フェイズ21 テイク& オーバー
「で、松山の協力を借りてここまで引っ張ってきたのか、そいつ。」
場所はグレイ局長の部屋…つまり、竜胆が最初に第5部隊の面々に遭遇した部屋に移る。
そして今はいないグレイ局長に代わり、何故か局長席に腰をかけた霧崎が彼女と会話していた。
「まあ道中で松山さん5回くらい土下座してたんすけどね。」
「それ言わなくていいからっ!」
何とかメイをここまで連れてきた竜胆であったが、正直竜胆には彼女の行動の意味が未だに分からない。
なぜそこまでして入隊を拒むのか。
ましてや彼女のような不安定な収入の人間なら棚ぼたのような話なのに。
「しっかしそこまでして入隊を拒まれるとはなぁ。俺らも嫌われたもんだ。」
「……私は軍は嫌いですし、軍の犬になるつもりもありません。」
竜胆の知るメイとはまた違う毅然とした態度の彼女がそこにはいた。
自分も彼らと交渉する際、あのように振舞っていればもう少し有利な状況にできたのではないか?と、今更な事を竜胆は考える。
「なるほど、いい答えだ。ただ惜しいのは微妙にズレてる点だな。
まず1つ。俺らは「軍の犬」なんかじゃねぇ。むしろ飼い主に噛みつきたくて仕方ない人間ばっかりだ。
それともう1つ。根本から否定する話になるが俺らは軍の人間ですらない。軍の部隊とは別の独立部隊。通称「壊し屋」。それが俺らだ。」
「まあ上の命令に従わない厄介者集めただけの部隊なんすけどね。」
「裏じゃ人材の墓場とか言われてるし。」
霧崎の説明にマーメイと江月がいらない補足を付け加える。
「それはそれでイヤなんですけど…。」
「まあ俺もあんたに強制してる訳じゃない。まだ決められないって言うならしばらくここにいてくれて構わない。そうやって考えた上でこの誘いを断るのも十分アリだ。」
「……分かり、ました。少しだけ考えます。」
「素直でよろしい。
ああ、あと竜胆。お前さんはなりたい役職こん中から選んどけ。明日までにな。」
竜胆は霧崎が放り投げた透明な小さめのケースをキャッチする。中には小さな電子チップが入っていた。
「なりたい役職、ねぇ…。」
正直、平和な世を生きてきた彼にとっては軍の役職の中になりたいものも無いし、ましてや得意不得意もある訳が無い。
「へーい、ぱすみー。」
死ぬほど気の抜けた声と共にマーメイが右手を差し出す。
「ほい。で、役職って何があんの?」
「大まかに分けて戦闘員、補助員、技術員。
まあ私は戦闘員勧めるけどね。ていうか戦闘員選んで。それ以外選んだら絶対嫌そうな顔される。」
「誰に?」
「…人事部。あいつらホンット性格悪いんだよ。特に部長のあの女!……ってチクられたらヤダしここら辺にしとこ。」
「じゃあ最初から言うなよ…。」
「へい松君、一応最終確認。戦闘員で申し込むよ。」
「ああ、丁度いい。(人の意見ガン無視か!?)」
……何だ、今の!?
妙な感覚が身体中に染み付いて離れない。しかもこの感覚を自分は…覚えている。しかし彼の体は彼の意志に反し、話し続ける。
「戦闘員が1番昇給しやすいんだろ?」
「……そうだけど。
もしかして君って意外とがめついタイプ?」
「そうかもしれないな。(んなわけねぇだろ!俺は生粋の平和主義なの!)」
「………黙れ。」
「はっ?」
「……何でもねぇよ。
ああ、紙とペンあるか?」
「まあある事にはあるけど、どうしたの急に。」
「唐突に学問に目覚めた。」
「……はぁ?」
そして竜胆(であって竜胆でないもの)は紙に何かを書き始めた。非常には汚い字であったが何て書いてあるかはギリギリ理解出来た。しかし問題なのはその内容だった。
「”黙っていろ臆病者”」
「(……おーおー臆病者とは言ってくれんなぁオイ。)」
今度はため息をつきながら別の紙に何か描き始めた。
「”黙れ”」
「(黙んねぇよ。こちとらうるさい事に関しちゃ結構自身あんだよ!)」
「”この指へし折ろうか?”」
「(……………。)」
たった指一本で黙ってしまうあたり、自分の意思がいかに弱いのかがよく分かる。
結局、彼の思惑通り竜胆は戦闘員を希望させられる事になった。
「松君………色々大丈夫?」
「……大丈夫じゃないよりの大丈夫っす。」
自分の問題が山積みのこれからに半ば思考放棄しながら竜胆はマーメイを残しその場を後にした。
「……ていうか、松君ってあだ名1回もツッコまれなかったし。何かそれはそれでショックなんですけど…。
……やっぱりあの時乗っ取られてたのかな。」
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