人類戦士アカツキ
血も。肉も。骨も。魂を震わせる器官と化していた。
肉体はパーツでしかなく。心臓の鼓動が全てを繋ぐ。戦士が立つのは人の身を超越した修羅への道。果て亡き道へと、人の身として挑む。
此処こそ、人類の最前線也。
◇
心臓は鼓動を続ける。その形を保っていなくとも。そこには血があり、肉があり、骨がある。故に魂もそこにある。ヒーローコード、アカツキ。二本の足で聳え立つ。
「先には、行かせねえ」
歩いて悠々と通り抜けようとした男を。女の声が止めた。目の前に戦士の顔があった。肉体も、装備も、完全復活。その気迫に四天王が、風の魔神が下がった。
「戦士よ、名乗れ」
敵だ。脅威だ。肉体の構成レベルで遥かに下位にあるはずの人類。それが今、確かな脅威として立ちはだかっている。
思い出すのはあの『
「不撓不屈のヒーロー、アカツキ
人 類 戦 士 だ ! !
俺様が、人類の最前線だぁぁあああ!!!!」
名乗りを上げる。拳を握り。ありったけを握り締めて。決して退けはしない。ここが人類の最前線。この身の敗走は、即ち人類の後退を意味する。
「人類戦士。来るがいい」
「いいぜ……人類の底力を示してやるよぉ!!」
戦場に戦士二人。その力と技がぶつかり合った。
◇
「しっかしお前がもう二十歳か……」
しみじみと男が零す。場末の居酒屋。ついに酒が飲める歳になった女を連れて、昔の約束を果たしに来たのだ。
「まぁな。パズズの旦那とは全然決着つかねえもんで」
人類戦士。超有名人のはずの彼女は、その素性が秘匿されている。ヒーローの機密保持。野球帽にジャージという雑な変装でも十二分。
「敵も戦法を変えてきた。俺様をちょろちょろ動かして何か企んでるよぉな」
「それでも、お前の働きで死傷者の数は急減している。誇れ」
男が野球帽越しに女の頭をがしがし撫でる。唇を噛みながらそっぽを向く。
「もうガキじゃねえんだぞ」「知っているさ」
もう、大人。お酒も飲める歳だ。二人の前に生ビールのジョッキが運ばれる。成人したら酒の飲み方を教えてやる。そんな約束だった。
「お、来た来た~!」
頬を紅潮させ、呼吸は荒く。我先にとジョッキを掴む。無邪気な姿に男の口元が緩んだ。
「待て」「ああん?」
グラサンの男がジョッキを掲げた。人類戦士のそれに、小さくぶつける。
「乾杯ってやつだ」
「っぷあああ!! もう一杯!!」「おい」
荒々しい飲みっぷりだった。流石は人類の最前線。酒の席でも前に出る。
「にはは! 次はどれいくー?」
「嘘だろお前そのナリで酒弱いのか」
顔を赤くしてふらふらと頭を振る。飲み方を知らない無茶な酩酊。速攻でぶっ倒れないだけマシなのかもしれない。
不死身の肝臓は無限にアルコールを分解してくれるわけではないらしい。
「まずは水を飲め」
「知ってるぜ! 水割りだよな!」
水の水割り。もしくはロック。飲み様もロック。
「オッサンは何飲むんだー?」
「俺は焼酎だな。ちなみに刃は日本酒ばっかだ、仲良かったろ?」
「良い感度だった」
深くは聞くまい。グラサン男としては歳の近い同性同士仲良くしてほしいところだったが、考えていたような関係とは少し違うようだった。
「へぇ、そっか。オッサンは焼酎飲むんだなぁ~じゃあ俺様もだぁ」
にへらと笑う人類戦士。男が頼むのは飲みやすいと評判の麦焼酎。もちろん水割りだ。
「なぁなぁな~」
「……全くしょうがない奴だな」
甘えた猫のように身体を擦り付ける女を、男は受け止めた。
「お前は、このまま一人で戦う気か」
「たりめぇだぁ。だからこその人類戦士だよ」
不死身、最強。戦うことしか知らないかつての少女は、人類の最前線に至る女傑と成った。
自分が戦えば犠牲は減る。きっと世界だって救える。そのために女は拳を握るのだ。
「ま、昔のよしみだ。俺が一緒にいてやるよ」
「冗談。もう俺様の方が強いぜ」
「戦いだけじゃない。俺にはもう、拳を握る以外のことを教えられる」
強くて強くて強くて強い。そんな怪物。それでも、彼女を人間たらしめるものがあれば。きっと、人の身のままで。
「それに、酒なら俺の方が強い」
「言っらな、オッサン」
乾杯。人類戦士の一気飲みに、今度は男も付き合った。
僅か三十分後に酔いつぶれた女傑は、人類戦士。人の身にてその領分を踏み越える人類の最前線。
ヒーローだ。
◇
やがて女傑の前に『英雄の運命』は立ちふさがる。人に守られ、人に育てられ、人に愛された。最早、二人は莫逆の姉弟だった。
人形でも、怪物でも無い。二人のヒーローは、力強く拳を握る。掴むは信念か。
「この俺様を下すと言ったか。人類の最前線を踏み越える気か」
「師匠が送り出して、ショートが道を切り開いて、俺はここまで来た。アンタを止める、絶対だ」
互いの構えは寸分違わず同じ。同じ夢を見て、同じ男に教わった。突き詰めた果ては同じく、その道は決定的に
(あの背中を追い掛けて、追い抜いて、いつしか追い掛けられるようになった)
女傑の背後には夥しい血痕が生々しく残っている。幾つかの骸があった。それでも人類戦士は振り返らない。
(アタシは、きっとここで負けるんだ)
一片の悔いも無し。後ろを振り返る余力があったのなら、前に進む力に変えてきた。その問答無用の強さは、あの骸の中の一つに叩き込まれた。
(何が欠けても、きっとここまで来られなかった)
だから、拳を握る。
人類戦士は魂を震わせた。心臓の鼓動が無限に高鳴る。
立ちはだかる歯車の群れ。運命が噛み合っていく。信念撃ち合う。
「行くぞ」「来い」
人類戦士は拳を放つ。
その身朽ちようとも、魂を震わせて。
【仮装コメントパーティ】人類のアカツキ ビト @bito
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