魔王様には時間がない!

五木史人

プチシュークリームが食べたい。


我は、レベル99の魔王。


我には解らない術式で、封印されている。

何らかの罠が仕掛けられている可能性も捨てきれないので、

下手には動けない。


それはともかく、ああ~、プチシュークリームが食べたい。

そんな事を考えていると、目の前が光に包まれた。


封印が解かれたのか?


目の前には、嫌な感じの男が、

「お前、ふざけんじゃねーぞ!」

と、この魔王さまに向かってほざいた。


正確には、我が封印されている少女に向かってだろう。


そう・・・我は、

めっちゃ平均的な女子高生の無意識内に封印されていた。


日本の女子高生の平均値ぴったりと言ってもいいほどの、

平均的な顔立ちをしている少女。


平均値ぴったりだからこそ、

魔王たる我を封印しやすかったのかも知れない。


そういう封印術式を聞いた事がある。


それはともかく、今の問題は目の前の嫌な感じの男だ。

口の中が切れて痛い。口の中が血の味がする。


状況から、この男に殴られたのだろう。


この少女は、呆れるほど、控えめで優しい少女だ。

それゆえに、付け込まれやすい。


男の手には拳銃。

拳銃で脅されて、男の部屋に連れ込まれたらしい。


本物か?殺傷兵器特有の気配がする・・・


少女は、恐怖から気を失ったらしい。

そのお蔭で我の封印が解かれたのか?

しかし、なかなか危機的な状況ではないか!

武者震いがする!

我の全身に、戦士の血が駆け巡った。


・・・・拳銃など、レベル99の魔王の前ではおもちゃに過ぎない。


たかがレベル一桁の人間が、この魔王を脅すとは!


我は、瞬時に拳銃を奪った。


依り代の少女の身体が、少しきしんだ。

レベル3の少女の身体に、

レベル99の瞬発力は、負担を与えすぎるのだ。

後で、この少女は激しい筋肉痛と疲労感に襲われるだろう。


我は瞬殺する勢いで拳を握ったが、

少女のその美しく、弱々しい手が、視界に入り躊躇した。

その少女の拳を傷める恐れがある。


何が起こったか解らない表情の男の髪を掴み、

「目には目を、歯には歯を・・・口の傷には、口の傷を・・・」

奴の顔を床に、数回叩きつけた。


少女の拳の代わりに、床が破損した。


真面目な我は、魔界法令に基づき、嫌な感じの男を罰した。

若干血の量が違ったが、誤差と言う事で・・・・


血まみれの男を拘束すると、

我は急いで男の部屋にあるパソコンに向かった。


いつ、また封印されるか、解らない。


我は急いで、パソコンを起動させ、

配下の魔王四天王から届いていたメールを開き、

魔界の現状を把握し、指示のメールを送信した。


さらに検索サイトMaoooo!を開き、Maoooo!ニュースを見た。


最近の魔界状況を把握すると、

掲示板を開き自作自演の書き込み開始。


>街を歩いていたら、勇者にゴールドをカツアゲされた(泣)


>勇者最低(怒)


>ゲスだね。


>それに比べて、魔王さまの優しさは、まるで天使のようだ。


・・・・って、天使って我の天敵じゃん!

遠回しに天使を賛美してしまったo(_ _*)o

自作自演・・・失敗。


まあいい。

いつまた封印されるかも知れない、急がないと。


地元の幼馴染の闇サイトを開き


>今、我さ 封印されててさ


>マジで!?大丈夫?


>憑代(よりしろ)の女がさ、馬鹿正直すぎてさ、イライラするんだよね


>それ最悪


>まあ、ぱっと見は冴えないけど、よーく見ると可愛いかも♪


>マジで!!!


と手短に近況を報告した。



背後で、血まみれの男がうめき声を上げた。

我を見上げる男の目は怯えていた。


「心配するな、殺しはしない。

こう見えても我は死刑反対論者だ。

お前は魔界の監獄で、死ぬことも許されず、

魔王の依り代を侮辱したことを悔いて暮らせ。

お前と同類の人を痛めつける事が大好きな魔族の看守に、

可愛がってもらえ、

類は類を呼ぶ、きっとお前の相応しい場所だ」


血まみれの男を袋に詰めると、

蝙蝠宅配運送に連絡し、魔界検察省に贈るように言った。


そして、奴の痕跡をこの世から完全に抹消した。

依り代の少女が、トラウマを呼び起こすのは避けたい。


この件に関する少女の記憶を消す術式を施した。

・・・が、封印されている身の我の術式が、

成功するかどうかは未定だ。


まあでも、やるべきことは終わった。


後は・・・


我は、この前封印が解かれた時、

ネットで探し当てたケーキ屋の前にいた。


そうプチシュークリームが格別との噂の、

お洒落なケーキ屋だ。

我は、若干の興奮とともに、

お洒落なケーキ屋に入った・・・・


客席では、お洒落な女子たちが、

お洒落に、ケーキを頬張っていた。


恐怖の魔王とは、相反する存在たちだ。

魔王時代には不可能だった行為だが、

今の我の姿は普通の女子高生♪


誰の目も気にすることはない。



ん?!えっ・・・この感覚は・・・・・封印?


・・・マジで・・・



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何で私、ケーキ屋さんに、いるんだろう?


意識を取り戻した少女は、不思議に思った。

口中の傷の痛みと、全身を襲う筋肉痛とひどい疲労感。


「まただ・・・。」


教室から出た後の記憶がない。


でも、とても嫌な存在を、

誰かが消してくれたような爽快感が心には、残っていた。



完 (>_<)

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