俺(♂)はゲームのマイキャラ(♀)に転生しました

坂本Alice@竜馬

プロローグ ブレイブラッド・オンライン


 MMORPG、数多存在するそのジャンルの中でも、一線を画したタイトルがあった。


 ブレイブラッド・オンライン。通称、BBO。


 圧倒的な自由度とグラフィック、ダークな世界観が醸し出す、少年心をくすぐる雰囲気と濃密なストーリー。

 何もかもが最高、これをして文句は無いといわしめるゲームだった。


 そういったオンラインゲームの中には、必ず出現するのが彼ら「トッププレイヤー」たちである。

 その規格外さから「廃人」と罵られる域に到達したトッププレイヤーが、このブレイブラッド・オンラインにも十数人存在していた。


 そして"彼女"もまた、そのひとり。


 まるで絹糸のごとく透き通った銀髪を後ろ手に結い上げ、その血染めの赤のような紅の瞳は静かに、しかし強かに闘気を孕ませている。

 陶磁器もかくやといった白磁の肌に、美しく整った芸術品じみた端正な容姿。

 しなやかに鍛えられた肢体に、厚手の黒いロングコートを纏い、腰に一振りの曲刀を携えた麗人。


 名は"アリスフィール"、アリスフィール・フォン・ヘイゼンベルグ。


 かつて災厄によって滅びた吸血鬼の王族たちの血統唯一の生き残りで、東洋の剣術に秀でる優れた武人。

 神祖の吸血姫であり、吸血欲求を除けば人間との差違はほぼ皆無。

 その素性と正体を隠しながら、化物退治の専門家「狩人ハンター」として世界各地に旅をしている―――――


 ―――――という設定フレーバーテキスト


 これもひとつのゲームとしての要素である。

 こういった個々のオリジナリティ溢れるキャラクターを駆り、広大な世界を存分に楽しむ、というのがブレイブラッド・オンラインの醍醐味なのだ。





 ◆





「うっわぁ…… 動画までアップされてる。流石は公式も認めたってか……?」


 初夏のころ、日差しが照らすからっとした暑さの外は一切遮断し、冷房機により涼しく快適となった室内で、デスクトップパソコンのディスプレイとにらめっこする青年がひとり。

 そこに映し出されているのは、銀髪紅眼の男装麗人のピックアップ画像。

 そしてその麗人が、赤い刃の長刀を切り払いながら、異形の怪物をなぎ倒してゆく一部始終の動画。


 MMORPG、ブレイブラッド・オンラインHPの特集には、「亡国の吸血姫、アリスフィール」と、でかでかとした見出しがされていた。

 このゲーム、トッププレイヤーのなかでも特に知名度の高いプレイヤーは、公式のGMから転載の許可をとるメールをアカウントへダイレクトメールを送られ、許可が降りればこうしてホームページに特集記事が載ることになるのだ。

 これを俗に「GM公認」と呼び、公認プレイヤーは軽く有名人になってしまうのである。


「別に構わないとは言ったものの…… ここまで大々的だとちょっと恥ずかしいな」


 そして、その記事を食い入るように見つめるこの青年こそが、「亡国の吸血姫、アリスフィール」の、いわゆる中の人なのだ。

 まあ、よくあることだ。

 オンラインゲームの美少女アバターを操作するプレイヤーは、八割がたオジサマといっても過言ではない。

 若々しい青年であるだけマシだろう、マシなのか……?


「しかもこのプレイ動画、ついこの間発生してたフィールド限定のゲリライベントだよな…… どうしてプライベートフィールドの映像が流出してるんだ? ストーカーみたいで怖いな……」


 しばらくはログインできそうもない、と彼はひとり呟き、ゲーミングチェアを離れた。

 コンビニへ食料を買い出しに行くのだ。

 今は大学の夏期休暇、時間はあまるほどあるのだから長期戦連徹にそなえて準備をしなければならない。


 青年は財布をひっつかみ手頃な上着に袖を通すと、玄関のドアを押し開けた。

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