をお願いします」


マイクを博士に譲る。

段の下には、多くの、本当に多くのフレンズが立ち並ぶ。

昨年の初めには見た事も無かったフレンズもいれば、姿こそ知ってはおれど、会話をしたことがなかったフレンズもいる。

それが今では一つの群として、ここへいげんに集まるまで至った。


昨年、博士の一言で始まったこの一年は、その期待通り、もちろん思惑で無い事もありながらも、色々な事が起こった、それでも素晴らしい一年であったと自負しても良いだろう。


コホンと博士が咳払いをする中で、今年一年を頭の中で振り返った。



まず2月には、『せつぶん』があった。

撒く豆撒く豆、ことごとくヘラジカが薙ぎ払うわ、ライオンは野性解放までして本気で避け切るわ、多勢に無勢、まさに『おに』のようであったが、これを下したのは、パンサーカメレオン率いる『ももたろう』軍団。


ニホンツキノワグマ、マーゲイ、ハクトウワシで構成されたメンバーは、我々の知るそれではなかったが、「まぁ、無理やり台本を繋ぎ合わせたりしてたからなぁ」とツチノコが呟くのを見て、野暮に突っ込むのはやめた。


ツキノワグマの速球、ハクトウワシの空襲で撹乱し、二人も警戒していたであろうパンサーカメレオンは伏兵に徹し、最後はマーゲイの声真似で引き寄せ見事騙し討ち。

非常に見応えのある闘いであった。



3月には、『ひなまつり』。

より落ち着いた行事になるはずだったが、誰がお姫様となるかで揉めに揉めていた。


すったもんだあり、最後に残ったのはヒメアリクイとヒメアルマジロ。

本人たちも、何やら大事となってしまったことに怯えていたが、お殿さま役のタイリクオオカミの「わたしはお姫様がいっぱいの方が嬉しいけどね」の一声で解決に至ったようであった。


壇上に溢れんばかりのお姫様がたを見て、やれやれと嘆息が漏れたのは言うまでもない。


終わった後に博士が、お前は元々一夫一妻制の動物のはずでは、と疑問を投げかけたところ、タイリクオオカミは人差し指を口に当て、嘘も方便ってね、と笑顔で答えていたのが印象的だった。



騒動と言えば、『はなみ』が一番に挙げられる。

途中までは皆、桜に食事にと普通に楽しんでいたのだが、その宴を聞きつけてやって来たのは、『伝説』の面々。


ギンギツネとキタキツネの前を御拾いになるは、『オイナリサマ』と名乗る白狐。


タヌキと肩を組みつつ千鳥足に向かって来るのは、八百八のタヌキを束ねると豪語する『イヌガミギョウブ』。


ツチノコとスカイフィッシュの制止を振り切り闊歩する、数多の蛇を身に纏う『ヤマタノオロチ』の姿もあった。


元々巨大な体躯を持っていたフレンズは、存在感や影響力も大きいとは聞いていたが、正直比較の対象も無いような三人に対しては、みなもはや畏怖さえ抱いていた。


丁寧な口調でそのことを陳謝しつつ、それでもどうしても御礼が言いたかったと言うのは、オイナリサマ。


纏めるに、我々はヒトの信仰で成り立つ者である事、ヒトも文化も失ったこの島では姿を保つ事で精一杯であったという事、曲がりなりにも行事を復興しようとするあなたたちの努力が我々に力を与えたという事などを言っていた。


結果的に、非常に盛り上がった宴会となったが、イヌガミギョウブとヤマタノオロチが持ち込んだ『サケ』と呼ばれる飲み物については、博士の命により、ツチノコの管理下のもとしばらく配布することを禁止した。

その理由は、はなみに参加した者ならば想像に難く無いだろう。



7月の『うみびらき』では、泳げるフレンズもそうで無いフレンズも海岸へと集まった。

今まで交流の少なかった海生のフレンズとの親睦が深められたのが、最も意義のあった事と言える。

泳げないフレンズがイルカのフレンズたちに乗って波を切る姿を見ると、少し羨ましくも思えた。

確かこのうみびらきがきっかけで、ハンターにイッカクが加わったと記憶している。



『おつきみ』で張り切っていたのは、開催地であるゆきやまちほーの面々。

ユキウサギ主導に行われたこの行事では、ウサギとキツネ、そして再び登場したオイナリサマの舞が兎角美しく、白銀の雪原と輝く月によって一層に映えていた。

おんせんの周りを源泉から流れ出す川が囲み、それらをまた美しく反射していた。

その後の『おほり』は十二分に役目を果たしていると聞いている。

ホッキョクグマがヒグマの指導で餅をこねていたのは、失礼ながら笑ってしまった。



全部を思い返すには大変な、それほど多くの想い出が残った一年であったと言える。



「…って、お前たち!何をもう食べてるのですかー!」


想い出に耽っていると、博士が何やら騒ぐので現実に引き戻された。


「博士の話は長いんだよー」


「おいフルル、食ってんじゃねぇよ!」


「いやぁ、美味しそうだからついつい…な?ラビラビ」


「私を巻き込まないでくれるか」


「わ、我々が、この時のために、どれだけ、どれだけ!つまみ食いを我慢したと…!それなのに…それなのに…!」


ポロポロと涙を零す博士。

流石に私も慌て始める。


「あ…泣いちゃった」


「泣くほど食べたかったのかよ…」


「ギンギツネ、だから食べちゃダメだって言ったのに…」


「食べてたのはあなたでしょうがっ!」


会場も狼狽え始める頃、しばらく博士をなだめてから、進行を再開する。


「…コホン。少し取り乱したのです」


目を赤らめながら言う。随分博士も感情を表に出す様になったものだと、しみじみそう思う。


「まぁ、博士にも、思う節があるのです。その、あの時はこんな感じだったのかと、少し反省したのです」


「それはともかく!今日は群として、目一杯に二度目の新年を祝うのです!」


「ヘイ!博士、ごめんなさいね!」


『かんぱい』の前に、ハクトウワシが割り込む。


「マイルカから緊急連絡よ!『しゅひん』が、到着したって!」


その連絡に、俄かにみなが沸き始める。


「まったく…どいつもこいつも間の悪い奴らばかりなのですよ!」


悪態とは裏腹に、にっこりと笑う博士。

積もる話は、ありすぎる。あちらもきっと、同じだろう。


さぁ、これからまた、新しい一年を始めよう。

そして、みんなで呼びかけよう。


ようこそジャパリパークへ。


これからも、どうぞよろしくね。




おわり

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けもの ひととせ と こ ろ ん @TK_bird_RN

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