フェイズ22 ゲット&レディ

「おい、あんただろ?さっきのは。」


未だにこの組織の全体図も、そしてその中での自分の立ち位置も理解していない竜胆ではあったが、どうやら最低限自室は設けてもらえるらしい。

そしてその自室にて例の刀に対し彼は会話を試みていたが刀からの返答はなく、傍から見れば1人で話している変質者のような構図になっていた。


「(……ってこれじゃあ話してくれないよなぁ。)」


仮に彼がこの刀の立場だったとしてもそうするだろう。それほどまでに今の彼と会話する事は刀にとって無意味であった。


「(しゃーない。今日はもう諦めっかぁ…。)」


明日になればどうにかなるという訳でもないが、正直竜胆は精神的に相当疲れていた。タイムスリップした日に比べればマシではあるが今日も今日で彼にとっては盛り沢山な1日だった。


ーーーーーーーーーー


「…キテ。……キテクダサイ。」


「……むり……ねむ…すぎ。」


「オキテ。オキテクダサイ。」


「にどねさせて……。」


「オキロ!モウ8時ダゾ!」


「…ったく、誰だよこんなうるせぇ目覚まし置いたの…。」


寝惚けながらも手探りで音のした方向から目覚まし時計を探し出す。しかし彼が目覚まし時計だと思っていたそれにはどこにもスイッチのようなものもなく、その上思ってたよりもずっと大きい代物だった。

何か嫌な予感がした竜胆は睡魔に抗いながら体を起こし自分が今触れているものを確認する。


「……さすが未来っすわ…。」


彼が触っていたそれは勿論目覚まし時計等ではなく、直系1m程のメカニックな球体だった。

言わずもがな、ロボットである。


「オキロ!オキロ!オキロ!」


「あーはいはい起きますよっと。」


ーーーーーーーーーー


「何だ、やっと起きたのか松山。」


寝癖を直そうと洗面台を探す竜胆を呼び止めたのは霧崎だった。


「朝、弱いんですよ俺……。」


「軍に入った以上、時間管理はしっかりしときな。」


「10分前に起きた人が何か言ってますけど。」


「言ってやるな、マーメイ。あいつも新人相手に何とか威厳を保とうとしてんだよ。」


「はいそこ外野ァ!

俺はいいんだよ、身支度早いから。ついでにこの部隊滅多に仕事来ないから午後まで寝といたって問題ないからな!」


「本末転倒ってこういう事言うんだな…。」


入隊早々威厳を失いかけてる隊長を横目に、竜胆は再び洗面台を探し始める。しかし今度は


「ん…おはよ。」


メイと鉢合わせてしまった。


「あ、ああ…おはよう。」


我ながら本当にぎこちない挨拶になってしまい、とんでもなく恥ずかしかったが外野がそれを更に煽り始める。


「今の挨拶どう思います?クマさん。」


「恥ずかしいねぇ。俺だったら真冬の三白河に飛び込んでるな。」


「そうですよね〜。私だったら明門山から身投げしてるなぁ。」


「分かる。」


「分かんねぇよ!人の分かんない例えで人の感情代弁すんな!」


結局2人はその後、霧崎からある程度の資金(本人曰くグレイ局長の財布から抜き取ったものらしい)を貰い、それで朝食を食べに行く事にした。


「っても軍の食堂か。レパートリーはどんなもんなのかねぇ。」


「私は餃子パンがあればそれでいいけど。

っていうか、竜胆。1つ聞いていい?」


嫌な予感がする。竜胆はそれを本能的にも感じていた。


「どーぞ。」


この状況下での彼女からの質問など地雷以外のなにものでもない。唯一の救いは一応処理可能な地雷である事だが、相当な難易度である事に変わりはない。


「竜胆ってさ……クマさんってどんな人だと思う?」


「………………えっ?」


10秒間の熟考の末、予想の斜め下をいく彼女の質問にテンパった竜胆は誰も求めていない意見を言ってしまった。


「………あの人、上腕二頭筋半端なかった…。」


「うん、ごめん。やっぱ何でもない。」


結局、その後彼女と食事する30分の間、竜胆はその返答を後悔することになった。


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