8 しんねん

「おっ!博士と助手ぅ!こっちこっちぃ!」


「ヘラジカ様から聞きましたよ、あのセルリアンが出たって!」


「遅かったな、こっちは大方終わって暇だったくらいだ」


「それでどうだったんだ?その後は」


二日ぶりにへいげんへと帰ってくると、矢継ぎ早に言葉を飛ばされた。


『おほり』が完成したところでみなを帰し、しばらくゆきやまちほーを回っていた。

想像通り、少量のサンドスター・ロウの放出口が複数見つかったので、とりあえず埋め立ててはきた。

どれほど効果があるかはわからないが、そもそもの量も少なかったため、しばらくは大丈夫だという結論に至り戻ってきたわけだ。


まあ、今は待つのです、そう牽制して。


「またこちらの話はするとして」


「そちらの様子はどうなのですか」


まずは、『うたがっせん』。


バッチリですよ、と元気よく答えたのはリカオン。

あれだけ駄々をこねていたというのに、今ややる気満々といった様子であった。


みずべちほーで我々が設営した舞台が、へいげんちほーにも出来上がりつつある。

屋上にあるのは、おそらくお日様パネルだろう。聞くと、はくぶつかんから借りてきたという。

木造の小さな建築物の中では、せっせとアルパカがビンやコップを並べている。


参加グループもPPP、トキ二人だけでないというから楽しみだ。

後ろで必死に踊っているライオン軍の二人がその一つだろうか。


観客席にはすでにフレンズが群がっている。

さばんなちほー、さばくちほー、様々なフレンズが集まり、それぞれ群れを成している。

その中でハクトウワシが整列を呼び掛けていたので話しかけると、ちょっと集め過ぎちゃったかもネ、とはにかんでいた。


しばらく方々を見渡していると、何処からかぐわんと響く音。

ライオンが鐘の音だと言うのでそちらへと飛んでみる。


ビーバーとプレーリーが鳴らしていたそれは、おそらく『どらむかん』を改良したものだ。

シロサイとオオアルマジロが、しんりんちほーのフレンズの力を借りて見つけてきたとの話だった。

何度も打つと割れてしまうかもしれないというニホンカワウソの提言のもと、ならばと自分たちの防具を元に工夫を凝らしたという。


近くではタイリクオオカミがアミメキリンと共に怪談話に興じていた。

なんでも、除夜の鐘に合わせて108回怪談を話すのだそうだ。

そうやって話をすると、本当のあやかしが出るのだ、とみなを脅かしていた。

それは100回ではなかったか、と博士に耳打ちしたが、この際細かい事は気にしないのです、そうやってふふっと笑われた。


『ねんがじょう』については、ツチノコがうまくやってくれたようだ。

ステージの端で隠れるように、みんなに文字を教えている。

その近くでは、何やらコツメカワウソがごそごそとやっている。

覗き込むと、タイリクオオカミが描いた絵に合わせて、爪で木を彫っていた。

あれはーーーなるほど、『はんこ』か。器用なものだ。

どうしても文字が書けないフレンズもいるだろう。その代わりということか。


しばらくして、鼻が何かに反応する。

博士と目を合わせ、すぐさま飛び立つ。

ヒグマとホッキョクグマが焚き火の前で腕を組んでいるのが見えた。

何をしているのかと聞くと、みんなが怖い怖いと言うので改めて眺めていたと言う。

『おせち』はと聞くと、結局よくわからなかったが、とりあえず作れるものを詰め込んだと言い、後ろを親指でさす。


見ると、幾重にも連なった赤黒い塔が複数並べられていた。

重ねられた箱は、城から調達してきたらしい。

その中に、かれーだとかなんだとか、とにかくありったけをみんなに配って食べようと準備しているところだった。

じゅるり、と言うと、まだだめだ、と叱られた。


がっくり肩を落としていると、ぺたりぺたりと軽快な音が裏から聞こえてくる。

音の元へと行くと、居たのはウサギのフレンズが三人。

ホッキョクウサギが調子を合わせ、ヤブノウサギが整え、ユキウサギが搗いているそれは、見間違えでなければ『もち』だ。

何処からかもち米なるものを持ってきて、まるであらかじめ知っていたかのように、あっという間にもちを作ってしまったとギンギツネとヤマアラシが話してくれた。

白銀の雪のようなそれは、されど美味しそうに湯気を立てていた。

こっそりいただこうかとする私を、博士はよだれたっぷりに、だめなのです、だめなのですよ、と止めた。

必死に我慢する博士を見て、今度はこちらがつられて笑う。


本当に、この一年の始まりは、素敵になりそうだと感じながら。


どんな一年になるのかと、期待に胸ふくらませながら。


そうして、新年の、祝いの宴会が始まった。





ーー


ーーー それから、ひととせ。

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