第5話 大人への階段?
初めてのサバゲから2週間、バイト代が入ったことを志麻先輩に告げると、とある都心の駅へと虎太郎と共に呼び出される。
時刻は夕刻、花の金曜日ということもあり遊びに繰り出す人たちでごった返している。
「お疲れ様」
「お疲れ様っす」
「お疲れ様です」
合流すれば挨拶を返す。
「これからどこへいくんっすか?」
「ついてくれば分るよ。いこう」
そう言って笑う志麻先輩についていく、歩いていく先には飲み屋の連なりだ。
「どこかで飲むのかな?」
「それだけのためにわざわざ呼ぶか?」
飲み屋の連なりを超えて人気のない一つの雑居ビルの前で立ち止まると志麻先輩は上へと進む。扉をあげると来店を告げる鐘が響く。
視界に広がるのはガラス張りの部屋、その中には金属製の的、床には銃やBB弾が大量に落ちている。周囲へと目を向ければ壁に立てかけられた大中小様々な銃だ。
「いらっしゃいませー」
男性店員の声に振り向ければそこにはバーカウンターがあった。
「……大丈夫なお店だよね?」
「そう信じたい」
不安そうに虎太郎が一歩後ずさる。自分もそれにならいたい気持ちはあるが志麻先輩が案内してくれた以上下がれない。
――店員が厳つい。
ぼさぼさの髪をタオルで包み、厳つい顔には熊とでも戦っていたのか三本の傷。体躯大きく180cmはあるだろう。
「あれが後輩?」
「そっ、うちの新しい部員――」
「なら、店員モードでなくていいか」
やたらとハスキーな声の店員と話している志麻先輩がこっち、と手招きしてきたので促されるがままカウンター席へと腰掛ける。
「先輩この店は?」
「びっくした? ここはシューティングバーってところ」
「あの俺達未成年なんですけど」
おずおずと虎太郎が挙手すると、大丈夫。と店員さんがふっと笑みを作って。
「お酒を飲まなきゃ別に未成年も入って大丈夫だって」
「そういうこと。二人はお金が貯まったって聞いたからさ、自分の銃を選んでもらおうかと」
「これってお店的な演出じゃないんっすか?」
その言葉に待ってましたとばかりに店員がカウンターに銃を並べる。
「ここでは銃を撃つことが出来るそういう店だ もちろん、お金はとるがな……あそこのガラス張りの部屋がシューティングスペースだ」
「一応紹介する機会ないから今言っとくね。シューティングバーの店員にしてうちの部活の二年、加戸幸介。一応おっさんっぽいけど私より年下」
――これで俺達より二個上。
示し合わせたかのように虎太郎と顔を見合わせる。
「余計な紹介しないでくれませんかね……ま、そういうわけだ。銃を選ぶのであれば実際に見て、触れて、撃つのが一番だろうっていう先輩からの粋な心遣いってやつだな」
それを言ったら台無しでは、とも思うが今は好意に甘えるとしよう。
「加戸先輩的な銃の選び方ってありますか?」
「そうだな、俺は左利きだから左利きに対応しているかどうか、フルオートができるかどうかとか装填できる弾数、カスタムできるパーツがどれだけ売ってるか、だな」
「志麻先輩はどうっすか?」
「そんなの決まってるでしょう――形に惚れたやつ。惚れたら六発しか入らないリボルバーだろうがライフルの長物だろうが扱って見せるわよ」
志麻先輩の言葉に加戸先輩は頭を抱えて。
「こいつは特殊だからな……ある種の器用貧乏というか一通りのやつは使えるし」
「好きの力は偉大よ? その銃のために強くあろうって頑張るから」
一理あるようなそうでないような基準だ。参考程度に留めよう。
「俺は同じ銃の系統かな、マガジン共有だし、有真はどうする?」
「んーとりあえず色々見てみないと分からないからな」
「ほれ、銃の資料だ」」
加戸先輩が冊子を渡してくれる、そこには銃の写真と装填できる弾数、銃の歴史、どんな映画やアニメに登場しているかなどが書かれていた。好きな映画やアニメのキャラクターから銃を選ぶという選択肢もある。
「すいません、これ、撃たせてください」
「おう、じゃあ色々、手ほどきしてやらあ。志麻先輩、そっちの方、お願いします」
虎太郎が銃を決めれば、加戸先輩と共にシューティングスペースへと向かう。
いってらっしゃーい、と志麻先輩が見送って、どれどれと冊子をのぞき込んで来る。
――いきなり顔を近づけられると色々と勘違いするからやめてもらいたい。
「何を迷ってるの? 惚れたやつに一直線でいいのに」
「いや、さも当然のように言われましても、勝ちたいし」
「真面目だねぇ…それならアドバイス
ぴん、と志麻先輩は人差し指を立てて。
「勝てる銃を選ぶより、その銃を勝たせるつもりのが楽しいわ。勝利の味も格別だしね」
「……勝たせたい銃」
形、その銃の歴史、登場作品、そして自分が使ってかっこよさそうなもの。
それらを踏まえていくつかの銃を選んだ。
――あとは実際に使ってみてどうか、だ。
有真が最終的に選んだ銃はガバメント系列のもので近接に特化したものだ。
色々試してみたが、ある程度連射が出来て、軽いものが自分に合っていた。
「銃の腕前に関してはどっちも同じくらいか」
加戸先輩がこちらと虎太郎の倒した的を見ながら唸った。
今は全員がバーカウンターの方へと戻っている。ちらほらと他の客の姿もあり、加戸先輩は接客しつつもこちらにアドバイスをしてくれていた。
「服装のはこの間のでいいとして、あと、ゴーグル、マスク。他には?」
「BBボトルにローダー、俺は二丁もつことになるからホルスターかな」
「まあ、そんなところだろうね。銃は通販に頼るとして帰りにドンキでこの辺のものは買えるね……そんなところかな」
志麻先輩と必要な物品を確認するとぐぐっと体を伸ばす。
――スタイルの良さが強調されるなー
虎太郎と一緒にガン見である。どこを、とは言わないが。
「部員が六人か。フルで出たらポジションとか色々考えないとな」
「ポジションってサッカーみたいにフォワードとかディフェンダーとかってことっすか?」
「まあ、便宜的なものだけどね。結局は状況で変わること多し。けど、自分のやることをしっかり決めておけばどう動くかおのずとわかるから意識しておくのは無駄じゃないよ」
「どんなのがあるんですか?」
「まずは、アタッカー。前線をかき乱し、相手のヒットを取るのが仕事だ。それとディフェンダー、自陣を守るのが仕事。この二つが主だな」
「派生形で敵の位置を知らせるリーコン、後方支援に特化したスナイパーがいることがあるね」
四つのポジション、どれも魅力的に見える。
アタッカーはフラッグをとったりそれこそ大立ち回りなんてやったらかっこいい。
ディフェンダーをプレイすることでここから先へ通さぬ、とやるのもおいしい。
リーコンで相手の位置を知らせて味方を動かすのも粋だ。
スナイパーとなって相手に見つからず頭を打ちぬくのもクールだろう。
「男の子ってこういうの好きだよねー……どうする二人とも?」
「例によって聞きますが先輩たちは?」
「私はアタッカー兼リーコン。カドはディフェンダーかな、あともう一人、三年がオールラウンダーで気分次第で変わるかな」
「言っておくがオールラウンダーなんてものは普通は出来ないと考えろ。そいつが異常なだけだ」
先輩達の話からするとサークル内のポジションは一応バランスはとれている。それなら――
「俺、アタッカーやりたいっす」
「俺はスナイパーがいいです、それなりにお座敷シューターやってから?」
お座敷シューターという言葉に首をかしげてると加戸先輩がタバコに火をつけて。
「室内で的を倒して遊んでいるやつのことだ」
「アタッカーにスナイパー一人追加かー前衛よりのチームか」
「というか、部員3人しかいないんですか?」
虎太郎の言葉に、何を言ってるの? と志麻先輩は首を傾げ。
「君達を入れて五人。十分!」
不安そうな視線を虎太郎と共に加戸先輩に向けるが虚空を見て。
「まあ、こんな具合の部活だ。よくもまあ学校側も活動許してくれてるな、とは思うが」
「なるようになる!」
自信満々に志麻先輩言ってるが色々と大丈夫か、という不安はぬぐえないわけで。
「まあサークル活動なんてそんなもんだ、楽しめよ。一年」
「はぁ……」
まあ少なくとも、帰宅部をやっていた頃よりは楽しくなりそうだ。生返事だけ返しておく。
――ただ、もう少しなんというかわくわくが欲しいんだよな。
これが俺たちの戦場だ 三河怜 @akamati1080
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