これが俺たちの戦場だ

三河怜

第1話 ときめきもない出会い

 古里有真は戦場にいた。

 暗い室内スペースの中、発砲音と機械の駆動音、0.6mの弾丸がバリゲードに当たる音が響いた。

 自然と体が強張り身を縮める。

 目標地点までは残り半分。自分の腕、相手の数を考えると迂闊に前には出れない。

 だが、相手もそれは同じ。ここで自分が射撃することで足を止めることが出来る筈だ。

 素人なりに頭を働かせる。小細工を重ねれば多少はやりあえる。

 一定のリズムを取らないように威嚇射撃を行うことで相手を足止めを試みる。周囲の味方も協力して援護射撃を飛ばしてくれる。

 そんな中、一人正面から突っ込んで来る。

 咄嗟に射撃するとどこかに着弾したのか、突っ込んできた男は両手を挙げて

「ヒット!」

 と、声を上げて戦場から出ていくところでゲームの終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 今、自分はインドアサバイバルゲームの場にいた。




4月。大学へと区内の中堅大学心理学部へと進学を果たした、そこそこに学業をこなし。周囲の人間とも当たり障りのない関係を作りつつもまだ決められていないものがあった。

――サークルが決まらない。

中学高校と帰宅部でそれなりに友達とバカをやりつつ過ごした。そういう経験もあって、じゃあ、大学からは部活やサークルといったものに属そうか、という考えだ。

しかしこれがまた決まらない。

特にこれまで何かに打ち込んできたわけではない。運動能力も手先も何もかもが人並な人間であるという自覚がある。

講義を終えて、歩きながらスマホで適当なソーシャルゲームを起動させてプレイしようとするが目の前に人が立ち止まっているのに気づき足を止めた。

「っと、すいません」

「ああ、こちらこそ」

 スマホを慌ててしまえば、目の前にいるは自分より頭一つ低い男子だ。短髪に大きめの青のパーカーと童顔と相まって幼く見える。恐らくは自分と同じ一年生だろうと判断した。

 彼は掲示板を見ていたようだ、そこには行事やら学内外でのイベントについて書かれているが一枚だけ部員勧誘のチラシが張られている内容は。

「インドアサバゲ―?」

 声に出して首をかしげる。ぽん、と肩に手を置かれた。振り向くと、眼鏡をかけたセミロングの黒髪の女性がいた。ミリタリージャケットが良く似合っていた。

「興味がおありかな? お二人さん」

「えっと、どちらさんでしょう?」

 戸惑いつつも返事を返す。と、おっと、ごめんと女性は離れて。

「私は軍畑志麻(いくさばた しま)。その張り紙をした現代戦闘部のサークルをまとめてるわ、えっと君たちは――」

「古里有真です」

「あ、五木虎太郎(いつきこたろう)……です、現代戦闘部って何ですか?」

 虎太郎の言葉、うん、と一つ、志麻先輩は頷いて。

「まあ、ぶっちゃけインドアサバゲ―を楽しむサークルだね」

「インドアサバゲ―?」

 サバゲ―のイメージというと山中でエアガンを撃ち合うものとして記憶している。

 そのインドアとは? と首をかしげていると。

「サバイバルゲームは分かる?」

 その言葉になんとなく、一応と虎太郎と一緒に返してそのまま質問を返そうと口を開き。

「外でやるものではないんですか?」

「ああ、そういうイメージなんだね。インドアサバゲーはその名の通り室内戦をやるの」

 室内戦。少し想像が及ばず、首をひねる。

「立ち話もなんだし、カフェテリアでお茶でもどう?」

 誘われるがまま、カフェテリアへ。珈琲の入った紙コップを片手に席へと座った。

 周囲はクラスメイトで談話しているもの、黙々と昼食食べているもの、勉強に勤しむ者と様々だった。

「どっから説明したものかな。とりあえずインドアサバゲ―について語ろうかな」

 こほんと、志麻は咳払いして話始めた。

 ガスガン、電動ガン、エアコッキングガンと呼ばれる銃を持ち、人によっては装備を加えての鉄砲遊び。

 それらを室内で行うもの。

 外と中といった単純な違いだけではなく、インドアサバゲ―は外と違いスペースこそ狭いものの、消耗する体力は少なく。拳銃、BB玉や電池、ガス。最低限のものからではじめられて、十分に楽しめるとのこと。

「まあ、それでも。いいお値段するけどね、けどなかなか体験しがたい世界だとは思うよ」

「やっぱりお金が問題か……」

「最近は初心者応援キャンペーンなんてものもやってるし、ある程度の人数集めるとレンタル無料なんてものもあるわね……お試しにやってみる?」

 まとめると、美女からのスリリングな世界へのお誘い、とも見る。

「じゃあ、試しに――」

「歓迎しよう!

 その後、目を輝かせた志麻先輩に手を取られて部室へと連行され、インドアサバイバルゲームについてのルール、銃の扱い方までみっちり教わる事となった。

 こんな、なんともいえないときめきもない出会いだった。

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